第四楽章 葬送歌
第四楽章 ① 最後の晩餐
エーカの背後から
その
先ほど父親の姿を見た時、いつものように体が動かなくなってしまった。だが、ルチアの放った「ともだち」という言葉に、
ルチアの正体が帝国軍の諜報員だと知った時、ずっと
彼女がエーカに近づいてきたのは帝国人だからで、任務のために友達のふりをしていたのだと……。
でも、そうじゃなかった。
そうであるはずがなかった。
最初は偽物だったのかもしれないが、時が
ルチアが夕日に染まりながらエーカに見せた笑顔は、本物だったのだから。
守りたい。
あの笑顔を殺させない!
その一心でエーカは冷たい道を
「どこなの……?」
エーカは心から問いかける。
応じる声はない。
それでも進むと、目の前に階段が現れた。階段直前の左右にも通路は伸びていたが、それらの道には照明が点けられていないため、階下に続く一本道のように見えた。
エーカが階段を
ランプの光が近づいてくる。暗い足元を確かめながら登っている様子で、まだ上にいるエーカには気が付いていない。
急いで右の通路の
床の
「まったく、あいつら。俺を残して薬で先に
そんな
紅潮した
どうにかやり過ごせたとはいえ、仲間がそばにいる時とは桁違いに敵兵が怖い。
緊張のあまり震えすら起きなかった。見つかれば、たとえ相手に酒が入っていたとしてもエーカ一人では対処できないだろう。
味方が追いつくまで、このまま動かずに隠れていようかという考えが頭をよぎった。生来の臆病者である普段のエーカなら、その選択しかありえない。
けれど、今は魔法が使える。ほんの少しの勇気を出す魔法が。
エーカは口を
トランペットを
子供がいた。
エーカよりも幼い女の子だ。熊のぬいぐるみを抱いて視線を投げてくる姿に頭が真っ白になるが、すぐに不思議なことではないと思い直す。
地下要塞にいるのは軍人だけではない。
軍人の家族や軍属、役人たちも避難しているのだ。安全なはずの深層部を酔っ払いや民間人が歩くのは当然である。
彼女はランプを片手に
もし、いま出会ったのが大人だったなら、【トランペット】を手に持っている以上は誤魔化せなかった。もしくは帝国軍の仲間が一緒にいても危なかった。
エーカ一人だったからこそ助かったのだ。
あの子は
ならば道を
しかし、そんなに時間は経っていないはずなのに子供の姿……正確には彼女が持っていたランプの明かりが見えない。
直角に曲がりくねった道を進むと、次第に食べ物の匂いが
いつ発見されてもいいようにトランペットをスカートの中に隠し持ち、慎重に
奥にはさらに大きな部屋があり、そこでも同じような光景が広がっている。入り口からは見えないだけで、そのまた奥も同様だろう。
卓上や床には
エーカが室内に入っていっても、大人たちが泥酔して騒いでいるおかげで気付かれまい。それでも、まだ部屋の
まるで、地下要塞に
いや。
それは
全部とはいかないまでも、できる限り多くの酒を消費するつもりで、ここに運んだに違いない。何故なら、これが飲酒できる最期の機会だからだ。
あらゆる物資は、いま使わなければ無駄になる。
彼らの思いは理解できた。
子供たちを除く、この階にいる全ての人間は、自らの運命をすでに知っている者たちなのだ。とても正気のままでいられるはずがない。
人は、人生の最期に何をするのか。それを目の前の光景が教えてくれた。
仕事は当然しない。好物を食べ、友と肩を組んで歌い、恐怖を忘れるために酒に酔う。そして安らかなうちに早めの死を選ぶ。
中には、マルコのように武人として最期の決闘に
だが、この階にいるほとんどの者は「最期の宴会」への出席を選んだようだ。
地下に潜れば潜るほど、要塞の主要部に近づけば近づくほどに警備が手薄になっていった理由がようやく判明した。
人生の最期に爆弾の面倒を見ていたい人間はいなかったのだ。
本来なら警備や連絡を担当していた者は、そうでない者たちと共に、今は各々の時間を楽しんでいる。
それか道中で見てきたように、一足先にこの世から退席してしまっている。
自分も早く楽になろう。
そう思い、エーカは暗い道の先に目をやる。
ランプの明かりが遠くに見えた。浮かび上がる身体の小ささから、先ほどの女の子だと確信する。
急いで追いかけた。
「待って……ッ」
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