えすえふHOKKAIDO!あいむふーれっ!@希望連合艦隊対エト迎撃戦艦、零和型黎和級「0̸」番艦ReiWA……出撃しますっ!
小鳥遊咲季真【タカナシ・サイマ】
1章 第三エト「TORA」襲来
1.1
01開戦
「随分と落ち着いているのね」
目を閉じて集中していると、機械を通した音声が雑音混じりで聞こえてきた。女性の声。とても知性のある、この緊張状況でも落ち着いた声。司令本部からの通信だ。
「まあ、そうですね。二回目ですから。落ち着いていますよ、司令官」
ピコーン、ピコーン、と機械音があちらこちらで鳴っている。ひとつは鼓動のように鳴り、ひとつは不整脈のように鳴る。一人乗りの狭いコクピットは時代遅れの配線だらけ。接続部から火花が出て煙が出そうだ。
「落ち着いているのは良いことね。機械の機嫌も損ねない」
「機嫌……機械の機嫌って」
確かにこの機体は古い。製造年月は不明。古い事だけは分かる。推定では元号令和の時代だとされている。旧新羊蹄山の地中深くで発見された不明機で、良く言えば〝
軍内部からも一般からも煙たがられている。戦争はいつだって後世の人間を苦しめる。その時に使われていた兵器ならばなおさら。秘密兵器と言えば聞こえは良いが、未知な部分が多く信頼と信用と実績に欠ける(軍の偉い人の言葉)機体の待遇は悪い。今日も囮になりそうな場所への出撃を指示されている。確かに、それではコイツの機嫌を損ねてしまうかもしれない。なだめておくか。
「いつの時代ですか、司令官。テレビや車とか叩けば直るみたいな伝説。信じているんですか?」
「まさか。科学の時代はとうに終わっている」
そうだ。確かにその通りだ。しかし、今が何の時代かと聞かれたら俺は答えられない。きっと様々な答えが出るに違いない。だから、俺はきっとこの問いに答えられない。
「お前の時代は、どんな時代だったんだ。レイ」
この機体の名前は捻りなく、そのまま〝ReiWA〟と付けられた。俺はなんか嫌だったのでレイと読んでいる。男か女かは分からないが、少なくとも俺の専用機じゃない。俺は戦時の人手不足で駆り出された
レイは今の時代の部品じゃ動かないため、ゴミ捨て島(南室津人工島)から拾ってきたガラクタ、旧世代の部品(骨董品)で修理した。ふとそれを思い出すと、やはり配線から小さな火花が出ているように思えた。どこか焦げ臭い気もするが、気のせいか。
「司令官」
「どうしたの、
「いえ、司令官。すいません、大したことではありませんでした。通信を終了します」
「あら、辞世の句なら良いわよ。記録しておいてあげる」
ああ、それはいいかもしれない。
「じゃあ、ひとつだけ。俺、ここに座った時思った事を。自分は、今。
俺の言葉は徐々に細くなり、消えた。もしかしたら既に切れて通信には乗っていないかもしれない。これは独り言かもしれない。
「選択なんか気にしてません。兵士は何かと待遇良いですし、軍に正規で入れるのはラッキーですよ。だから、俺はこの機体を手に入れます。俺のものにします」
ひと
言葉が返ってこない。
……と、遅れて子どもの頭を撫でる時の笑みのような声が返ってきた。
「そう。それならきっと大丈夫。期待しているわ。必ず勝ちなさい」
司令官に余計な気を使わせた。無駄話の刑で報告書を書かないといけないかもしれない。さっきの無音はきっとタイムラグだ。よくあること。古い機体だからな。
「あの、それより。このネームシップを踏襲する古臭い慣習やめてくれないですか。ダサい。少なくとも、発進の時に言いたくない」
「はやきたーーー!!!良いか!!その
今度は男の声が、大きな声が飛んでくる。通信でも大きいと分かる。やれやれ。やかましい夫婦だ。
「いいか!!!敵はすぐ目の前だ!!!うおおおーー!!!頑張れよ!!人類の未来が、懸かってるぞおおおお!!!!」
「了解、司令官。最終チェックに入ります」
もちろん、最終チェックなど無い。俺は使わないスイッチをカチカチして、それから司令室との通信を切った。カチカチ。カチカチ。全艦に流れる一般通信に切り替える。
熱い男の司令官と冷静な女の司令官のふたりの声が遠くで聞こえる。他の艦に連絡を取っているようだ。
それにしても
〉アテンション。アテンション。
張り詰めた音が、声が響く。出撃命令が下る。
〉アテンション。アテンション。第三の
奴を取り逃がすことは許されない。倒せるチャンスは一度だけ。二度はない。既に札幌と小樽の街が吹き飛んでいる。仕留めなければ、逃せばやられる。人類滅亡だ。
〉アテンション。アテンション。スタンバイ。スタンバイ。全艦発進準備から待機、スタートスタンバイ。よーい。
息を呑む。歯を食いしばる。立て続けに無線が何か言っているが、もう何も聞こえない。生き残れ。仲間を助けるな。敵を倒せ。黙って見ていろ。
洞爺湖が真っ二つに割れる。下から次々に戦艦が上へ、上へと出てくる。空を飛ぶ戦艦。何百隻もの
〉発進よーい。
各機起動エンジンから、メインエンジンに切り替え。エトは轟音を苦手とする。ステルス機は発進前に動かなくなる。ゴオ、ゴオとエンジンが唸る。響く。燃える。士気を高める。女性司令官の声を合図に、各艦レバーを次々に倒す。
〉全艦、発進!!!
数多の巨大な戦艦、護衛艦に
俺も両手でレバーを押し込む。重たい抵抗感を感じる。押し込む。これが出撃は二度目。この機体を発進させるのは、これが二度目だ。
「零和型「0̸」番艦ReiWA……出ます!」
しきたりに倣い、俺は名告ってから操縦桿を精一杯前に押し倒した。
※ ※ ※
道暦418年。
北海道の羊蹄山という山の隣に全く同じ形状の巨大な山が現れた。噴火も地震もなく忽然と現れた。人々は同時期に網走湖周辺で発掘された『北見紋別シブノツナイ死拝紋書』(俗称、北見紋別予言の書)との関連を真っ先に疑ったが確証は得られず。『新羊蹄山』と名付けられた山へ公私共に調査団が続々入るも全隊行方不明。推定一億以上生息していると思われるヒグマの亜種が原因だとライブ映像などを見た市民からは囁かれているが、帰還者がいないので推測止まり。無人の飛行機、小型機動戦車等も同様にロスト。祟りだと言う宗教まで発足、新羊蹄神社が建てられる。予言の書には侵略者が攻めて来て人類が滅びると記されている。
道暦420年。
『北見紋別予言の書』に記されている通り、第一の
道暦422年
本国復興臨時政府は『新羊蹄山』、『北見紋別予言の書』、『侵略者エト』の存在を認め、『北海道軍第七部隊』を中心に『洞爺』に迎撃基地を設立。予言の書に従い、第一のエトを「
道暦425年2月。
予言の書の通り、二体目の侵略者
道暦425年同月。
戦は二週間続き、人類は疲弊していた。集結した各国の部隊は発進してまもなく大破。撃ち落とされる。甚大な被害と絶望を前に本国、他国からの支援はすぐに滞る。北海道が犠牲になれ、とも思える対応に第七部隊は秘密兵器の投入を決断。新羊蹄山出現時に地下深くから発見していた旧人型戦闘機である。過去、一時期量産され多くの戦の為に開発されたが実用性の無さに使われなかった兵器。これに現代の「航空エンジン」を搭載。第七部隊のエンジンは夕張から採掘された鉱石を使った「ヒグマエンジン」を積んだ。無論、ヒグマは名前だけであり生き物のヒグマとは全く関係がない。
この機体に1人の少年が選出され搭乗。出撃する。装備されていた二刀にて見事エトを両断。目標は撃墜炎上沈黙ロスト。突如戦地に現れた呼称不明の人型秘密兵器。その勇姿は人類に希望を見せるというより、北の大地の人間に希望を見せたと言える。
被害は余りにも甚大。例え地球規模の自然災害、世界戦争が起きてもここまでの被害はでなかったであろう。人類滅亡の危機をようやく実感した、人間。つまりは大人たちであった。
・第一次エト交戦 備忘録
・敵対象生物
〉第一エト「NE」撃墜、ロスト
〉第二エト「USI」撃墜、ロスト
・自軍被害(推測)
沈没艦は破棄の為に沈めた艦を含む。戦艦と記載したものは軍艦と同義として扱う。
〉航空浮遊式戦艦
沈没八隻、大破四十二隻、中破以下二百隻強 他
〉航空浮遊式空母
沈没二隻、大破一隻 他
〉航空浮遊式護衛艦(戦艦以下の級まとめ)
沈没二百隻と余り(無人含む)、大破五百隻余り(帰還後破棄した艦も含む)
〉英国派遣艦隊
全艦大破、沈没
〉米国派遣艦隊
全艦大破、沈没
〉本土東京派遣艦隊
全艦大破、一隻帰還入渠。他沈没
〉陸上戦艦、戦車
札幌、小樽蒸発により多数。膨大につき割愛。詳細は
〉海上戦艦
沈没 戦艦一隻、空母一隻、護衛艦以下八隻
大破、航行不能 空母二隻、護衛艦以下五隻
中破以下 戦艦一隻、護衛艦以下十八隻
〉死亡 約五百万人他(札幌、小樽蒸発を含む)
〉負傷 約八百万人他
一般人含め、個人の負傷死亡に関する正確な数値は
以上。
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