のらねこ 〜壊れた心が、もう一度歩き出すまで〜

のら犬ユイユイ

Prologue

 とある町のとある家。ある夜のこと。

 少女は自室の本棚から絵本を1冊抜きとると、トコトコと部屋を出て階段を下りる。目指すは両親の待つ部屋だ。

 2人の大人は待ちわびたように、扉の前に立つ少女の音を聞きつけて、小さな笑みを囁き交わす。


『今日はこれにする!ママ、読んで〜』

 少女に手を引かれ、夫に目配せしながら妻はソファを立つ。

 両親はいつも絵本を読む係と、キッチンリセットをする係に分かれているので、今日は妻が読み聞かせ、夫がキッチンリセットをすることになる。よろしくね、の目配せだった。

 ソファの前のローテーブルに置かれた飲みかけのココアのように、仄かに温かく満たされた空気。

 少女の部屋は甘い匂いがした。ベットに潜り込んだ少女は目をキラキラさせて、絵本を差し出しその時を待つ。


ゆっくり、ゆっくりと包まれて

一瞬に負けそうな誘惑がやってくる

ただ時計の音が、聞こえない

せ鼓動も、いつしか聞こえなくなるかのような


いつでも始まる、その本は。

それでもやっぱり少女は、それを選ぶ。

いつでも同じように、いつも違うかのように。

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