第3話 小悪党は支部長とじゃれ合う
今日の探索を終えて探索者協会東京支部に帰還する。
中に入ると受付に見知った顔のお姉さんがいたので挨拶する。
「彩奈さん!戻りました。」
彩奈さんは黒髪ロングのザ・クールビューティーなお姉さんみたいな見た目だ。歳は流石に聞いたことないけど20代後半くらいの年上の女性。何よりスタイルが良くてタワワもかなり主張をしていてめっちゃ綺麗。
正直メッチャどストライクだから目を合わせると照れてしましそうになる。カッコ悪い姿を見られたくなくて気を付けてるけど、俺の担当になってからそれなりの付き合いになった今でも時々どぎまぎしてしまう。
「お疲れ様です。今日はお早いんですね。何かありましたか?」
少し首を傾げながら不思議そうな表情で聞いてきた。
「実は…ステータス強化も一段落したので例のアイテムを今日使おうと思いまして。」
「!……遂にやるんですね…。本当にいいんですか?夕貴さん。」
彩奈さんは驚愕したような表情を浮かべた後、真剣な表情で聞いてきた。
「今のままだと何時まで経ってもAランクの探索者になれるビジョンが見えません。それに折角探索者やるなら最強を目指したいじゃないですか!」
「まあ、ここ半年説得しても変わらなかったので今更考えを変えるとも思ってませんが…、やはり勿体ないですよ。Cランク探索者まで上り詰めた探索者で、それも探索者協会内での評判の問題で実際はBランク以上の実績はありますよ?特にBランクダンジョンをソロで攻略するなんてAランク探索者でもできる人はそういないはずですし……。週一回ダンジョンに潜るだけで遊んで暮らせるだけの金銭的余裕はありますよね?」
実際の所、今の俺はCランク探索者でこれは全探索者の約10%の上澄みだ。それに彩奈さんが言うように実力的にはBランク探索者ぐらいの実力はあると自分でも思っている。それなのにBランク探索者になれない理由は恐らく俺の過去の悪行が原因なんだろう。
これは、俺は小学5年の時に探索者になったが、その時は15歳以下の子供が探索者になる事が違法だったから、かなりグレーな方法(というか違法)で探索者協会に登録したから協会内での評判が滅茶苦茶悪くなっている事のせいだろう。
俺を仮にBランク探索者と仮定するならば俺は全探索者の約1%の上澄みにあたる。
探索者は支出も多いが収入も多い。Bランクなら既に生きていく分には困らない程の収入は余裕である。
「確かに夕貴さんの現状では不満に思う部分もあるかもしれませんが、他の多くの探索者も大なり小なり悩みを抱えてます。ですが、みんなそれなりに折り合いをつけて探索に挑んでおられます。恩人との約束も大事かもですが、自分の人生設計も考えても良いのでは?」
「いや、別に約束があるからってだけじゃないですよ。確かにあいつとは『探索者としてAランク探索者以上の高みに登る』って約束しましたけどそれだけじゃないです。……まあ、その…やりたい事もありますし。」
まあ、確かにあの約束は俺にとっても心の多くを占めてる部分でもあるがそれだけじゃない。
ただ、もう一つの理由の方はこんな所で言うのは憚られるから流石に口には出来ない。
「はぁ……。夕貴くんもやっぱり男の子ってことね。分かりました。では、支部長の所に話を伝えに行ってきます。少しお待ち下さい。」
ここの支部長には【気まぐれな神の転生石】を入手して将来的には使用する事を伝えた時に、「おいおい!そんな貴重アイテム使うなら、俺の前で使え!」と言われている。
「いや、あのおっさんどうせ暇だろうし、直ぐ奥まで行くことになるだろうから付いていきますよ。」
「ああ……。まあ、そうですね。「今日は孫が遊びに来るんだよ。」と年甲斐もなくはしゃいでましたから特に用事もなさそうですね。…では付いてきてもらえますか?」
彩奈さんは少し思案する様子を見せていたが俺を案内してくれるらしい。
てか、あのおっさん職場に孫を連れてくるとか職権濫用じゃねぇのか?どうせ孫の前でいい格好見せたいだけだろ。
建物の奥に進むと少し重厚な扉に辿り着いた。
彩奈さんはノックした後、中の人間に声を掛ける。
「支部長?失礼いたします。急ですが、お客様をお連れしました。」
「ああ!?客?…まあいい。丁度今書類仕事が終わった。連れてきてもらえるか?」
中からは野太い威圧感のある声が聞こえてきた。
「では失礼します。」
中にいた男は探索者協会東京支店支部長。
男というより漢って字が似合う体格のいいおっさんだ。
名前はたしか
探索者を相手にする以上、舐められる事があってはいけないのは分かるが、こんなのを支部長にするなんて、探索者協会は見る目がないな。
まあ、元Bランク探索者でかなりの実力らしいし、その辺が加味されたんだろう。
「夕貴!お前か。何の用だ。Bランクのランクアップならまだ無理だぞ。」
「ちげーっつーの。てかそれはお前が5年も前の事を未だに根に持って評価下げてるからだろうが、本部にクレーム入れるぞ!」
やれやれ困ったおっさんだ。いつまでも根に持って小学生みたいだ。
そう思いながら文句を言ったが、おっさんは額に怒りマークを浮かべながら文句を言い返してくる。
「違うわ!こっちは寧ろ怒ってる本部を宥めてる方だっての。それにそれがなくたってお前にBランクは与えん。」
「はあぁ!?なんでだよ。」
「幾らか昔より探索者になれる年齢が下がったとは言え、高校生1年生のガキにBランクは
ちっ!歳かよ。面倒くせえな。
てか、まてよ!?
「おい!それなら天宮のやつはどうなんだよ!あいつBランクじゃねぇか!」
俺より一つ年下の探索者で、何気に最年少でのCランク探索者だった俺をあっという間に抜き去った天才だ。
「お前とあの娘を比べられるか!あの娘はAランクパーティー【栄光の担い手】のメインヒーラーで【街角の聖女】様、世間の印象も良い。ランクアップを押し留める声もなくはなかったが、それ以上に良い部分が目立った。一方でお前は協会に迷惑をいっぱい掛ける【小悪党】。当然の結果だ。」
「ちっ!」
まるで俺が悪人みたいじゃないか!
腹を立てて盛大に舌打ちをする。
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