第7話 苦節一日、楽園を見つける

 石畳と石造りの建物が立ち並ぶ通りには、縦横無尽に人が歩いている。

 時折馬車が通る時には皆が道を開けて、通り抜ければまるで水のように隙間を埋めていっていた。


 どこを見ても——人。

 でも、着ている服はよく物語で見るような中世ヨーロッパっぽい見た目で、改めて転生ってやつをした自覚が湧き上がってきていた。


 そうして人混みに紛れながら歩きながら、見つける。


 看板に書かれた『名物』という文字。

 掲げられた旗に書かれた『アルクス・リミニス』という文字。


 なんで文字が読めるのかというのも気になるけど、まあだいたい魔法について分かるのと同じだろうと置いておいて。


 ——城塞都市アルクス・リミニス。


 俺は今、その都市の中にいた。


 ちなみに、城塞都市に入れた理由は簡単だ。

 飛び越えた……それだけである。


 魔王城? から一飛びで城塞都市近くまで飛んだ跳躍力をもってすれば、高い城壁を越えるなんて朝飯前だった。

 幸い、見張りに見つかることもなく中に入り込んだ俺は、夜が明けるのを隠れて待ってから街に出たのである。


「まずは……拠点だよな」


 どこで生活をするにしても、衣食住は必要だ。

 それに、お金も。


 その点でいえば、俺は衣しか持っていない。

 その服も魔力によって生み出せたものだし……まてよ?


「もしかして、魔力でお金を作れる……?」


 直感的にはできる確信がある。

 だけど、俺はまだこの国のお金を見たことがない。


 なんとなく思い浮かべようとすれば出来そうだけど、造貨は犯罪だろうし、ちゃんとしたものを作るべきだ。

 背に腹は代えられない。最低限にして、それも最終的にはちゃんと稼いで、ちゃんと回収するから許してほしい。


「なら、見てみないとダメか……」


 それなら、市場を探すのが一番手っ取り早そうだ。


「市場を探すなら、一番賑やかなところだよな」


 特に、早朝なんて競りをやっている印象が強い。

 異世界で日本の常識が通用するかは分からないけど、ダメで元々、行動の指標にするには十分だろう。

 俺は決めると、市場を求めて歩き始めた。




 


 市場は予想よりも早く見つかった。


 それもそうだよな。こんなに早くから出歩いている人の目的なんて、市場くらいなものだし。

 人が歩いていく方向に付いていってみれば、あっけないほど早くたどり着けた。


「あとは、硬貨を一目見れれば——」


 そうすれば。魔力で作り出すことができる。


 お? ちょうどやり取りしてる人がいる。

 ふむふむ……ずいぶんとシンプルな構造をしてるな……。


 そりゃあ彫金技術が必要なものだけど、ただの円形で何の模様も無いのは危な過ぎないか?

 まあ、作る手前、シンプルに越したことは無いんだけど……。


 とはいえ、これで準備は整った。


 ————でも。


 本当にいいのかな?

 ここまできて足踏みするのも変かもしれないけど、正直気が進まない。


 でも、作らないとお金はないし、かといってこんな子供ができる仕事なんて……。


「——きみ!」

「え?」


 突然の声に顔を上げる。

 すると、騎士服を着た知らない男が俺を見下ろしていて。


「ここらじゃ見かけない子だけど、親御さんは? もしかして迷子かな?」


 ……やばい!?


 これ、日本じゃ交番送りにされるやつだ。

 そして行きつくのは保護者の元……つまり、ここではセリアの元になるわけで。


「って、なんで逃げるんだ!?」


 気づいたら全速力で逃げ出していた。

 さすがチートで作り出した体。追いかけてくる騎士? を置いてけぼりにする。

 

 ——そして。


「あそこだ!」


 建物を男の視線を遮った瞬間、俺は水路の側面に開いていた穴に飛び込んだ。

 そのまま追って来れない確信ができるまで進み、一息をつく。


「ふぅ。結構入り組んでたし、追いつけないだろ」


 ちなみに、俺は大丈夫だ。

 工事現場では工事の進捗で通路が変わっていくし、日によって昨日通れた道が通れなくなるなんてこともある。

 それに、仕事上現場が終われば次の現場になるわけで、通勤するための道がガラッと変わるのも日常茶飯事だ。


 だから、こうして急いで逃げてきたけど外までの道は頭に入ってる。


「それにしても、地下水路にしては作りがしっかりしてる。避難通路とかだったのかな?」


 城塞都市というだけあって、その辺りの機能は用意していそうだ。

 ただの水路なのにちゃんと通路が用意されているし、高さも大人が通れるくらいは十分ある。


 若干職人の血が騒ぎつつ歩いていると、やけに広い空間に出た。

 だけど——


「うわ……」


 何かがうじゃうじゃとしていた。

 目を凝らすと骸骨や人死体のようなものいる。アンデットというやつだろうか?


「気持ちわる……」


 前世が人だけに、見ていて気持ち悪い。

 それに少し疑問が湧いてくる。


「というか、なんでこんな都市の下にこんなのがいるんだよ?」


 やはりこんな都市にもホームレスのような人がいるんだろうか?

 それが死んで、アンデットになったとか?

 そう思うと少しやるせない。死んで終わりじゃなくて、死後もフラフラと彷徨ってるなんて……。


「見なかったことにして、さっさと出よう」


 そう呟いて、振り返ろうと——


「あ」


 目が合った、気がした。

 でもそれは、気のせいじゃなかったらしくて。


「うおおおおおおおっ!?」


 突然走り出したアンデットたち。

 しかも、その全部が俺を目掛けている。


「マジかよ!? って、逃げ切れるのか!?」


 本気で走れば逃げ切れそうだけど、通路は入り組んでいたし、壁にぶつかるのが目に見えていた。

 それに、あまり無理に逃げると通路自体も破壊してしまう可能性も。


 悩んでいる内にもアンデットは迫ってくる。

 そんな時、思い出した。


「そうだ! 浄化!」


 あの、ハエを綺麗にした魔法だ。

 アンデットには浄化が有効なんてゲームでも良くあることだし、それにもう時間が無い!


 俺は少しだけ集中して、魔力を集中する。


「あれ?」


 なんか、集めづらい?

 思ったよりも集まりが悪い……けど、そんな疑問を覚えている間にもアンデットは迫ってきていて。

 俺はさらに集中して、魔力を収束させた——よし!


「浄化!」


 瞬間、俺を中心に白い光が広がっていく。

 その光に触れた瞬間、アンデットたちは塵となって消えていった。


「あ、焦ったぁ……心臓に悪いって……」


 ともあれ、浄化には成功したらしい。

 アンデットがいた広間を見れば、アンデットがいたなんて信じられないほど綺麗になっていた。


 一軒家が建ちそうな広さの空間からは汚れがきれいさっぱり無くなっており、端を流れる水は驚くほどに澄んでいる気がする。

 自分でやったことだけど、やり過ぎたんではないかと心配になる程だ。


 そして、思いつく。


「ここ、俺の家にできるんじゃないか?」


 アンデットがいたということは、人が寄り付いていないということだろう。

 なら、これから先も人が寄り付く可能性も低いし、買い物をするのにだって水路を出れば問題ない。


 それに匂いも、浄化したおかげか臭くなんてないし、むしろ石鹸の香りが漂っている気さえする。


「そうだよ。ここが俺のセカンドライフの場所なんだよ。色々と苦労した甲斐があった……」


 ここなら誰にも迷惑はかけないし、かけられることもない。

 多少出る手間はあるけれど、許容範囲内だ。


「なら、材料は……最悪木材は外で調達すれば……お金も換金できるものを見つければ……電気の代わりに魔力……配線は……ケーブルはどう作るか……ふふふふふふ……」


 ここまで血が騒ぐのも初めてな気がする。

 すでに俺の頭は、この楽園をどう改造するかでいっぱいだった。

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