第14話:鬼システムと猿の沈黙
犬飼は切れた無線機を見つめていた。
(猿渡、お前の言いたいことも分かる。)
(だがな、お前もこの親子に会えば必ず分かるよ。)
(今のワシたちには鬼ヶ島に関する情報が少なすぎる。)
(このまま乗り込んでもむやみやたらに動くしかなくなる。)
(温羅たちはワシたちにとって貴重な情報源なんだ。)
犬飼は雉屋から聞いた新たなランデブーポイントを伝えた。
浦島は即座にその座標地点へと舵を切った。
浦島に新たなランデブーポイントを伝え終わると犬飼は再び温羅に話しを聞いた。
「温羅さん、いろいろと教えてくれてありがとう。」
「ところでそのプロメテウスとかいう奴はどうやってお前たち鬼を支配しているんだ?」
「お前たち鬼の力を持ってすれば人間を倒すことなど容易いのではないか?」
温羅は不思議そうな顔をして言った。
「私たちには人間様の考えていることは分かりませんが、私たち鬼は人間様を崇拝しています。」
「人間様の持つ文化、文明などは私たちにとっては憧れです。」
「みんな彼を島の英雄のように考えています。」
「だからプロメテウスには逆らえないのです。」
犬飼は自分の鬼に対する自らの常識を改めざるを得なかった。
「でも温羅さんたちは崇拝する人間のプロメテウスに逆らってこうして逃げ出してきた。」
「はい、先程も申したとおり私はただ昔のような平和な島に戻って欲しいだけなのです。」
「主人が処罰され、私たち親子も不当な扱いを受けました。」
「今までの島ではそんなことは絶対にありませんでした。」
「みんなが目を覚まさない限り、プロメテウスの支配は止められねぇのか。」
「はい。もともと私たち島の鬼たちには言い伝えがあり、人間様に姿を見られてはいけないと。」
「しかし、プロメテウスは私たちに人間様と同等の文化、文明をこの島に構築する。」
「自分は責務を果たすためにこの島に来た。」
「君たちは人間に認められたのだ。」
「その言葉に私たちは喜んでいました」
犬飼は純粋な鬼たちを騙すプロメテウスに怒りを感じた。
(もし、プロメテウスが鬼を騙さなければ後輩は…)
「そうだ温羅さん。俺たちはプロメテウスを捕まえて、島に平和を取り戻したい。」
「他にプロメテウスのことについて知らないかい?居場所とか。」
温羅は少し考えた後、口を開いた。
「ありがとうございます。」
「プロメテウスは島に基地を作っていました。」
「森の奥の方でした。それくらいのことしか私には分からなくて…すみません。」
「いや、いいよ、ありがとう。」
補給船は新たなランデブーポイントに近づいていた。
***
ヘリにはローターの音が響き渡っていた。
犬飼からの報告があった後、会話はなくヘリはひたすら新たなランデブーポイントに向かっていた。
桃谷は苦心していた。
自分の判断が本当に正しかったのだろうか。
ヘリの操縦に注意しながら雉屋は桃谷に言った。
「捕獲した鬼が敵か味方かは分かりませんが、補給船の指揮は犬飼さんに一任されています。」
「犬飼さんを信じましょう。」
「間もなく、ランデブーポイントに着きます。」
そうだ、この状況では元刑事の犬飼を信じるしかないのだ。
桃谷はきびだんごの御守りを握りしめた。
雉屋はランデブーポイントに補給船を確認した。
彼女はランデブーポイントの周辺を見渡したが、特に異常はなかった。
「補給船の準備は大丈夫かしら?」
雉屋の問いかけに桃谷は補給船の犬飼に確認をする。
「ゴンさん、そちらの補給作業の準備は大丈夫ですか?」
「おぉ、大丈夫だ!」
犬飼の返答に桃谷は力強く雉屋に指示を出した。
「雉屋さん、補給船の準備完了。ホバリングの体制に入って下さい。」
「了解!高度を下げます!」
ヘリは高度を下げ、補給船に近づいていく。
浦島は補給船で燃料の補給作業に取りかかった。
桃谷が猿システムで犬飼に話しかける。
「ゴンさん、鬼の親子の状況はどうかな?」
「プロメテウスが鬼ヶ島を支配している。」
「俺らの相手はプロメテウスだ。」
「奴のアジトは島の森の奥にあるらしい。」
猿渡が素っ気ない態度で言葉を返す。
「まだそんな寝言を言っているのですね。」
「鬼の言うことなど信じて。犬飼さん、あなたは鬼と会って心でも乗っ取られましたか。」
「まぁいいさ。いずれ分かるよ。」
桃谷は犬飼を気遣った。
「とにかく鬼ヶ島へ行けば全てが分かる。ゴンさん、くれぐれも気を抜かずに。」
「了解。」
無線での情報共有が終わると浦島が叫んだ。
「補給完了だ!すぐに高度を上げて!」
雉屋はヘリの高度を上げ、補給船から離れていく。
そして、ヘリは鬼ヶ島のある座標位置に向けて再び動き出した。
***
雉屋は一層、気を引き締めて空から周囲を警戒していた。
ヘリが鬼ヶ島の座標位置に近づくにつれて彼女の胸はざわついていた。
父である雉屋広海の失踪の謎が鬼ヶ島に隠されているような気がしてならなかった。
そして犬飼が保護した親子鬼は一体何者なのか。
本当に悪の支配から逃れてきたのか、それとも敵の刺客か。
ホバリングでの燃料補給という難関に何も仕掛けて来なかったことを考えると親子鬼らは本当のことを言っているのかもしれない。
すべての真実は鬼ヶ島に―。
***
桃谷は鬼ヶ島上陸後のことを考えていた。
温羅たちと出会ったいま、鬼ヶ島の情報を少しでも手に入れる必要がある。
桃谷は無線機から犬飼に指示を出した。
「ゴンさん、温羅さんたちに鬼ヶ島の状況について聞いて欲しい。」
「着陸できそうな場所や他の鬼たちの状況についても。」
「鬼が騙されているだけと言っても彼らはプロメテウスの支配下にある以上はこちらも警戒しておかなくてはならない。」
「了解。」
桃谷が犬飼に指示を出し終えた後、猿渡を見てみると何やらシステムを使い解析していた。
猿渡はほとんど喋らなくなっていた。
それはまだ憮然としているからなのか、真剣に解析をしているからなのか、桃谷には分からなかった。
***
犬飼は桃谷からの指示により、温羅にさらに鬼ヶ島の詳細を聞いた。
「鬼ヶ島から船を奪って逃げてきたと言っていたな。」
「ヘリが着陸できそうな浜辺はあるのかい?」
「はい。ヤツは船を複数所有しています。」
「それらの船を保管している船着場があるのですがその辺りの浜辺は広くてヘリも着陸できると思います。」
「そうか、プロメテウスの基地はそこから近いのか?」
「そうですね、ヤツの基地は島の中央にある森の中にありますので船着場までそれほど遠くはないとは思います。」
「なるほど。あと船着場やプロメテウスの基地に護衛はいるのか?」
「護衛ですか…。ヤツには一頭の鬼が護衛で付いています。それ以外は特には…。」
「分かった、ありがとよ。」
犬飼は温羅から情報を得るとすぐさま桃谷に報告した。
***
桃谷は犬飼からの報告を聞くと猿渡に確認する。
「プロメテウスは護衛一人のみだ。」
「システムから鬼ヶ島の情報をつかめたかい?」
猿渡は相変わらず憮然としていたが、桃谷の言葉を聞くと冷たい笑みを浮かべて答えた。
「僕にとっては簡単なことですよ。」
「もう少しで鬼システムをハッキングでき…。」
猿渡から笑みが消えた。
『ERROR』
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