第32話 魔族襲来
秘密基地に到着する。
さすがに地下建設で疲れているからか地下はしんと静まりきっていて、かすかに聞こえてくるのは寝息ばかりだった。
広がっているのは出来上がった数少ない建物と、作業途中の建物。そして、家の数が足りていないので外で寝ている男たちくらいだろうか。
「そろそろかな?」
まだ足音は聞こえないけど、この地下空間は俺の認識できる状態にある。
もちろん魔力を広げていく必要はあるから常時ってわけではないけれど、方角は分かっているため正確に魔族がいる場所を察知できていた。
少し待つと、かすかに靴音が聞こえてきた。
場所的にみんなが寝ている場所から少し離れているのが救いだな。これだけ離れてる普通の会話くらいなら届かないだろうし。
そのまま待っていると、薄暗くなった通路からぞろぞろと姿を現して。
「……反応がないと思ったら、なんだこれは?」
姿が見えた第一声。
先頭にいた魔族がそんなことを漏らしていた。
「っというか、あの格好……」
目深にかぶったフード。
あれ、完全に俺を儀式の祭壇にした奴らの1人じゃないか?
後ろの奴らはフードをかぶっていないし、もしかして魔族の幹部がかぶっているとか?
いや、そう決めつけるのはよくないか。
後ろには人型のスライムみたいのとか、獣人っていうのだろうか? 狼が二足歩行したらこんな感じかなぁっていう感じの奴らがいる。
「グレイブン様」
「ああ」
部下と思われる魔族の言葉に、フードを被った魔族が頷いた。
着ている外套があの儀式の祭壇されていた時に見たのとほぼ同じだ。全身が隠れているからどんな姿をしているのかは分からないが、声質的に男っぽい。彼がリーダーなんだろう。
そして、数歩進んだところで驚きの声が上がる。
「貴方様は!?」
これだけで分かってしまった。
こいつ、完全にあの儀式の場にいた奴の1人で間違いない。
というか、あの一瞬で俺の容姿を見てたんだな。どさくさに紛れて体を作って逃げ出したのに。
まあでも、これで俺が魔王の力を持っていることは分かっただろう。
それならそれで、会話するくらいはできるかな?
「えっと……」
「っ——!?」
「……どうしてここに?」
そんなにビクッとしなくても……。
まあ、気持ちはわかるかもしれない。
お仲間の腕を消し飛ばしちゃったし……みんな吹き飛ばしちゃったし……。
だけど、さすが魔族の幹部。
軽く息を吐きだすと、説明をしてくれた。
「……この街は人間領側の守備の要所。故にこの街を落とすことが魔族が人間へ勝利する第一の条件なのです」
「グレイブン様!」
「お前は黙っていろ!」
部下をグレイブンが一喝する。
後ずさりした部下を一瞥して、彼は続ける。
「目を付けたのはこの場所。つまり地下水路でした。アンデットを育て、数を増やし、水路から解き放つことで街を混乱の最中に陥れる。そして、混乱に乗じて城門を突破し、この街を落とす算段だったのです。ですが、今はこの有様。もしや、貴方様が?」
「え、えっと……」
これ、正直に話していいものなのかな?
でも、だいたい見当はついているみたいだし、話すしかないか。
「ま、まあ」
「そうですか……」
どうやら怒ってはいないっぽい。
とはいえ、ここで改めてここを全滅させて拠点とする——なんて言われても困る。
帰らせるにしても交渉はしないといけなさそうだし、情報収集は必要だろう。
「それよりも、どうやってここに来たんだ? 水路は魔族領にはつながってなかったはずだけど……」
「ああ、簡単なことです。貴方様はご存じないと思いますが、城壁の外にはスラムがあるのですよ。そして、そこには人が通れる程度の穴がある。我々の中で人に化けられるものが情報収集として侵入していました」
魔族たちはセリアが通ってきた穴をすでに利用していたらしい。
となると、結構人間側って危機に立たされていたんじゃないだろうか?
人間側は城壁から監視するにとどめているのに、魔族はこの街を落とそうと密かに暗躍していた。
街の様子を見ていた限りそれに気づいていた素振りも感じられなかったし、スラムの人たちも同様だ。
「そして、今回もそのつもりでした。我々の大半は侵入がばれた時の仲間を保護、または陽動のために人員だったのですが、まさかスラムに誰もいないという非常事態。深夜であること、水路の入り口が近くにあること。これらの条件がそろっていたので全員で様子を見ることにしたのです」
「…………」
スラムに誰もいなくなったから、様子を見に来たと……。
これって、俺のせいってことじゃないか?
移住を申し出たのはセリアだけど、承諾したのは俺だしな。
なんとなくだけど、今までしてきたことがすべて繋がっている気がする。。
俺が魔王城から逃げ出したのも。
セリアと出会ったのも。
俺が城壁の中に逃げ出したのも。
セリアとパスをつないだのも。
そもそも、この地下水路を見つけたのも、か。
たぶん、俺が魔王側についていたらそもそもこんな計略なんて要らないだろうし。
セリアと出会っていなかったら、移住するなんて話にもならなかっただろうし……まあ、その場合はこの街が攻められていたかもしれないけど。
もしセリアとのパスをつないでいなかったら、セリアはここまで追ってこれなかった。その場合は俺が地下拠点を作って、魔族側も計略が潰されてたっていう形だろう。
そう考えると、俺が転生したのって……かなりまずい立ち位置に転生したのでは?
結構まずい状態であるのに、こんな考えが浮かんでくる。
これも勇者と魔王の力のせいなのだろうか?
正直、力づくって話になったのなら負ける気がしないのだ。そして、たぶんそれがわかっているからこそ相手側も実力行使には出ていないんだろう。
「どうするべきか……」
こいつらがこの後どういう行動に出るかは分からない。
だけど、人間側に害することは間違いないんだ。けど、だからといって俺は魔族側を害そうとは思えない。
これは勇者と魔王が混ざってるのもあるけど、元々日本に住んでいたってのもありそうだ。人種差別は良くないっていう考えがどうしても根底にある。
魔族たちをそのまま帰らせた上で、こちら側にちょっかいを出させないようにする。
そうするためにどうするべきか考えてると、グレイブンが口を開いた。
「正直、この策を止められたのは痛手ではあります。アンデットを育てるのにも時間がかかりますし、この場に人間がいるということはアンデットの存在が露呈するということですからな。ですが、貴方様がいたことで状況が変わりました……魔王様」
その瞬間、グレイブンの後ろにいる魔族たちがざわめいた。
信じられない。だけど、上司が言っていることだから本当なんだろう。そんなニュアンスの言葉が飛び交っている。
その中で、グレイブンは俺に告げた。
「魔王様、お願いします。この街を落とすのを手伝ってください! 魔王様の力があればこの街を落とし、最後には人間を根絶やして魔族がこの大陸の統べることができます! どうか!」
グレイブンが膝をつき、頭を垂れる。
それに続いて、背後の魔族たちも同じような姿勢をとった。
だけど、俺にその気はないから。
「それは——」
その瞬間だった。
俺の意識が魔族に集中していたのもある。油断していたのもある。
だからこそ、建物から出てきた陰に気づかなかった。
「シミくん?」
眠気にこすりながら、ゆっくりとした足取りで近づいてくる影。
セリアが、魔族の前に姿を現したのだ。
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