音楽で人が殺せる世界の従軍記

清水 涙

第一楽章 音楽戦争

オープニング 血に染まる少女の待つ要塞へ

 星が流れていく。


 幾百いくひゃくはあるだろうか、数え切れないほどの星々が光のせんを空に描きながら飛んでいく。まるで、川で泳ぐ小魚の群れように。


 紅色あかいろ山吹色きいろ紺碧色あお深緑色みどり

 鮮やかな光を鱗粉りんぷんの如く後方へとらしながら空をける、光の矢。

 もし真夜中にこの景色をおがめたのなら、なんと幸福なことだろう。


 しかし、昼間にこの光景を見たときは必ず頭を抱えて地にせなければならない。

 なぜなら……。


 流星と見紛みまがうような光の集団は、おのが着地する予定の目標上空まで達すると、大きく弧を描きつつ降下。

 そのまま敵陣に落ち、敵兵を穿うがち、血と臓物の飛沫しぶきを空へき上げた。


 もなくして、はるか前方の山野より金管楽器のものと思しき吹奏音が幾重いくえにも鳴り響く。

 彼方かなたから音とともに光の群れが生まれ、上空に達した。


 今度は、こちらに流星がる番。


「敵陣より、トランペット音響弾おんきょうだんおぼしき飛翔物ひしょうぶつ多数──るぞぉ!」

 空を見るまでもなく、友軍全体が身をかがめる。

せぇ────ッ!!」










 なぜなら戦地で楽器のが鳴り響いたら、


 それは殺意に満ちた音の塊だから。










 轟爆音。轟爆音。轟爆音。

 敵の音弾おんだんは前進中の友軍部隊を阻止すべく、りに落下しぜていく。


「敵陣は健在か。やはり、この距離でトランペッターを使ってもくずせん……な」

制圧せいあつ射撃しゃげきが弱い、ひるむな! それでも精強たる第1師団しだん破壊奏兵はかいそうへいか!!」

「各師団、突撃開始地点まで前進完了しました」


「前衛中隊の突撃を支援せよ。ぎりぎりまで投射とうしゃし続けろ!」

「トロンボーン中隊、現着!」

「遅いッ! すぐに配置にかせろ。撃てるからで構わん、敵の機銃きじゅう陣地を最優先で狙撃そげき!!」

「全軍強襲突撃開始します」



「第9師団右翼隊、突入失敗。壊滅かいめつの知らせであります」

「第4師団左翼隊、北側堡塁ほるい制圧。第22連隊長が戦死」

「前哨砲台制圧」


「敵堡塁群より、『アイギスの盾』の演奏音を聴知ちょうち! 防壁を展開中です!」

「第7師団装甲そうこう騎兵きへい旅団、南側銃座じゅうざ撃破。後方に布陣ふじん


「中央要塞の外郭防御線を突破とっぱ。戦闘工兵こうへい旅団へ突撃路とつげきろ啓開けいかい下令かれい

「要塞内門の爆破成功! 奏兵そうへい第2連隊が『ヴァルキリー交戦曲こうせんきょく』の吹奏すいそうを開始しました」



「──敵要塞へ突入! 一気にれッ!!」





  *





 軍隊は前進する。


 彼らが忠誠を誓う国旗がひるがえり、まだ黒い煙を吐いている要塞ようさい山野さんやを後に残し、進んでいく。



 いざやいざ、次の敵が待つ城へ。



 これから血の濁流だくりゅうまれ、幼いその手に武器を抱くことになる少女が待つ要塞に────。







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