訳あって転校生と同居することになったんだけど至れり尽くせりでめちゃくちゃ甘い
水沢紗奈
Living.1 同居生活の始まり
Sweet.1 幼なじみが至れり尽くせりすぎる
Day.1 訳あって転校生と同居することになった
それは、突然だった。
俺、
勉強も、部活の空手部にも慣れてきた頃。
「実は……仕事で海外赴任することになったんだ」
休日の朝ごはんを食べ終わったリビングで、父さんにこう言われた。
「え?」
「新規のプロジェクトのリーダーを任されたんだ。母さんも一緒についていく」
俺の父さんと母さんは同じ会社の社員で、商品開発チームに所属している。
だから母さんも一緒についていくのはわかるけど……。
「でも、私達が居なくなると、海斗一人暮らしになっちゃうのよね。私はそこが心配なのよ」
「だ、大丈夫だって。俺もう高校生だし、一人暮らしくらい――」
「海斗、料理も洗濯も片づけもできないでしょ?」
「うっ」
図星だ。
俺は家事が壊滅的に苦手だ。
料理はインスタント食品にお湯を注ぐだけだし、洗濯は洗剤の量を間違えるし、自分の部屋の片づけはできなくて、部屋は物で溢れ返っている。
「だから私達、海外赴任が決まってから考えてたのよ。どうやったら安心できるか」
「それで?」
「海斗、苺ちゃん覚えてる?」
苺……
ロングの赤色の髪で笑顔がよく似合う、俺と同い年の女の子で幼なじみ。
苺が転校する小学生の頃まで、よく公園でヒーローごっこして遊んだりしてたっけ。
「覚えてるよ」
「このあいだひさしぶりに苺ちゃんのご両親に会ってね、こっちのほうに引っ越してくるって聞いたのよ」
「そっか」
「だから、2人で同居したらいいかなと思って」
「いいなそれ……は!?」
母さんの流れるような言葉に一瞬うなずきそうになったけれど、驚いて思わず椅子から立ち上がる。
危ない危ない、流されるところだった。
「なんでそうなるんだよ!?」
「苺ちゃん、ものすごく家事が得意なんですって。苺ちゃんのご両親も仕事で忙しいって言ってたから、2人が同居すれば海斗は生活困らないし苺ちゃんは夜怖い思いしなくてすむし一石二鳥だと思ったの」
母さんは笑顔で言うと、ちゃんと苺ちゃん達には話を通してあるわ、とつけくわえる。
俺はため息をついた。
「同居する理由はわかったけど……俺達小学生じゃなくてもう高校生だぞ。いろいろ大丈夫なのか?」
「苺ちゃんに話したらすぐにいいって言ってくれたわよ。『海斗なら安心だ』って」
「……安心か」
俺は小学生になってから距離とってたのに、苺に信頼されてるんだな。
いきなりすぎるけど、一人暮らしで不安な部分をお互いに助け合うっていう意味だと父さんと母さんの話は筋が通ってる気がする。
俺はしばらく考えて、口を開いた。
「わかった。苺と同居することにする」
俺がそう言うと、父さんと母さんは嬉しそうな表情をした。
「じゃあ決まりだな!」
「そうね! 苺ちゃん達に連絡しなくちゃ!」
――1時間後。
家のインターフォンが鳴る。
「はーい!」
父さんと母さんが苺の家に連絡して、苺が荷物を持ってやってきた。
母さんが家のドアを開ける。
俺は後ろで2人のやりとりを見ていた。
「待ってたわよ苺ちゃん! 入って入って!」
「おじゃまします」
「おじゃまじゃないわよ。これからはここが苺ちゃんの家になるんだから」
「あ、そうですね。じゃあ……お世話になります」
スーツケースを引いた苺は俺に気づいて、顔を向けてきた。
「カイくん! ひさしぶり!」
花柄が印象的な、赤色のワンピース。
綺麗な赤色のロングの髪に、大きな目。
幼さを残した明るい笑顔。
小学生以来なのに、苺は変わっていなかった。
「ひさしぶり。苺」
「カイくんの家懐かしいー! 小学生以来だよね!?」
苺は声をあげて、靴を脱いで俺の家にあがる。
「小学生の時に苺が転校したからな」
2人で話しながら、母さんと一緒にリビングに行く。
「じゃあ、私が苺ちゃんの部屋案内するわね」
「ありがとうございます!」
そう言って、母さんと苺は2階に行ってしまった。
その隙を見計らって、俺はすぐに自分の部屋に行く。
勢いよくドアを開けて、自分の部屋を見た。
一瞬だけ見たら壁際にあるものは整理整頓してあるから綺麗にみえる……けど。
床には買った本とかCDとかクッションとかがいろいろ散乱してる。
自分で言うのもなんだけど、片づけが苦手っていうレベルじゃない。
ゴミはないけど……これを苺に見せるのはヤバい。
とりあえず今できる限り片づけておこう。
うん、それがいい。
しばらくして、苺と母さんがリビングに降りてきたので、俺もリビングに行く。
「カイくんどうしたの? なんか疲れてる?」
「ちょ……ちょっと空手の復習してたんだ」
苺から目をそらしながらごまかすと、苺は納得したように笑った。
「そっか。やっぱりカイくん勉強熱心だね」
夜ごはんは、苺が作ってくれることになった。
よくわからないけれど、父さんと母さんは気をきかせて外食をしてくるらしい。
「初めての料理は……じゃーん! カイくんの好きなハンバーグだよ!」
「おおー……」
ダイニングテーブルには、苺が作った夜ごはんが並んでいた。
デミグラスソースがかかった大きいハンバーグと、野菜がたっぷり盛られたサラダと茶碗によそわれたごはん。
すごくおいしそうだ。
「さあ、食べて食べて!」
「いただきます」
俺は手を合わせて、ハンバーグを食べ始める。
ハンバーグをフォークで切って口に入れた瞬間、柔らかい肉とデミグラスソースの味が一緒になって口いっぱいに広がった。
「……うまい」
「やった! ハンバーグは自信あったんだ!」
苺は嬉しそうに目を輝かせると、夜ごはんを食べている俺を眺める。
「何?」
俺が聞くと、苺は首を横に振って、照れたように言った。
「ううん。ただ、すっごく嬉しい」
その笑顔は明るいけれど、小学生の時と違って大人びてみえた。
思わず俺も頬がゆるむ。
「これからよろしくね! カイくん!」
「よろしく。苺」
こうして、俺は幼なじみの苺と同居をすることになった。
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