第7話 ​🏭 慟哭の名古屋:剣士と「ウォーズカード」

 ⚡ 派遣切りの業火(令和七年・名古屋)

 ​愛知県名古屋市、巨大な自動車工場が立ち並ぶ臨海部の工業地帯。

​ **黄島 きじますぐる**は、今、人生のどん底にいた。三十代半ば。彼は、学生時代に剣道で全国レベルの実力を持っていたが、怪我と挫折でその道を諦め、以来、非正規の派遣労働者として生計を立ててきた。

​ しかし、景気後退の波は容赦なく彼を襲った。彼は、一方的な派遣切りに遭い、住居も失いかけていた。

​ 派遣会社の事務所が入る、無機質なビルの前。黄島は、そのガラス張りの壁を見上げながら、煮えたぎるような怒りを胸に抱いていた。

​「俺の人生をこんな風にしたのは、あいつらだ。まるで使い捨ての駒だと思い上がって……。あの連中には、一度、真剣の恐ろしさを教えてやるべきなんじゃないか」

​ 黄島の心の中には、かつて竹刀を握っていた時のような鋭い殺意が、黒く渦巻いていた。彼の強靭な肉体と、剣道で培った研ぎ澄まされた集中力は、今は全て、この社会への憎悪へと向けられていた。

 🤺 ハローワークの噂

​ 職を求めて、黄島が訪れたのは、名古屋市内のハローワークだった。失業者でごった返すフロアは、彼の閉塞感をさらに増幅させる。

 ​職員との形式的な面談を終え、黄島がコーヒーを飲んでいると、隣のベンチで、同じく職探しに来たらしい中年男性二人が、小さな声で話し込んでいるのが聞こえてきた。

​「おい、知ってるか?最近、裏のルートで**『ウォーズカード』**ってのが出回ってるらしいぞ」

​「ウォーズカード?ゲームか?」

​「いや、それがただのゲームじゃねぇらしい。なんでも、そのカードを手に入れた人間は、自分の恨んでる相手を、歴史上の戦場に引きずり込めるんだと」

​ 黄島の耳が、その言葉に鋭く反応した。

「恨んでる相手を、戦場に……」。

​「嘘だろ。まさか、派遣会社の社長を戦国時代に放り込むとか、そんなSFみたいな話か?」

​「それがな。カードには**『勝敗条件』があって、勝つと莫大な金と、過去の自分の望みが叶うらしい。だが、失敗すると、自分の存在そのものが歴史から消えるんだとよ。いわば、人生を賭けた、『現代の戦い』**だ」

​ 黄島は、コーヒーを持つ手が震えるのを感じた。 彼の脳裏には、派遣会社の社長の顔が浮かんだ。

​「あの憎い連中を、戦場に……。俺は剣士だ。剣士の意地を見せて、この人生を、この社会を、やり直すチャンスが、そこにあるのか?」

​ 黄島は、その中年男性たちに近づこうと立ち上がった。彼の目の焦点は、もはや就職先のリストではなく、その**『ウォーズカード』**の行方へと定められていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る