第2話 銀男
「おぉぉ……!ついに見つけた!会いたかったよマイスウィート梨杏!変わらないなぁ……少し小さくなったか?」
目が合った瞬間、こちらに駆け寄りずけずけと話し始めた銀タイツの変質者は、私のことを何やら懐かしそうな目でじろじろ見てくる。「大きくなったか?」ならまだしも「小さくなったか?」とは何事だ失礼な変質者め。
……違うぞ私。もっと他に気にしなくちゃいけないことがあるだろ。ちょっと怖くて走れそうにないから、取り敢えず会話して距離を取らなきゃ。
「何で私の名前知ってるんですか。」
「そんなこと簡単だろう!俺はもう何年も梨杏のことを見つめ続けてるんだぜ☆名前だけだなんて言わないでくれよ。」
そういうと何故か凄く嬉しそうに私の二本の脚を嬉しそうに見つめてくる。やばい。ただの変質者じゃない、身の危険も感じなくちゃいけないタイプのヤツだ、これ。
余りにも堂々としたストーキング宣言と身体が発する危険信号のせいで、しばらくの間、男から目が離せなくなった。
あ……意外と切れ長の目が綺麗だな、とか、5段階評価で2.4くらいの顔だけど私嫌いじゃないな、とか、脈絡のないおかしな考えが頭をぐるぐるする。……いや何でこんなこと考えてんのよ私。落ち着け……深呼吸だ。
「どうしたんだマイスウィート梨杏!何かあったなら俺に相談すればいいじゃないか!君と俺との仲だろ?」
何なんだコイツ。さすがにイライラしてきた。
「はぁ……ちょっといいですかね。そもそもあなた何?誰?あなたみたいな人知らんし……ヤバい人ですよね正直。私今から警察呼びますけど、どうします?」
110が入力された私のスマホを見せても、男は相変わらず微笑みをたたえたまま喋り出す。
「あぁ……今の梨杏には刺激が強すぎたかな?OKOK、落ち着こうか。うん、OKOK。」
んんん……なんで私が興奮してるみたいな、私が悪いみたいな言い方してんのコイツ。変質者への恐怖よりイラつきが勝りだす。
「私が言ったこと、はぐらかさないで貰えます?警察呼ぶんですよ?」
「OKOK、そうだね梨杏わかったわかった。OKだよ。まず、俺の名前は
さも当然のように警察の件じゃなくて勢いに任せて尋ねただけの質問を拾って答えてくる。薄々わかってたけどコイツ、日本語通じないタイプの変質者だわ。私は迷わず発信ボタンを押した。数秒コールした後に、緊迫した声が私に尋ねる。
「事件ですか?事故ですか?」
「事件です。全身銀色のタイツを着た男にストーキングされています。」
予想外の返答だったのか、少し上ずった声で、それでも平静を装って重ねて尋ねる。
「その男はどこにいるんですか?どんな被害を受けていますか?」
お決まりの質問なんだろうけど、早く来てほしい……大げさにした方がいいのかなぁ。嘘も方便……ってか実際これヤバいし!
「目の前にいるんです!何年も私を監視し続けてるだとか、私のことなら下着の色まで全部知ってるとか喚いてて……私怖くてもう一歩も動けなくて……助けてください……!」
電話の相手は泡を食ったように慌て、すぐ向かうと伝えてくれた。
見た目からして変質者でしかない男のストーカーを受けていると乙女が通報すれば、さすがにすぐ来てくれるようだ。
六田と名乗った変質者は別に慌てるでもなく、やれやれと言った感じで私に近づく。さすがに何かされるか?この流れ。
「はぁ……マイスウィート梨杏、誤解でしかないよ。良いかな?俺と梨杏は結ばれてるんだぜ?警察が来たってすぐに理解して帰るよ。だから落ち着くんだ梨杏。OKだからね。うん、OKだよ。」
もういい加減相手をしても仕方ないという事実に辿り着いた私は無視を決め込んで警察の到着を待った。
数分後、ようやく到着した警察官は、有無を言わさず変質者を連行した。なんだか両脇を警官に固められて連れていかれる銀色が宇宙人みたいに見えて、私は吹き出しそうになった。
変質者がいなくなると、見世物が終わったかのように野次馬達がいなくなったので、私も少し落ち着いた。連れ去られ際に何か私に告げようとしてたような……まぁ、きっと気のせいだよね。
当然だけど大学には遅刻した。
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