ホラークラッシャー「すみません、今日も撮れませんでした」
凜
第1話 今日も出ませんでした
「どうやら、今日は出てくれなかったみたいです。すみません! また新しいスポットでお会いしましょう~」
栄がカメラを止め、小さく息を吐く。心霊系ヨーチューバーとして配信を初めて半月、これまで五か所の心霊スポットに突撃したが、未だ遭遇ゼロ。きっと視聴者も呆れて観てくれなくなるだろう。
そう思っていたのだが、何故だかここ数日、視聴回数がうなぎ登りなのだ。理由は知らない。コメント欄を確認するが、意味の分からないことで盛り上がっている。
『いる! いるよ気付いて!』
『あっ消えた』
「うーん、全然いないけど」
何もない空間を歩いているだけなのに、コメントではいるいると騒いでいることが多い。そういうギャグだろうか。何もない配信でこうまではしゃげるのは羨ましい。とりあえずこの人たちのおかげで視聴回数は伸びて収入も入りそうなので、栄は受け入れることにした。
今回の動画も現在編集中だが、いたって普通の夜の森だ。普通の夜の森をどう定義するのか分かりかねるが、とにかく幽霊のゆの字も無いことは分かる。
ちなみに、土地の所有者には事前に許可を取っている。壊したりしなければたいてい無料で貸し出ししてくれる。有料でも千円程度の格安だ。有難い話である。もう関わりたくないから土地を宣伝して購入者を募ってくれと言われたこともある。
「何も出ないのに、やっぱり事故物件とか曰く付きなところだから怖いってことかな」
人生で一度も幽霊に出会ったことがないからか、怖いということがよく分からない。小学生の時のお化け屋敷が一番怖かった。おどかし役がいたので。
「ういーっす。お疲れっす」
「立花、よろしく」
栄の編集部屋に編集担当の立花が入ってきた。彼は友人のツテで来てもらった。今日が初めての仕事だが、以前から飲み友達として知り合いだったので不安はない。
「サエ君の仕事場初めてだ。というかサエ君、ヤバイよ」
「ヤバイって?」
「サエ君の過去動画観たんだけどさぁ、めっちゃ映ってたじゃん。幽霊」
「またまた。立花まで言う?」
冒頭挨拶まで編集が終わった動画データが入ったパソコンを渡す。画面を見た立花が声を上げた。
「ひぇッ一緒に挨拶してんじゃん!」
「誰が?」
「誰って誰だよこれ! なんか顔溶けた知らん人!」
「顔溶けた知らん人?」
立花の横に座り画面をのぞき込むが、そんな人物は画面の端にもいない。いるのは見慣れた愛想笑いの自分だけだ。
「いないよ」
「いるから! 前回までの動画でも視聴者も言ってんでしょ!」
「う~~~~ん」
ここまで来ると、みんながギャグで騒いでいるわけではない可能性が高まってきた。
「じゃあ、全員で俺をからかっているわけじゃないってこと?」
「知らない奴らがそんな一致団結すると思う?」
「思ってた」
だって全く視えないもの。栄は力強く頷いた。立花が画面の右側を指差す。
「ここ、ここにいるの。サエ君のちょっと後ろにさぁ、めっちゃサエ君のこと睨んでる溶けてる人」
「へえ、すごいね。俺も視てみたかった」
「よくこんな怨念バリバリみたいな人と一緒にいて呪われなかったねぇ」
「ラッキーだわ。でも、視られないからアンラッキーか?」
とりあえず溶けてる幽霊はそのままに編集を進めることにした。
結局、散策中にも一体の霊とすれ違っていた。しかも、すれ違った瞬間に消滅。他にもオーブが沢山あるらしく、立花は始終興奮した様子だった。
「面白いよ、これ。まだ開設して半月なのにサエ君の登録者数が一万人突破しているのも納得。今後もこの路線で行こ」
「この路線っていうか本当に視えないんだけど」
「いーのいーの、サエ君はそのままで。よおし、登録者数十万人目指すぞ!」
立花が栄の腕を掴んで上に挙げさせる。
「はい、おー!」
「お、おー……」
こうして、視えない系心霊ヨーチューバーが誕生した。
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