ようこそギルド海猫亭へ 〜アラフォー手前の受付嬢エル・ボガードは、歳下ギルマスの求愛を拒むのか、拒まないのか〜
ハマハマ
第1話「瓶底丸メガネ」
日も落ちかけた本日夕方。
当ギルド──その名もハンターギルド『
やってきた彼女は丹精込めて仕上げたらしき履歴書を恭しく提出なさいます。
応接間のソファに座りそれに目を落とすのは、当ギルドの採用担当だとごく簡単に彼女に告げた、スタイル良し、所作も良し──ですが実に地味な、分厚いレンズのとぼけた瓶底丸メガネ男性。
相対するレディもよく似た、地味な見た目のメガネ女史。
ただし一点、男性の丸メガネとは異なり、彼女のそれは両サイドが外側上部に向けてツンと尖ったフォックスタイプ。
あの手のメガネを掛けこなせるなんて、なかなかなハートの持ち主なんでございましょう。
履歴書から顔を上げた男性が、少しずり下がった丸メガネを押し上げ口になさいました。
「エル・ボガード殿。三十四歳、独身。ギルド
「わたくしはギルドで働きたい訳じゃありませんの」
訳の分からぬ事を仰るボガード女史。
どうやら採用担当男性も私と同じ心持ちの様でございます。
「わたくしはギルド職員をしたいのじゃなくて、ギルドの受付嬢をしていたいのです!」
「…………あー、なるほど。山狗亭では受付嬢ができなくなる、という事ですか?」
なるほどそういうことですか。察しの良い殿方は素晴らしいです。無駄なやり取りも減りますからね。
コクリと頷いたボガード女史が続けます。
「そうなのです……。わたくしは履歴書にある通りに明日で三十五歳。……アラフォー、なんですって……」
少しの沈黙の後、なにかが腑に落ちたらしい採用担当男性が口を開きました。
「なんだかセンシティブな話題な気がしなくもないですが、忌憚なく言わせて頂いても?」
「ええ、もちろん」
ボガード女史の返事にコクリとひとつ頷いて続けられました。
「そんなギルドは辞めてしまって正解です。僕のギルドではアラフォーだろうがアラ還だろうが受付嬢を出来ないなんて事は、断じてあり得ません」
そう、彼なら女性の年齢なんかで割り振る仕事を変えたりなんてしませんよね。
「ただし、もちろん能力については正当に評価致しますけどね──それにあと一点。三十五はまだアラフォーとは言わないと思いますよ、僕個人としては」
もちろんそう。当ギルド海猫亭は実力主義。と言っても出来ないからって投げ出したりなんかはしませんけどね。
「でしたら! 採用、と考えてもよろしくって!?」
「ええ。少しの間はお試し期間を設けさせて頂きますが、明日からでも来て貰え──あ、っと少しだけ確認させて頂きますね」
なんでしょう?
履歴書になにか不備でもありましたでしょうか?
それともお給金なんかの雇用の形態についてでしょうか?
自称採用担当氏、そっと静かにご自分のメガネを外して前髪を掻き上げたんです。
現れたのは真夏の青空のような、紺碧の、瞳。
何もかもを見透かす様な、そんな神秘的な、瞳。
その瞳が彼女を優しく見つめ、彼女の分厚いレンズのフォックスタイプメガネを射抜いたのです。
息を呑むボガード女史はこう思った筈にございます──
これはヤバいでございます。
もうマジめっちゃハンサムやん。
──あの惚けた瓶底丸メガネ。
あれの奥底にこんなハンサムが潜んでいたとはお
けれど。
なぜか採用担当ハンサム氏も息を呑んでいたんです。
しかもしっかり声に出ていました。
「やば──い──! 姉さん、遂に見つけた! どんズバストライク──!」
どんズバ? ストライク? 何を仰っておられるのか分かりませんが、
うほん、えへん、と幾つか
「すみません申し遅れました。当ギルド『海猫亭』のギルドマスター。ロジン・バッグと申します」
うほん、とさらに
「ようこそギルド海猫亭へ! 明日から絶対に来てくださいね!」
そうなんです。
このとぼけた丸メガネ採用担当ハンサム氏、当ギルドのギルドマスターなんです。
以後、どうぞお見知り置きを。
注)フォックスタイプメガネ――いわゆる
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