第9話 ​🚨 剣士と警察:清州の闇とカードの誘い

 🥃 署長の憂鬱(令和七年・清須市)

​ 名古屋市に隣接する清須市。かつて織田信長が天下統一を志した清洲城の近くに、清州警察署はある。

​ その署長室で、**黄島 誠治きじませいじは深くため息をついていた。彼は剣道の道において、息子・卓よりも遥かに大きな成功を収め、その「清廉潔白」**な武士道をそのまま警察官僚として歩んできた人物だ。

​ しかし、彼の頭を悩ませていたのは、息子の卓のことだった。

​(清治の心の声):「卓は、あの剣の才能を持ちながら、なぜ社会という戦場で敗れ去るのか……。派遣切りで名古屋を彷徨っていると聞く。親として、手を差し伸べるべきだが、あの子の意地がそれを許さぬだろう」

​ 誠治は、息子が剣道から身を引き、社会の底辺で苦しんでいることに、父としての責任と、警察官としての**「正義」の限界**を感じていた。彼は、社会の闇が、彼の息子の心を蝕んでいることを知っていた。

 🍻 親子の軋轢とウォーズカード

​ その夜、誠治は卓の安否を案じ、名古屋市内の小さな居酒屋で息子と会うことにした。

​ テーブルを挟んで座る二人の間には、剣道場では決して見られなかった、冷たい距離感があった。

​「卓。正直に言え。職はどうなっている。家は?父さんは、清州署長としての立場もあるが、お前を無下にできるわけがないだろう。」

​ 卓は、冷めた表情でビールを呷った。彼の目には、社会への憎しみと、父への反発が混じっている。

​「父さん。俺は、正義とか道徳とか、そんなものが通用しない世界で生きてきたんだ。父さんの言う清廉潔白な世界とは違う。俺は、俺の力で何とかする」

​「お前の『力』とは何だ。怒りか?お前が剣を捨てた時から、その怒りをどう扱うか、私はずっと心配している。社会への恨みで道を誤るな」

​「道を誤る?俺の人生を誤らせたのは、誰だ?……違う。俺は今、真の戦場を見つけた」

​ 黄島は、ハローワークで聞いた**『ウォーズカード』**の噂を、父に話そうとはしなかった。しかし、その言葉の代わりに、胸の奥底の衝動を吐き出した。

​「父さん、聞いてくれ。もし、ルールも審判もいない命懸けの真剣勝負で、俺の人生を取り戻せるなら、どうする?」

​ 誠治は、息子の尋常ではない目つきを見て、警察官としての危険な直感を抱いた。

​「卓。それは犯罪の匂いがするぞ。お前は、正義を捨てるつもりか。」

​「父さんの言う**『正義』なんて、今の俺には何の役にも立たないんだ!俺は、俺の剣で、この社会の『不正』**を断ち切る!」

​ 会話は決裂した。誠治は息子が闇へと向かっているのを確信し、警察署長としてではなく、父として、彼を止めようと決意した。

​ 

 🃏 ウォーズカードの取引

​ 居酒屋を出た卓は、ハローワークで噂を話していた中年男性を尾行し、名古屋の歓楽街、錦三丁目の一角に潜む、古びた雀荘に辿り着いた。

​ 雀荘の奥の、重々しい扉。そこには、卓が人生を賭けるための**『ウォーズカード』**のディーラーがいた。

 ​ディーラーは、目つきの鋭い中年の女性だった。彼女は卓の剣道で鍛え上げられた体躯と、その目に宿る深い憎しみに気づいていた。

​「あんたが、人生をやり直したい剣士かい?」

​ 卓は、メリケンサックを外した拳を握りしめ、強い決意を込めて言った。

​「そうだ。俺は、派遣会社に鉄槌を下したい。そのウォーズカードとやらで、俺の人生を賭ける。その条件を教えろ!」

​ ディーラーは、不気味な笑みを浮かべ、黄島に漆黒のカードの束を見せた。その中の一枚が、黄島にとって特別な光を放っていた。

​「よろしい。あんたの憎しみ、このカードが引き受けるよ。だが、知っておきな。これはただのゲームじゃない。あんたの父さんが追い求める**『正義』**とは、永遠に相容れない道だ」

​ 卓は、父の正義を捨てることを覚悟し、カードを掴んだ。その瞬間、彼の左腕に、冷たい感触と共にカードが吸い付いた。

 

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