影身

 これはオフィスで右側の斜め前の席に座っている方から伺った話です。

 彼女は高校生の頃、なんとなくいつもと違う道で帰りたくなって、駅から自宅への道を変えてみたんだそうです。

 冬の部活終わりだったので、日が沈んで街灯もつき始めている中、人気のない大きな駐車場を突っ切ってみようと思い立ちました。停まっている車の間を歩いていると、自分の足元で変な方向へ影が伸びていて、すぐ背後に人がいるのかとびくっとしたそうです。けれどすぐに落ち着いて気が付きました。だだっ広く暗い駐車場に等間隔で照明が並んでいるせいで、自身の影が六方八方に伸びていたんです。その影が、彼女が歩く度にくるくる位置を変えるのを見て、彼女は少し安心しました。数メートル前には別の女性が歩いていることにも気が付いて、もし不審者に迫られても走って助けを求められるな、などと考えて女性を見つめていると、女性の影の中の一つがぐにゃりと、歪んで見えたそうです。先ほどと同じく、見間違いだろうと目を凝らすと、動いた影の一つがゆらっと立ち上がって立体になったのです。彼女が驚いて立ち止まると、そのまま影は女性を飲み込み、女性は体が真っ黒になって、そのまま歩いて行ってしまったそうです。

 高校生の彼女は全力で走っていつもの道へ戻って、明るいコンビニやスーパーの前を歩いて帰ったそうです。ろっこんのせん。

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