Ep06.栗原小町ー02 既視感
いま、綾芽も小町も、
所謂、閉鎖的な空間で広まっていく都市伝説のような存在。平穏な高校生活を過ごしている内は、ウワサや都市伝説とはただの幻想であり、現実で出逢う事なくいつしかその存在すら忘れていくのかもしれない。
「綾芽ちゃん、私たち、本当に夜嵐黒人さんに出逢ったんだよね? 夢……じゃないよね?」
「勿論だよ。だって、夜嵐黒人って名前、私はっきり覚えてるもの。それに、小町もこうして生きてる」
「うん、生きてる」
小町の両手を包み込むようにして強く握る綾芽。肌から伝わる手の温もり。真剣な眼差しで手を握られたものだから、小町は胸の鼓動が早くなっていたのだが、自身の事を心配してくれている綾芽に悟られないよう、平静を保とうとする。
「私たちは憶えている。だからこそ、一体何が起きたのか。真実を確かめなくちゃ」
「そうだね」
どうして夜嵐黒人の名前が出て来ないのか? 誰も憶えていないのか? それとも何者かの操作によって書き込みが消されているのか?
その後、綾芽はノートPCで、小町は自身のスマホで学校の七不思議のような内容が書かれた場所や悩みを抱える生徒達が集まる場所など様々な場所を観て回ったが、夜嵐黒人の目撃情報も信憑性が低いものばかりで、すぐに出逢える確証が持てるものは見つからなかった。
小町が既視感を覚えたのは、悩みを抱える生徒達が集まる場所を眺めていたときだった。それは、ありきたりな書き込みで一般の悩める生徒が書いたところで誰の目に留まる事のない内容。しかし、その書き込みを見た瞬間、小町の脳裏にほんの一瞬、まるで流れている映像が電波障害で乱れたかのようなノイズが視界に入ったのだ。
『もう疲れた……こんなのもう限界。私は自由になりたい』
「ん? どうした小町?」
「これ……
「え?」
小町は掲示板を利用した事があった。だが、彼女は自分で書き込んだ憶えがなかったのだ。でも、彼女の脳裏に部屋の隅で蒲団に潜り込み、震える手でその文字を打っていた記憶が蘇り、だんだんと手が震え始めるのを止められなくなっていた。
小町の震える手に綾芽が手を重ね、ゆっくり頷く。もう一人じゃないと目で訴える綾芽。心を落ち着かせ、小町は自身の記憶を整理し始める。
「そうだ……私……今までも悩みを抱えている人の話をこううやって眺めてた。どうして忘れていたんだろう。そして、ママに
小町は自身のSNSから、DMの画面を開く。だが、そのメッセージも小町へメッセージを送って来たアカウントも既に削除されていた。
「どんなメッセージか覚えてる?」
「うん。今までつらかったねとか、僕が救ってあげるみたいな内容だったと思う。でも、そこからの記憶が無くて。むしろ、あの時の屋上の記憶までが抜け落ちてる。どうしてだろう?」
「……
「え? 何?」
「うん、えっとね。夜嵐さんが確かにそう言ったの。〝誘い〟の力が働いていたようだねって。だって、おかしいでしょ? 小町はその如何にも怪しいメッセージを見てからの記憶がないんでしょう? しかも、そいつはどうやって小町のSNSのアカウントを知って、匿名な筈の掲示板の書き込みを見て、小町だと気づいたの?」
「そう……だね。おかしなところばっかり」
メッセージを送って来る者の中には、悪徳な業者や、中にはSNSのアカウントを乗っ取られるような事例も数多く存在するのだ。普段、小町は知らない相手からの
そこからの出来事は憶えておらず、気づけばあの屋上に居た、という訳だ。
「夜嵐黒人さんに逢う事が目的だったけど……私たちはもっと重要な事に気づけたのかもしれない」
綾芽はノートパソコンで掲示板の書き込みを調べていく。悩み相談の掲示板を注意深く観察し、やがてひとつの書き込みに辿り着く。
「見て、これ」
「え? あ!」
『最近、熱血馬鹿の授業も重力魔人の授業も面倒くさいんだよな~。あーあ。もう授業なんかやめて、おねーさんとのハーレムライフでも満喫してーな』
綾芽も小町も気づく。熱血馬鹿は生徒指導でも有名な体育教師――
「これ、たぶん山田君だよ」
「そっか……でも、私と違って悩みも無さそうだし。問題は無さそうに見えるけど」
「そうだね。ただ、問題なのはこの先」
それは返信機能を使った〝山田君〟であろう書き込みへの返信メッセージだった。
『そんなに学校が嫌なら、僕が救ってあげようか?』
書き込みを見た瞬間、小町は背筋が凍るのを感じた。小町へ届いたダイレクトメッセージの記憶。その内容に似ても似つかない一文。ただ、それだけ。このメッセージに対して〝山田君〟であろう人物は返事をしている様子はなかった。でも、はっきりと分かることがあった。
小町の命は救われた。だが、小町を〝
「山田君が危ない! なんとかしないと」
「でもどうやって?」
綾芽は腕を組み、何かを考えているようだった。そう、小町の時みたく、夜嵐黒人が助けてくれるという保証は全くないのだ。暫く思案する仕草をしていた彼女だったが、どうやら覚悟は決まったらしく、真剣な眼差しで小町の手を握った。
「よし、小町。明日は徹底的に山田君をマークするよ! そして、小町を
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