第11話 合宿最終日─

 夏合宿、最終日。


 朝六時。

 昨日までの疲れが残っているはずなのに、

 部員たちの動きはむしろ軽かった。


「体が……勝手に動く」

「判断が速くなってるの、分かるよな」

「蓮対策の練習……あれマジで効いたわ」


 昨日の夜練の効果が全員に出ている。

 誰もが“昨日より成長している自分”を実感していた。


(いい流れだ……)


 そんな中、大久保先生がグラウンドに姿を見せる。


「最終日だ。

 今日のテーマは“新戦術の導入”だ」


 部員たちが一斉に前のめりになる。


「戦術……?

 まだ成長するのか?」

「これ以上とか……胸熱すぎるだろ」


 先生はホワイトボードを出し、

 そこに一つの陣形を描いた。


【4-3-3 可変型】


(……きたか)


 未来の育成現場でも使われていた、

 “現代サッカーの基本形”だ。


「この形は、一人のFWだけで戦うんじゃない。

 蓮を“最大限に活かす”ための布陣でもある」


 ざわめきが広がる。


「蓮が降りれば中盤が増える。

 蓮が流れればサイドに厚みが出る。

 蓮が裏へ抜ければ、全員が連動してスペースを作る」


「つまり……蓮の動きに合わせて形が変わるってこと?」


「そうだ」


 圭太が嬉しそうに笑う。


「すげぇよ先生……!

 蓮中心のチームが、ほんとに形になってきた!」


 大久保先生も笑った。


「合宿を通して、お前らは確実に変わった。

 だからこそ、この戦術が機能する。

 今なら……“強豪校にも勝てる”」


 胸の奥が熱くなる。


(こんな言葉……十年前には絶対聞けなかった)


 さあ、最後の練習が始まる。



 午前練は戦術理解。

 午後練は実戦形式。


 蓮が降りると圭太が前に。

 蓮が右に流れると左サイドが高い位置を取る。

 DFラインは蓮の位置を見てラインを上下させる。


「蓮が下がった! 中盤厚くしろ!」

「逆サイド来た! 開けろ!」

「スピード落とした! 蓮の合図だ!」


 昨日とは比べ物にならない連動性だった。


(これは……全国狙えるレベルだ)


 圭太は俺のパスを受け取ると、

 たった一瞬で周囲を見渡し、正しい位置へボールを出す。


「ナイス判断!」


「はぁっ……蓮が下がった瞬間にスペース空いたから……!」


(やっぱり……圭太は伸びる)


 サイドバックの二人も、俺を止めた経験から読みが鋭くなっていた。


「蓮、縦切ったぞ!」

「お前のカットインは研究済みだ!」


「へぇ……やるね」


 俺は一歩遅らせて逆へ切り返す。


「くっ……読めない……!」

「でも昨日より止められる!!」


 全員が本気で食らいついてくる。


 この合宿で、間違いなく“別チーム”になった。



 夕方。

 最後のスパーリングが終わり、

 全員が整列する。


「よし……これで合宿は終わりだ」


 大久保先生が、珍しく満足そうな顔をしていた。


「正直、初日は不安しかなかった。

 だが今は胸を張って言える」


 息を吸い――


「――お前らは“弱小校”じゃない。

 蓮を中心に、全国を狙えるチームになった!」


「うおおおおおおお!!!」

「マジかよ……俺ら強豪校になれるのか……!」

「蓮、ありがとう……!!」


 歓声が響く。


 そんな中――


「失礼します」


 突然、合宿所の入口から声が聞こえた。


 スーツ姿の男が一人、

 練習を見ていたらしい。


「……誰だ?」


 大久保先生が眉をひそめる。


 男はゆっくり歩いてきて、

 俺の前に立った。


「君が……蓮くんだね?」


「はい」


 男は名刺を差し出した。


「埼玉市ユース育成年代コーチをしています。

 ――君のプレー、全部見させてもらった」


 部員たちが一斉に息を呑む。


「ゆ、ユース……!?

 え、プロ育成の……!?

 なんでここに!?」


 男は笑った。


「この地域で“天才が現れた”と聞いてね。

 蓮くん。

 君がどこでサッカーを続けたいか、話を聞きに来た」


(……ついに来たか)


 未来では届かなかった“プロの入口”。

 この世界でしか掴めないチャンス。


 だが――すぐ横には、

 俺と一緒に強くなろうとしている仲間がいる。


 圭太が不安そうに俺を見ていた。


「蓮……。お前、どうするんだよ……?」


 胸が痛む。


(俺は……どこで戦うべきなんだ?)


 その問いが、

 合宿最終日という“分岐点”に重く響いた。


______________________________

▶ 次回予告


第13話『選択の時──ユースか、仲間か』

プロ育成の誘い。

仲間との絆。

大久保先生の覚悟。

そして蓮が選ぶ未来――

試されるのは“天才FWの心”だった。

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