VIVA! 地味ハーレム ~派手な芸能一家の末っ子だった俺が、異世界転生したのでひたすら地味に生きて行こう~

風祭 憲悟

第1話 とても地味な七歳の誕生日、転生者だと自覚する。

「ほんっとグラン、あなたは地味ね」


 誕生日の朝、

 唯一祝ってくれている母上から言われたその言葉に、

 ふっ、と僕の中で記憶が湧いて出る、そう、嬉しさと共に。


(地味かぁ、僕が前世で、憧れていた……)


 朝食のデザート、

 母上のお付きメイドが持ってきてくれたカットケーキを食べながら思い出す、

 あの派手で人の目に晒され続けていた日々を、そして死ぬ間際に念じた……


『生まれ変わるなら、今度は地味が良い』


 という言葉を。


「お母上、兄様あにさま姉様ねえさまが派手すぎるのです」

「そうよねえ、ウチはとことん地味なフィッツジェラルド子爵家だから、

 せめて領民に不安を与えないよう、派手に装っているのよね、わかる?」


 うんわかる、

 七歳児なりに我が家が無理しているのが。


(でも、母上の言う俺の『地味』は、違う意味なんだろうなあ)


 俺と同じ地味な黒髪の母上、

 その分、人前に出る時はめいっぱい着飾るが、

 豪華なドレスは祖母のお下がりらしい、いや我が子爵家はそこまで貧乏でも無いはずだが。


「ねえグラン、七歳になったから、わかるよね?」

「はい、学校ですよね、早速今日からと聞いています」

「一応は領主の子供だから、虐められる事は無いと思うけど、上手くやりなさい」


 ……俺はこの自分、

 七歳を迎えたグラン=フィッツジェラルドについて、

 食後の紅茶を嗜みながら心の中で確認する……って七歳だよな?


(もっと子供っぽく振る舞わないと)


 いや、ついさっきまで七歳の振る舞いだったはず、

 急に前世を思い出して、俺が死んだ享年三十九歳の自我が出て来たものだから、

 正直、心中穏やかじゃない、だからといって癇癪かんしゃくを起こすほどアクティブでもキッズでもない。


「母上、父上は」「エリックさんなら仕事中よ」

「側室は」「……子爵に側室は無いでしょう、よく側室って知ってるわね」「男の甲斐性です」

「その知識はどこで」「予習ですよ」「学校の? 偏った知識はミラのせいかしら」「お付き子守りメイドに罪は無いです!」


 そう、可哀想に?

 一番どうでもいい末っ子の御守おもりメイドである。


「兄様と姉様は」「それぞれ学院や学園よ、もうこの家からは出ているわ」

「僕の誕生日なのにですか」「……七歳になると、そういことを気にするのね」

「今までが気にしていなかったとでも?」「まあ、急に大人びて、何があったのかしら、ミラーーー!!」


 とまあ罪の無いごく普通の出稼ぎメイドが、

 なぜか説教されている間におさらいをしておくと、

 父も二人の兄も二人の姉も僕にあまり興味は無い。


(でもこれが僕にとっては良いのです!)


 前世の、父も母も二人の兄も二人の姉も芸能人、

 なので僕も芸能人、ちなみに親戚も芸能人多め、

 詳しい話はまだ七歳の脳だとこんがらがるので、またゆっくりと。


「……だからミラ、普通に世話しなさいと言ったでしょう」

「きょ、今日までは、ごく普通の手間のかからないグラン坊ちゃまで」

「じゃあこの変に偏った知識は何なの?」「それは、おそらく書庫で、でもまだ難しい字は」


 そろそろ助けてやるか。


「貴族について自分で調べた結果です、ミラ女史は書庫に僕を放り込んで放置プレイをしていただけです!」

「まあ! ミラ」「いやその、鍵はかけていません、中で漏らされると困りますし」「その間、ミラさんは寝具倉庫で寝てましたよね!」

「本当なの、ミラ!!」「す、すみません、坊ちゃまの世話が疲れて、つい」「ふらふらでしたからね、許してあげてください」


 うん、あんまり追い詰めると、

 僕がこっそり虐められるからね、

 辞めさせて雇い直したメイドがやっかいだと、困る。


「……グランがそう言うのなら」

「僕は七歳になったら、自分を解き放つと決めていました!」

「それまでは大人しくしていたのね」「地味です! これまでも、これからも」


 そう、僕がこの異世界で望む事、

 それは前世のように絶えず人目に晒される、

 派手な芸能一家とは真逆の、本当に地味で目立たない、それでいて幸せな日々だ。


(やりなおしのこの人生、とにかく地味に生きてやる!)


 こうして地味に七歳を迎えた俺こと僕グランは、

 今日の学校から、地味に生きるために必要な事を身に着けはじめるのだった、

 そして目指す最終目標、それは……異世界転生といったらハーレム、そう、その名も……


(『地味ハーレム』だ!!)


「さあグラン、もういいわね、学校へ行きましょう」

「はい母上、執務中の父上に挨拶は」「執事のスティーブンに聞いてみましょう」

「同じ部屋に居るのでは」「だから私のメイドを使うわ、ナターシャ」「はい、聞いて参ります」


 うん、実の父親だけど、

 貴族の当主に取り次ぐのに手間がかかる、

 僕→母→母のメイド→父の執事→父と伝言ゲームをしないといけない。


(それがこの世界の貴族だ、いや、この国の、かな)


 いっそこのまま俺が突進して『ち~~っす』って行ったら……

 うん、折檻されるな、貴族のお仕置は結構キツい、地下牢も冷たいし、

 七歳児になったばかりなんだから許してって思えるが人語を喋れるようになったら容赦は無いらしい、なんかそんなこと言ってた。


(地味に生きて行くため、我慢、我慢っと)


 しばらく待っていたら母のメイドが帰ってきた。


「一瞬なら良いそうです」「あらそう、では行くわよグラン」

「はいお母様、お母上」「どっちでもいいわよ」「ミラさんも来る?」「ぼ、坊ちゃまのご命令とあれば」


 さあ、前世の記憶を取り戻してから、

 初の父上とのご対面だ、ってばっちり記憶はしているけどね、

 そしてそのまま学校へ……俺のある意味、異世界での第一歩が、始まる。


(……あれ? 俺の前世での名前、なんだっけ???)

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新作です、カクヨムコン11応募作品ですので、できれば作品フォローと評価をお願いいたします☆☆☆

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