なんだかとってもヤバいけん~勇者の剣を棄てにいく~
陸一 じゅん
第一部 そこに愛はあるんか? 戦慄の邪剣焼却大作戦!
邪剣の中の魔人さん
墨壺のような闇の中に、白く鈍い光が滲む。
鋼は薄く緋を帯びて発光し、火花を散らして打たれるがままに形を徐々に変えていく。
薄く、薄く。
何ものをも斬り、何ものをも阻まない。
おまえはそういうものになる。
おまえをそういうものにする。
振り下ろされる槌が、そう叩きこむ。
――――この物語は、ある剣について語っている。
武神アブウが、兄である鍛冶神ギドウに作成を依頼した、この世にひと振りと無い至高の神剣。
あるいは、アブウの手で数多の神々や精霊の血を吸った恐ろしき災禍の剣。
あるいは、武神の加護のもと、持ち主の力を最大限引き出す英雄の剣。
あるいは、かの勇者の心すら濁らせ、最後は持ち主の胸を貫いた魔剣。
あるいは、持ち主に力を与える代わりに、戦乱を引き寄せる呪われし邪剣。
あるいは、ある高貴な姫が、嫁入り道具に所望した守り刀。
あるいは、
あるいは―――――。
神に、王に、泥棒に、戦士に、勇者に、高貴なる姫に、その手から手へ、ときに形を変え、血濡れたいくつもの運命をたどる、ひと振りの剣。
鍛冶神ギドウの手によって、『志向を凝らし』『至高の性能を持ち』そして思うがままに『思考』する、ある孤独な魂が宿りし、その剣。
その名を、神剣『クノー』。
この世のどこでもないどこかの世界、どこかの国の、どこかの時代、どこかの街で生きていた誰かであった剣。
これは、そんな彼の、長い長い『ひとりごと』を記録したものである。
◆◇◆
――――どないなっとんねん。
わしは想像の中でちゃぶ台をひっくり返した。
――――わしの
イマジナリーわしは、クラシックな雷オヤジスタイルで、二度目のちゃぶ台返しをする。
どんがらがっしゃん。わしの心が、同じ音を立てて、この畳の上のようにぐちゃぐちゃやった。
もぉ~やってられまへん! わては帰らしてもらいますよ!
そう叫ぶ口も舌も、実のとこ、今のわしにはあらへんかった。
というか、お父ちゃんは最初から、わしに口なんて作らへんかった、というのが正しいな。
こんなに考えることができんのに、わしには脳も無ければ骨もなく、血すらも通っとらん。必要がない。だってメイン機能がそこにないから。
文字通り、体は鋼、心は硝子……ってやかましいことを考える『心』はあるのに、それがどこに宿っとるんかは分からへんのや。
あるとしたら、武器として何よりも大事なテッッッカテカーの刃金部分か、お父ちゃんが刻んでくれとった神紋がある柄の中身あたりやろか。
……まあ、なんでゴチャゴチャ誰に聞こえるわけでもない自問自答で現実逃避しとんのかっちゅうとやな。
わしもついに、この血濡れた運命(!)の、幕引きかもしらん! どんがらがっしゃん! どないしたらえーのぉ~! っつーかね。
あんな、神の剣として生まれからしばらくは、武神のおっちゃんには『剣としては』ようしてもろたと思うねん。
人として考えたら、だいぶ権利のない扱いやったなって朧気な前世の常識がいうけど、今のわしは武器なんやし。
それゆーなら武器が喋るっちゅうほうが変な話やし、いらん機能や。でもおっちゃんは、そんなわしの話もよう聞いてくれとった。
アホみたいに豪快で、アカンくらい素っとん狂で、それなりにオモロい男やった。
わしの人生が狂ったんは、おっちゃんがわしをポイっと下げ渡した時からや。
その日、わしはおっちゃんとつまらん喧嘩をしとった。したら「もうええわ! 」って感じで、地上におる人間の男に、ポーイって。
これはあんまりやと思わんか?
ああ、戻りたい。おっちゃんのところに戻りたい。
わしは泣いた。すさんだ。悲しんだ。
だって人間、わしの言葉わからへんのよ。わからへんから、寂しかったんや。
わしは寂しいと喋るタイプ。頭ん中はずーっと音が流れとるし、見るもん、聞くもん、テレビん中の人にもツッコミ入れるタイプ。
わしは知らんかった。人間は、わしの言葉がわからへんけど、わしを握ると声が聞こえるんやって。
ずーっとツッコミしとるわしの声聞いとると、人間は心を病んでしまうんやって。
わし知らんかってん。ほんまやで。
おっちゃんは神様としても、かなり心の作りがおおざっぱで感性がアホやから気にならんかっただけで、ふつうの神さんたちは耐えられへんのやって。
そんなん知らんまま、三人くらい持ち主が変わったころには、わしは人間界では名の知れた、呪われた剣になっとった。
力を与える代わりに、持ち主の心臓を奪っていく剣やって、触れ込み? レッテル? なんやのこの言いがかり。それこそ呪いやん? なあ?
邪剣なってからは、ながぁ~いこと蔵にいれられて、戦争が起こったら取り出されて、持ち主壊しながら敵ぶっころして、また蔵いれられて……そん繰り返し。
壺やら、敷きもんやら、宝石やら、盾やら鎧やらは、喋ってくれへんから、ああ、悲しいなぁ。むなしいなぁ。さびしいなぁ。
……いうて、二百年くらい同じ蔵で過ごした。
そんなとき。
そうやな、今思えば、三代前、二十二人目の持ち主の面影がちょ~っとあるボウズがわしンとこやってきて、「すごい、すごい、ほんものだ! 」いうて、わしに触った。
悲しいなぁ。むなしいなぁ。おもろいこと起きんかなぁ。思うとったからやろか。
ごめんな、ボウズ。
でもちょっとやってくれたなボウズ! ってきもちもあるで。
ボウズは、能天気なツラと頭して感性が鋭かったんやろか。わしが、あかーん! 思うた瞬間には、こう、心が、メキョッ! どんがらがっしゃん!
……わしかて好きで邪剣やっとるわけじゃないねん。
人を斬るのは好きやけど、人を殺したいわけやないし、戦場は楽しいけど、人がアホみたいに死ぬのはガッカリする。手に取って使ってもらうと嬉しいけど、持ち主を壊してまで握って欲しない。
……悲しいなぁ。寂しいなぁ。むなしいなぁ。自分のきもち、聞いてもらえへんし、わかってもらわれへんのは。
わし、ついに、ついに、捨てられます。
廃棄です。それも、ちゃんと廃品処理されます。
具体的には、活火山の噴火口に棄てられます。
もう誰の手にも恐ろしい邪剣が渡らないように、しっかりキッチリ処分してまうそうですねん。
ボウズの保護者、エコロジストなんやねぇ。しっかりしとるわぁ。
――――でもそれはアカンやろ!
受け身でおったら殺される!
いやぁあぁああああ誰かぁぁあああ! 助けてぇぇえええええ!!
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