第22話 もしも少女が男の子だったとして彼らと仲良くなれたのだろうか?

「報告! 報告ぅ! 異世界の魔物。翅蟻多数。天球クラスの出現を確認!」

 

 翅蟻、あの天使みたいな異世界の魔物を歯牙にもかけない魔王軍。驚いているのは天球とかいう名前の異世界の魔物の事だろう。


「昨日まで遠足気分だった三兄弟も真面目な顔をしているね。天球クラスってのがどんなのか先に知っておいた方がいいと思うよコトコ」

「だよね。魔王軍が緊張しているって事は前の世界における閃光の夜みたいなのが出てきたのかな?」

 

 僕やゼクトがなすすべもなく殺された異世界の魔物。

 あいつが複数現れるような戦場だったらこの魔王軍でも流石に全滅するだろうし、三兄弟の一番チャラいカーに尋ねてみた。

 

「ねぇ、カー。天球クラスってどんな相手なの?」

「コトコちゃん……マジか、天球クラスは部隊が壊滅するレベルの攻撃を放ってくる球体の異世界の魔物だよ。ヤッベェぜあいつら。俺たちのダチも一年前の戦場でみんな死んじまったしな」

 

 マジで……

 そんなヤバいのが出てくるのか……

 

「魔王に教わった魔法の実践ができるじゃん」

 

 僕がそう言うと、カーとクルーエルが僕をヤバい奴を見る目で見つめてきた。だって教えてもらった事はすぐに実践する方がいいじゃんか。

 

「コトコちゃん、クルーエルちゃん。人間の王都に到着したら覚悟しておいてね。どこから攻撃が来るか分からないから、今から部隊事にバラけて移動する形になるよ。天球クラスの殺傷能力は極めて高い。ウラボラス様がそれらを迎撃してくれると思うけど、その間に大勢やられる事が予想される。その大勢に巻き込まれなようにね」

 

 コーがそう言って僕らがついていく部隊に誘導してくれる。この前の戦場の十倍以上の戦力が大勢やられる。それって魔王軍の戦力が大幅に削られるんじゃないだろうか?

 

「コトコ、君も感じたと思うけど、この世界の終焉はおそらく魔王軍の戦力が維持できなくなった時だと思う」

「異世界の魔物が長期戦を仕掛けてきてるって言うの?」

「魔王は確かに規格外だよ。魔王軍もとんでもない連中で構成されていて大群だ。だけど、無限じゃない。それに対して異世界の魔物の襲撃は際限がないように思える」

 

 クルーエルの考えている事と僕の考えは大体一致している。僕のやる事は魔王軍が全滅するまで魔王軍に所属し、魔王から魔法を学び戦場に出る。

 最終的に魔王を魔本に封じ込めて次の世界へ転生する事。

 

「なんか展望が見えてきたね」

 

 僕らがこの世界で行う指標が見えた。そして、王都へ大分近づいた事が分かるように、戦闘しているのが感じられる。魔法力、反響する戦闘音。本来今の僕やクルーエルが踏み入れて良い場所とは到底思えないけどこの世界が終わる最後まで僕らは生き延びなければならない。

 僕らの部隊の部隊長らしい下半身が蛇の純粋なナーガの人が叫んだ。

 

「そろそろ戦地に入る! 先遣隊、王国の兵と共闘。負傷した者の回復。逃げ遅れた王国の民がいれば速やかに保護。目の前に入る異世界の魔物は全て撃滅せよ!」

 

 恐ろしい程に統率が取れている魔王軍。異世界の魔物がこの世界に出現しなかったとして人間は魔物達に勝てたのだろうか? 勇者という人物は既に死んでいるし、あの魔王を倒せる程とは思えない。どちらにしても人類は滅びの道を辿るしかなかったんじゃ……

 いや、あの魔王なら人間の全滅は望まないかもしれないか。

 

「コトコ、来たよ! 翅蟻だ」

 

 天使型の異世界の魔物。僕の全力全開でなんとか一体は倒す事ができるこいつらをカー、コー、ケーの三人は軽々と雷の槍を生み出す魔法で次々に撃ち落としていく。

 すげーなと思っていると部隊長のナーガの人はその魔法を同時に数本生み出して放っている。

 

「コトコ、私も魔王の悪魔軍に所属した事で暗黒魔法のレシピが増えたんだよ。見せてあげる」

 

 小さな炎、その魔力は不安定に揺らいでいる。

 この魔法は僕も知っている。師匠の魔本の中に記してある魔族の炎。クルーエルはこれと同等の雷の魔法、ディアボリックサンダーを使える。

 世界が世界なら十分魔王と言って差し支えのない魔法で前の世界ではあの規格外の異世界の魔物相手にしばらく足止めができたくらいだ。

 

「闇魔界の御方より、大殺界に至るまで暴れ彷徨う炎の御霊! 殺意の塊となりて我らの敵を焼き尽くせ! ファイアー・バグ! ナーガ部隊! 炎に巻き込まれないように魔法障壁急いで!」

 

 クルーエルの必殺の魔法、その威力が相当ヤバいのか、即座に守備の指示を入れてるよ。クルーエル、悪魔軍でどんな訓練受けたんだ? 

 なんか僕と同じで目が死んでるしダウナーな感じだったのに、なんかちょっと輝いてるように見えるのは僕の勘違いじゃなさそうだな。

 暗黒魔法、ファイアー・バグ。威力だけなら崩壊魔法カイーナくらいあるんじゃないのかな?

 

「クルーエルちゃん、すげーじゃん、魔王様の魔法使えんの?」

「えぇ、まぁ! えぇ!」

 

 なんかクルーエルがカーにそう言われてちょっと調子に乗ってるぞ。ケーも驚きながら歓声を上げたよ。

 

「悪魔軍の主力魔法、バンバン撃って牽制を頼むよ! これはありがたい」

「え……」

 

 どうやら、クルーエルの必殺の魔法は魔王軍の悪魔達からしたら下級魔法のファイアーボールくらい軽々と使うらしい。僕の方を見るのでプっと僕は笑っちゃったよ。

 

「クルーエル、ガンバ!」

「コトコは馬鹿ですか? あの魔法覚えるのに私がどれだけ苦労したか? 分かりますか? 完全詠唱でしか私はファイアー・バグを放てないんですよ。魔力は全然問題ないですが、私がガラ空きになるでしょう」

 

 とか言うので、僕は魔本を取り出した。

 

「だったら、ゼクトを呼び出すから守ってもらいなよ! 魔本よ。第一の世界に眠る英雄を今ここに権限せん! ゼクト召喚!」

 

 魔本から魔法陣が現れる。

 そしてその魔法陣が砕けるようにそこにゼクトが現れた。ゼクトを見る魔物達、そして魔物を見るゼクト。

 

「うわー! なんだここ! どういう状況だコトコ?」

「彼らは異世界の魔物と戦ってくれる仲間だよ。僕らより遥に強い。そしてこの世界の異世界の魔物も君の世界の魔物よりも強い、ゼクトにはクルーエルの護衛をお願いしたいんだ。師匠の集めた中でも最強の盾と槍を渡すよ」

 

 ゲート魔法から取り出した武器をゼクトに渡すと、状況を理解して、不思議そうに見つめる魔物達に大声で挨拶をした。

 

「よろしくな! 俺はゼクト! ここでいう異世界の魔物に世界を滅ぼされたんだ。微力だけど力になる! 一緒にこいつら滅ぼそうぜ!」

 

 ゼクトの、英雄の掛け声。

 ゼクトはこの世界ではかなり弱い部類になるかもしれない。だけど、目が死んでいる僕らとは違い、希望に満ち溢れ、そして強い意志を持っているゼクトの言葉に魔物達の士気は跳ね上がったよ。

 なるほど、これは僕らにはどれだけ転生してもできない所業だ。

 

「で? クルーエルはどこだよ?」

「「えっ?」」

 

 僕とクルーエルは顔を見合わす。そして僕はクルーエルに、クルーエルは自分自身を指さした。

 

「クルーエルだよ」

「私がクルーエルだけど」

 

 僕らは「えぇええええ! クルーエルって凄いカッコいい男だったじゃん!」と叫ぶので、僕らはゼクトの世界でのクルーエルの姿を思い出した。

 

「あぁああ! クルーエル、性別とかないんだよ。あの時はあの姿だったんだよ」

 

 クルーエルは前の姿にポンと変わって見せた。

 

「ほらこの通り」

「あぁ、そっちの方がしっくりくるな」

「じゃあ、この姿のままいようか?」

 

 クルーエルのその申し出を横から断固拒否する声が飛んできた。

 

「ちょいちょいちょい! クルーエルちゃんはあの可愛い姿じゃないと萎えるって、ゼクトくん? 女の子守る方がやる気出るでしょ?」

「そうそう! 今のクルーエルはちょっと好かん。やっぱり前の姿の方がいいよ」

「あぁ、クルーエルちゃんは女の子に限るな」

 

 カーとケーとコーの抗議に、ゼクトは「まぁいんじゃね! 別に男でも女でも!」と言うので三人は無言でゼクトとハイタッチしていく。

 男の子ってなんか単純でいいなって思っちゃうね。僕がもし男でも彼らと仲良くなれるは思えないけどな。

 

「それにしても剣じゃなくて盾と槍かよ。槍って苦手なんだよな」

 

 とか言ってブンブンと槍を振り回して盾を構えて準備運動を始めてる。ゼクトはやっぱりあの世界の英雄だったんだな。クルーエルはなんだか納得いかない表情をしながら再び先ほどの女の子の姿に戻ると、魔法詠唱を始めた。

 

 クルーエルを目掛けて攻撃を仕掛けてくる異世界の魔物達を全員で迎撃、そして撃ち漏らした相手をゼクトが盾で凌いで槍で反撃する。クルーエルの魔法が完成し、再び放たれる暴虐の炎。

 一気に異世界の魔物達を蒸発させていくので、

 

「攻撃が止んだ! ラインを上げるぞ! 進め進めぇええ!」

 

 とあちこちで叫び声が聞こえる。

 僕らはこの隙をついてついに王国の敷地内についに到着した。

 

「おいおいコトコ、クルーエル。これヤバくないか?」

 

 絶句している僕の代わりにゼクトがそう言ったよ。うん、ヤバいよ。ヤバい事になってるよ。王城らしき場所はすでに崩れ落ちて、抵抗虚しく倒れた人々。生存者はいるんだろうか?

 

「先遣隊だ! 先遣隊と合流して異世界の魔物を確固撃破しろ! 盟友、王国の復讐だ!」

 

 人間達を本当に同盟として魔物達は命をかけて戦っている。先遣隊はワイバーン部隊。そこに一人、ワイバーンから飛び降りてくる影……あれは……もしかして……

 

「ニビ、いないなーと思ったら、やっぱり先遣隊に配属されてたんだね」

「久方ぶりです。生きていられて安心しました。コトコ様……おや、そちらの方は?」

 

 ゼクトと目が合うニビ、ゼクトは持ち前のコミュ力で自分から自己紹介してくれるので助かるよ。ゼクトの説明でもニビは理解が早い人なので僕が召喚した別の世界の住人である事まで納得してくれたよ。

 

「なるほど別世界の同志という事でございますね。しかし失礼ですがコトコ様と並びお力が小さいとお見受けします。これより王国内部の乱戦となりますのでこちらをお使いください」

「なんだこれ?」

 

 ニビがゼクトに渡した物は黒い宝石。

 

「もし、ゼクト様がこの世界で最期の時を感じた際、お使いください。貴方の命を喰らい私の眷属邪竜が呼び出されます。本来、邪竜召喚には魂の贄が必要ですがコトコ様の魔法に囚われたゼクト様であればそのデメリットを踏み倒せます」

「マジかよ! すげーじゃん! ありがとな! ニビ」

「召喚時、痛いですよ?」

「自分の世界を失うより痛い事なんてねーよ」

 

 ニビはゼクトの前で膝をついたよ。

 

「ゼクト様にいうのは酷ですが、私たちの世界、お守りください」


 明らかに自分より弱いゼクトに頭を下げられるニビ。前の世界での僕はこういうところが足りなかったんだなと思ったよ。

 ニビが手を上げ、

 

「では進み届けましょう! ウラボラス様の旗本! 魔王様へ勝利を!」

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