目に物

 これはオフィスの席で左斜め前に座った方に伺ったお話。彼の恋人がストーキングされたことがあったそうです。

彼女は就職したてでお金がない頃、家賃の安い一階の部屋で一人暮らしをしていたそうです。ある日の入浴中に視線を感じてさっと浴室の窓を見ると、磨硝子と格子の向こうでしたが、確かに人影があったそうです。「目が合った」と感じたその瞬間、砂利をじゃ、じゃ、じゃ、と踏み占める音と階段を駆け上がる音、バタン、とドアを閉める音が聞こえて、ストーカーは同じアパートの住人だと分かってしまったんだそうです。

彼女は同じアパートに親しい人はおらず、まったく心当たりがなかったそうです。LOCK ONというやつなんですかね。ああいう人たちって、挨拶とか視線が合ったとか些細な仕草でも自身に好意を向けている、と確信するそうなので。

彼にも相談しつつ引っ越そうとしていたそうなのですが、ある日、帰宅して寝支度を整えていると、玄関のスコープが目に留まったそうです。アパートの外廊下には照明が設定されていて、そこからスコープ越しに光が入ってくるはずなのに、光が何かに遮られていたんだそうです。「覗いてる」と確信しました。彼女は家にあったマイナスドライバーを手に取って背中に隠してドアに近づき、思いっ切りスコープへ突き立てたそうです。彼女自身も必死になって叫び声をあげてガチャガチャガチャガチャ。しばらくして引き抜いたマイナスドライバーには確かに血がついていたそうですが、救急車が来るような様子も警察へ通報されることも無かったそうです。

実は話してくれたその方はすぐ辞めていってしまったのですが、彼、やめていく日に眼帯を付けていたんですよ。あの目、どうしたんですかね。ろっこんのせん。

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