とある研究者と実験体の話

@ronomeku

第1話

とても貴重な検体の世話を任された。ある程度理性がある為研究内の自由がある個体で言葉も通じる。俺はこの個体から指名されたらしい。

会ってみると巨躯だが一生懸命に身体を縮めて手を握られた。よろしく、挨拶みたいだ。これからこの個体の世話をしなければならない。


この個体が死ぬと一大事。俺の首も飛ぶ。この個体の機嫌を損ねても終わり。この個体に殺される。それぐらいの力がある。どうあがいても終わり。俺に出来るのは精一杯この個体の機嫌を取るだけ…。

どうやら好かれてるらしいし、なんとか身の回りのお世話をしていく。

ただ…、異様に距離が近いのが気になる。この前は不意に頬を大きなベロで舐められた。食べられるかと思ったなんなんだ。部屋の掃除をしながら個体のデータを思い出してた。確か他の生き物を色々掛け合わせて、生き残った唯一の個体。


…ん、そろそろ月に1度の凶暴になる時期じゃないか?確かそう書いてあった。その時期はストレスを溜めないように何かで解消させないといけなかったんだよな。俺はあの個体の好きな物やストレス解消グッズをせっせと集め部屋に置いてみた。これでどうだろう。ちょうど彼も部屋に戻ってきたみたいだ。

あれなんかイライラしてる?ああそんな感じになるんだ。…って、ちょっと。

彼が近づいてきて押し倒された。何々と思ってる間に今度は首を舐められる。ゾワゾワと鳥肌がたつ。体が押さえ付けられてて逃げられない。荒い息が耳元で唸ってる。

何?どうした?聞いても答えてくれないが、まんまるな目がただ事じゃないことを物語っていた。


…あ、これ、発情期だ。


飼っていた犬を思い出した。下に目線をやって涙が出そうになった。理解してからは早かった。これは大事な研究個体で、俺は変えのきくただの下っ端研究員で。体格差も相まって逃げられるわけなくて。

無理無理無理無理!叫んでも止まってはくれなくて。服はボロ切れにされた。

もはや嘆願することしかできない。ひたすら祈りの言葉を吐き続けるだけ。全身舐められて、エグい形のそれが無理矢理俺の中に入ってきた。痛いし圧迫感で吐きそう。口から潰された蛙みたいな息が漏れた。必死に身体を押し返すが全く意に介さない。死ぬ、死んでしまう。なんで俺、こんなことになってるんだっけ。

その後はもう獣のようで。中に出された頃には俺は憔悴しきってて、ああ、俺が男で良かったな。妊娠はしないからな。なんて思ってた。繋がったまま。あいつは満足そうに唸ってる。もういいだろ?離れようとするとグイッと掴まれた。あ、え?嘘でしょ?!逃げられない。また動き始める。


それは結局深夜まで続いた。


信じられない!その行為は結局三日三晩、途中終わったかと思いご飯を持って行ったら襲われて、シャワーを浴びたら襲われて、トイレに行ったら襲われて。ありえないだろ殺される…!!



…やっと落ち着いて、平常運転になってきた。這々の体で逃げ出して上司に訴える。無理ですあんなの聞いてない!!

でもな、彼からの希望なんだよね…。ごめんな、君に選択肢はないんだ。上司が申し訳なさそうに言う。俺の人権より、あいつの方が研究室としては大事なんだ。


…逃げるしかない。荷物をまとめようと部屋に帰ろうと振り返ると何かにぶつかった。見上げるとそいつがいて肩をグッと掴まれた。


「逃がさないよ」


低く唸るような声でそう言った。

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