第26話:浦島の告白

鬼頭を捕まえた桃谷たちは今後のことについて話し合うため、一度ヘリと補給船は再び鬼ヶ島へと上陸していた。


「ゴンさん、鬼頭の様子はどうだい?」


「補給船で大人しくしているよ。」


「剛羅が見張りでついている。鬼頭はこのまま補給船で連れて行こう。」


犬飼は桃谷にそう言うと辺りを見回した。


「そういえば、猿渡はどこへ行ったんだ。」


「猿渡くんは基地に行って鬼頭が持っていた警察本部の隠蔽データの確認に行っているよ。」


「桃谷は鬼頭が言っていたことは本当だと思うか?」


「あの警察組織が鬼頭の指示に従って鬼の事件の隠蔽をしたということですか?」


「あぁそうだ。」


桃谷はしばらく考え込んだ。


「おそらく本当だと思います。」


「あの自信満々の鬼頭を見ると何らかのコンタクトは取っていたのではないでしょうか。」


犬飼は桃谷の答えに頷いた。


「この島が警察組織のデータに重要データとして保管されていたことも気になるな。」


話し合いのためヘリから降りていた雉屋が二人のやり取りを聞いて表情が強張る。


「警察組織と鬼頭は結託していたということなの?」


「さすがに結託とまではいかないと思うが、鬼事件の真相を知っていた可能性は高い。」


三人が話をしていると猿渡がプロメテウスの基地から帰ってきた。


「猿渡くん、鬼システムから警察組織の隠蔽データは抽出できたかな?」


桃谷の言葉に猿渡は得意気に答える。


「はい、データはこのUSBの中に入っています。」


「これで父の証言が真実であったことを証言できる。」


雉屋の目には薄っすら光るものがあった。


「君たち…」


今後の話し合いのため補給船から下りていた浦島が突然口を開いた。


「どうしたんだ?浦島」


犬飼は浦島に問いかけた。


「本当は…この島から帰るまでは黙っておくつもりだったんだ。」


「だから、何なんだと聞いているんだ。勿体ぶりやがって。」


浦島はしばらく黙り込んだ後、静かな口調で語った。


「きっと…今話してもキジさんは許してくれるはず…」


「浦島さん、父の居場所を知っているんですか!」


浦島の言葉を聞いた雉屋が思わず叫んだ。


「知っているも何も今は私のところに身を寄せて働いているよ。」


「どういうことですか?」


なぜ浦島船長のもとに身を寄せて父が働いているのか、全く理解できなかった。


「君たちも知ってのとおり、2年前、鬼の強盗事件で私たちは大事な仲間を失った。」


浦島は犬飼に目線を移した。


「そう、当時はキジさんが刑事部長の時だ。」


「当時はまだ浦島も俺と一緒の捜査第一課の刑事だったな。」


「強盗事件を追う中で鬼の目撃情報があった。そして俺は後輩と鬼を目撃した。」


「そう、その後、その後輩刑事は転落死してしまった。」


「この野蛮な鬼を放置する訳にはいかない。」


「キジさんは鬼の情報収集に走り回った。」


浦島は表情を変えずに冷静に語り続けた。


「しかし、警察組織は熊の仕業だと事故死として彼の死を処理した。」


「キジさんはそれに納得がいかずに密かに鬼の情報を公開しようとしていたんだ。」


「まさか!それでキジさんは刑事を辞めさせられたのか!」


犬飼の表情は怒りに満ちていた。


「事実上はそうなりますね。」


「表向きは体調不良を理由に辞職されましたが、辞めさせられたようなものです。」


「でもどうして父は刑事を辞めてから私たちの元から姿を消して、浦島さんのところに行ったのですか?」


「その時はまだ浦島さんは刑事だったんですよね。」


雉屋は不可解な話に疑問を投げかける。


「鬼ヶ島を探すため…かな。」


浦島は一同の疑問を振り払うかのように語り始めた。


「キジさんは辞職後、私に鬼の情報捜査を継続するように訴えた。」


「でも私にはその技量はないし、私もゴンさんと同じく組織にはうんざりしていた。」


「それで私はもともと趣味で船の免許は持っていたし、キジさんの力に少しでもなれればと船の仕事をしながら鬼ヶ島の情報を探ろうと思ったんだ。」


浦島の話しを聞いていた雉屋がさらに疑問を投げかける。


「でもどうして私たち家族の前から姿を消す必要があったんですか?」


浦島は雉屋を見ながら申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「ごめんね。翼ちゃん。でもキジさんが家族を巻き込みたくないから絶対に話すなって。」


「私も心苦しかったんだ。」


雉屋は浦島の気持ちを察した。


「すみません、浦島さんも父に振り回されただけなのに…つい…。」


浦島は気遣う雉屋を見て笑いながら答えた。


「大丈夫だよ。刑事を辞めたのも私自身の意思だし、キジさんも海が好きでお互いに気が合っていたこともあるしね。」


「でも、民間での鬼ヶ島の捜索は思っていたよりも困難だったんだ。」


「やはり民間での情報収集では刑事で情報収集するのとは情報量が圧倒的に違いすぎた。」


浦島はこの2年間の苦労を回顧しながら語っていた。


「鬼ヶ島の捜索は完全に暗礁に乗り上げていた。」


「そこに、今回の指令が警察本部からあったんだよ。」


「皮肉だよな。あれほど嫌っていた警察組織からの指令で鬼ヶ島を見つけることができたんだ。」


浦島は雉屋を見ながら微笑んだ。


「しかも、海上保安庁のヘリのパイロットが雉屋翼ときたものだ。」


「キジさんに言ったら目を丸くしていたよ

。」


「自分のことはこの件が終わるまで内緒にしてくれって言われてね。」


「それでお前はさっきまで俺たちに黙っていたのか。」


「キジさんも水臭いな。俺にも一言声をかけてくれればよかったのに。」


犬飼の言葉に浦島は笑いながら答えた。


「キジさんもゴンさんの性格を知っていてのことだよ。」


「ゴンさんに言うと何しでかすか分からないからね。」


「何だと!?」


雉屋父の失踪の真相を知った一同は安堵の表情を浮かべていた。


「でも、本当に父が無事でいてくれて良かった。」


雉屋の目からは涙が溢れていた。


「浦島さん、ありがとうございます。真実を話してくれて。」


「でもまだ終わってはいないんです。」


「それでは向かいましょうか。次なる鬼退治に。」


桃谷はそう言うときびだんごの御守りを強く握りしめた。

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