居酒屋談義~毒と愛を添えて~ #アドベントカレンダー2025

かこ

1130 クリスマスに忘年会

 皆さま、今年のカレンダーの十二番目を見て、お気付きになっただろうか。

 29日が月曜日だということに。

 毎年29日から年が明けた三日まで年末年始の休業に入る我が社は、土日祝に休みを取らせてもらっている。つまり、27日(土)から休みが始まり、ついでに4日(日)まで休めるのだ。魅惑の九連休。

 床の見えない部屋の大掃除とか、実家で年越し蕎麦や雑煮、お節を食べほうだ――


「ちょっと」

「何だよ、俺は年末年始の計画を立ててるんだ」


 同期の成瀬なるせがぼさついた髪をかきあげながらやってくる。今日も隙のない仕事っぷりを見せつけてはいるが、はっきりときざまれた隈が華やかな色のセーターを半減させていた。年末年始の追い込み残業をこなす仲間であるはずの彼女が稟議書やら決算書やらを次々に俺の机に叩きつける。


「何が年末年始の計画よ。忘年会の日取りを抑えられなくて、クリスマスにねじ込んできた阿呆のクセに」

「モラハラで訴えんぞ」

「逆にセクハラで訴えてやるわよ」


 ハラハラハラとお互いに言葉を被せながら、キーボードを叩く音が大きくなっていく。


「仕事するんだか、遊ぶんだか、どっちかにしてくださいよ」


 ぼそりと桂木かつらぎが火種を落として通りすぎていく。


「遊んでねーぞ」

「遊ぶわけないでしょ」


 ははといけすかない後輩の笑い声は全く悪びれていなかった。


𖥧 𖠰 𖥧 𖠰 𖥧


 げ、とあからさまに眉をひそめたのは成瀬で、え゛と顔を引きつらせたのはお得意先の五十嵐いがらしさんだ。

 なんか海鮮居酒屋の会計前で妙な空気が流れたが、成瀬のことだ、まぁた無理な話を振ったのだろう。当然できますよね、と自信たっぷりの顔がありありと甦る。

 体育会系のノリっていうヤツ? 俺、そういうのついていけないから、五十嵐さんに味方する。


「奇遇ですねぇ! 五十嵐さんトコも忘年会ですか?」


 一瞬できょとんとした五十嵐さんがクリスマスに?と落とした言葉は、俺の心を深くえぐった。

 五十嵐さんが大きな手で首の後ろをかきながら俺達についてくる。


「俺達は今日がプレゼンだったから、それの打ち上げ。たまたまキャンセルが入ったみたいで」


 案内された席まで行って、運命を感じた俺は、五十嵐さんに向き直る。


「隣じゃないですかー。あ、そうだ、一緒に人生談義しましょうよ」


 じんせいだんぎぃ?と露骨ではないが、やんわりとかわされた。


「しましょーよー!」

「皆がいいって言ってくれたら」


 苦笑する五十嵐さんはガタイはいいのに、気弱な態度をとる。優しい! 押せばイケる気がする!

 この人の恋愛遍歴とか気になるに決まってるだろう。同意を求めて後ろを振り返ったのに、同期も後輩も白けた顔をしていた。



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