第26話 ラブラブよ!
真美さんの目が死んでいる。まるでハイライトが消えたように真っ暗だ。
冥界の深淵のように漆黒なのだが。
もう一人、鷹司も這いつくばっているが、そっちはどうでもいい。
「あの、真美さん? 大丈夫ですか?」
声をかけてみるも、真美さんの反応は無い。
かろうじて自立しているが、今にも倒れそうだ。
「真美さん! 真美さん! しっかりしてください」
俺は真美さんをソファに座らせる。
「ああぁ……俊くんがぁ……私の……くんがぁ……」
「真美さん、どうしたんですか?」
「あぁ、俊……くん……」
やっと真美さんの瞳に光が戻ってきた。
「しゅ、俊くん! 本当に
「それは……」
マズい。鷹司の前でフリなのをバラす訳にはいかないし、かといって真美さんに嘘をつくのも心苦しい……。
「大崎君」
その時、瑛理子先輩が耳打ちしてきた。
「ここは話を合わせてしょうだい」
「でも……」
「鷹司さんのしつこさは大崎君も知ってるでしょ。ここでキッパリ諦めさせましょ」
「そうですけど……」
それは分かっている。瑛理子先輩は、鷹司に付きまとわれ困っているのだ。
でも、憧れの真美さんに、俺が他の人と付き合ってると思われるのも……。
「望月さんには後で説明しましょ」
「そ、それなら」
答えはまとまった。このまま恋人のフリだ。
当初の計画からズレまくり、四人でのお茶会となった。
対面にイライラした顔の鷹司が一人。
こちら側には何故か俺を挟んで三人だ。狭くて団子状態なのだが。
「もう一度だけ説明しておくわ」
瑛理子先輩の綺麗な声が響く。
「私と大崎君は深い関係よ。毎晩のように絡み合い、唾液と○液を交換する仲なの。先日なんて、私の顔に熱い○○をブッカケられて――」
「ちょぉーっと待ったぁああ!」
俺は瑛理子先輩を止めた。真っ赤な顔して暴走していたから。
熱い○○って何だよ!
「あの――」
「ご、ご注文は……」
顔を上げると、恥ずかしそうに身をよじる女性店員さんが立っていた。
しまった、今のを聞かれたか。
「えっと、じゃあコーヒーを」
俺と瑛理子先輩は恥ずかしさを堪えながら注文し、再び目が死んでいる真美さんの分は適当に頼んでおいた。
「はい、ご注文繰り返します。コーヒーとブッカケうどん一杯……」
「ブッカケうどんは頼んでません」
「も、もも、申し訳ございません!」
何度も頭を下げた店員さんは、恥ずかしそうにメニュー表で顔を隠しながら戻ってゆく。
喫茶店にうどんメニューは無いはずだ。何と間違えたんだろ?
「えっと、だから……大崎君とは……何度も……ううっ♡」
「瑛理子先輩、もう無理しないで」
なおも話そうとする瑛理子先輩を、俺はそっと制した。これ以上、自爆させるわけにはいかない。
「瑛理子先輩、付き合いたてで自慢したいのは分かりますが、そんな体の関係はありませんよね」
「ちょっと、大崎君!」
俺は瑛理子先輩の肩を抱く。
「この通り、瑛理子先輩は
鷹司を見ながら言ってやった。
瑛理子先輩の言うような関係性は嘘がバレそうだが、これくらいなら真実味があるだろう。
「なっ、なっ、何だとぉおお! ああああぁ! 僕の瑛理子がぁああ! こ、こんなクソガキに!」
もう一押しだ。
ここでキスするフリでもしてやろう。
「ほら、瑛理子」
「ちょっ、ちょっと大崎君」
「そろそろ良いだろ。瑛理子」
「あっ♡ だめぇ♡ 人が見てるわ♡」
もうヤケクソだ。先輩を名前呼び捨てにしてやった。
「あああああああああああっ! がぁああああああああああああ!」
鷹司が壊れた。好きな女を奪われたショックでおかしくなったのか。
まあ、俺の知ったこっちゃないが。
「許さん! 許さんぞ! 僕は認めない! 絶対に邪魔してやる! 覚えていろよぁおおおお!」
ガタンッ! ズタタタッ!
最後に捨て台詞の残して、八幡グループの御曹司は逃げていった。
もう二度と会いたくない。
「はぁ…………」
瑛理子先輩は、全身の力が抜けるようにソファーにもたれ掛かる。やっと緊張から解放されたのだろう。
「大丈夫ですか、瑛理子先輩?」
「え、ええ……くぅ♡」
瑛理子先輩が挙動不審になってしまった。目が泳いでいるし、顔も耳まで真っ赤だ。
やり過ぎたかな?
「すみません。呼び捨てにしてしまい」
「い、いいのよ。あのくらいしないと騙せないわ」
「はい」
そこで俺は反対側を向く。
「真美さんも大丈夫……じゃない!?」
真美さんの方がヤバかった。目が死んでいるだけでなく、顔も精気が抜けたようになっている。
「真美さん! しっかりして!」
「あああぁ……もう終わりよ……」
「まだ終わってませんから!」
何が終わったのか分からないが、真美さんは俺が終わらせない。
「真美さん、これには事情がありまして……」
「俊くん、本当に万里小路さんと付き合ってるの?」
「それはですね……」
俺が説明しようとしたそのとき、瑛理子先輩が割り込んできた。
「本当よ! ラブラブね」
「ちょっと瑛理子先輩!」
瑛理子先輩の『ラブラブ』で、真美さんが大ダメージになってしまった。
そんなに弟に彼女ができたのがショックなのだろうか。俺と真美さんは、幼馴染の関係だけなのに。
「ああぁ……俊くんに彼女が……もう世界を滅ぼして私も死ぬしか……」
「真美さん、世界を滅ぼしちゃダメです」
ヤバい、真美さんが破壊神みたくなってる。ラノベのラスボスかな?
とにかく誤解を解かないと。
「瑛理子先輩、何で嘘つくんですか? 付き合ってませんよね」
俺が瑛理子先輩の顔をジッと見つめると、先輩は目を泳がせながら横を向く。
「そ、それは、見栄を張ったのよ」
「変な見栄を張らないでください。真美さんが誤解しちゃうでしょ」
「ちょっと待って! もしかして、二人は付き合ってないの?」
真美さんが復活した。俺たちの会話を聞いていたからなのか。
「ちょっと、万里小路さん! どういうことなの!」
「ちょ、真美さん、近いです」
気色ばんだ真美さんが瑛理子先輩に迫る。といっても、間に俺が座っているので、俺に迫っているのだが。
「あら、望月さんこそストーキングを止めてもらえるかしら?」
「だから、瑛理子先輩も近いですって!」
反対側から瑛理子先輩も応戦する。当然ながら間に俺がいるので、俺に迫っているのだが。
てか、胸が近いんだよ! 俺の顔が二人の胸に挟まれているのだが!
「ストーカーじゃないです! 俊くんの幼馴染です! デートしたり自宅でイチャイチャする仲なんですぅ!」
「私だって部活の先輩後輩だわ! 一緒に執筆する創作仲間なの! つまりラブラブよ!」
イチャイチャでもラブラブでもねぇええ!
何でこの二人は、こんなに仲が悪いんだ!
もう周囲からの視線を集めまくって居た堪れねぇ! まるで俺が二股しているクソ男みたいじゃないか!
「二人とも、とりあえず落ち着きましょう」
「あなたは黙っていて!」
「俊くんは黙っていて!」
「もういい加減にしろぉおおおお!」
ついに俺は実力行使に出た。実力行使といっても、男女平等パンチのような暴力的なのじゃないぞ。
二人の顔を押さえて引き離しただけだ。
だって、これ以上二人に密着されたら、俺の色々な分部が限界を迎えそうだったから。
これまでのいきさつを説明し、やっと真美さんの誤解が解けた。
二人とも落ち着いたけど、何故か三人並んだままだ。二人掛けのソファに三人座るのは狭いのだが。
「あの、誰か一人が対面に移動しませんか?」
「私は嫌よ」
「私も嫌です」
これですよ。何で俺が女子にサンドイッチされてるんだ?
「真美さん、そういう訳ですので、俺と瑛理子先輩は何もないですから」
俺の話で真美さんは胸を撫でおろしている。
「良かったぁ。俊くんが怖い先輩の手籠めにされなくて」
「聞き捨てならないわね。誰が怖い先輩かしら?」
また始まってしまった。
「後輩男子を踏むとか言ってる女王様のことですぅ」
「ストーカーよりはマシよ」
「なによぉ!」
「受けて立つわよ!」
「だから落ち着てください!」
また二人を引き離す。顔を押して。
女子の顔を押すのは失礼かもしれないが、真美さんのGカップ(推定)や瑛理子先輩の奇跡の美ボディを押すわけにはいかない。
「今日の瑛理子先輩、ちょっと変ですよ。何で張り合ってるんですか?」
「そ、それは……」
瑛理子先輩が言葉に詰まる。代わりに真美さんが勢いづくのだが。
「そうだよね♡ 私と俊くんの仲は誰にも引き裂けないよね。もう腋パイを食べさせたんだからぁ♡」
「ほら、この女は危険よ。何を食べさせられるか分からないわ」
「俊くぅん、怖ぁい♡ 万里小路さんに調教されちゃぁう♡」
「何ですって!」
ああ、またこれだよ。もうここまでくると、実は仲が良いじゃないのか?
「瑛理子先輩、落ち着きましょうって」
「これが落ち着いていられるかしら。この女は変なのよ」
「瑛理子先輩も十分変です」
「わ、私が変なのは……理解してるわよ」
「えっ、瑛理子先輩って自覚あったんですか」
「そこは否定しなさいよ!」
こんな調子で、俺はずっと学園の二大美女に挟まれたまま、二人をなだめることになるのだった。
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