番外編 過去
綺麗で正しい人間が嫌いだった。
生まれた時から聖女の四騎士として、清く正しく美しくあれと親から教育を受け続けていたせいなんだろう。
強要されればされるほど嫌になって、それを押し付けてくるクズ共も、綺麗なふりをしている人間も大嫌いになっていった。
特に一番嫌いだったのが従姉だった。
従姉は何も疑うことなく正しくあれという教えを信じて、その通りに育った。
気に食わなかった、だから気に食わないと思ったその時から自分は従姉に嫌がらせを始めた。
嫌がればいいと思った、誰もを平等に愛おしむその女のその信念を曲げたかった。
正しく美しい人間などこの世に一人も存在しないということを証明したかった。
何度自分が嫌がらせをしても従姉はただ笑うか、時々こちらの度が過ぎれば本気で怒って、最終的には赦した。
それが、その扱いが本当に嫌で嫌で仕方がなかった。
自分は聖女の四騎士なんて呼ばれているが、その四騎士とやらが随分昔にそういう存在として人々に定義づけられただけの存在だったということを知ったのはいつの頃だっただろうか。
まだ幼い頃の話だった、その話を聞いたせいで自分がより歪んだことだけは覚えている。
聖女だって今は聖女と呼ばれているが、正確にいうと『世界に一人だけ発生する高い治癒魔法と聖魔法を使える女』で、元は神聖でもなければ救世主でも何でもないらしい。
魔王と呼ばれる存在も現在は人類の敵扱いされているが、こっちだって元々は『世界に一人だけ発生するあらゆる魔法と邪魔法を使える男』で、元から邪悪な存在であるわけではないらしい。というか数百年前には魔王の力を持つ者が賢者として多くの人々を救ったことだってあったらしい。
では、聖女の四騎士とは元々何だったのかというと、ただ単に特殊な魔法を扱える人間であるということだけだったらしい。
自分は闇の騎士なので、闇魔法の才能が世界中に存在するあらゆる存在よりも秀でていて、唯一闇の秘術と呼ばれる魔法を扱えるだけ。
他の騎士も似たようなもの、それを聖女を守る四騎士として扱いはじめたのは神様や世界ではなく、そうした方が都合がいいと思った人間達だった。
だからこそ、四騎士として正しくあれという大人達の押し付けが心底気に食わなかった。
守るべき存在だと教え込まれた聖女も何故か一向に現れることがなく、強すぎる力を持て余すばかりで、何もかもが気に食わなかった。
十二歳になった頃、その生涯をかけて守れと言われていた存在である聖女が発見された。
どういった経緯だったのかは最後まで分からなかったらしいが、聖女はとある犯罪組織で人を治すだけの術者として酷使され続けていたらしい。
それを聞いた時、久しぶりに心が弾んだ。
本来なら神聖でも清らかであれと大事に大事に育てられるはずの聖女が、犯罪組織なんかで育てられたのなら一体そいつはどれだけの『悪』であるのだろうかと。
きっと自分以上に歪んだ子供であるに違いない、悪に染まった聖女に絶望するであろう大人達の顔を想像すると自然と頬が緩んだ。
けれど、自分のそんな妄想は完全に外れてしまった。
初めてその聖女を目の当たりにした時のことを、きっと自分が忘れることはないだろう。
虹色に見える銀髪に、極光色の美しい目の女の子。
自分よりも小柄で、ガリガリに痩せこけていて、感情なんて一切感じられない顔の人形じみた子供。
一目見て不気味だと思った。気持ちが悪いと思った。
何を話しかけても単調で感情の一切こもっていない短い返答しか返ってこなくて、どれだけ罵倒しようと貶そうと、それは同じだった。
その人形が『悪』として育てられていて、クズみたいな存在だったら自分はきっと喜んで、それで満足しただろう。
けど、そうじゃなかった。
あの人形はただひたすら人間を治すことだけを強要されて生きてきた、それだけしかその人形は許されずに育った。
だから感情なんてものは一つもなくて、言葉を知っているくせに何を言われても何とも思わなくて、怒りも憎悪も何もかもが存在しなかった。
あまりにも異常だった、吐き気を感じるほどにそれは『人形』として型にはめられ育てられた存在だった。
正常でも清浄でもなく、善悪なんてものは一つもないくせに『人を治す』というたった一つの理由だけで息を続けているような、不気味極まりない子供。
綺麗な人間が嫌いだった、正しい人間を、正しくあれと望みながら生きる人間が大嫌いだった。
けれどそんな信念すらなくただ『人を治す』しか存在しないその人形に対する嫌悪感はそれを簡単に上回った。
自分が大嫌いな従姉は、あの清廉潔白のお手本みたいな異常者は自分自身がそうあれと望んでそのようなあり方を貫いているのだから、まだいい。
それが生まれた時から呪いのようにかけられ続けた『正しくあれ』という言葉に従い続けているだけだとしても、従うと決めたのはその従姉の意志だった。
けれどもあの人形のような聖女にはそれすらない。
人間として致命的に狂っていた。
あまりにも気に食わなかった、あんなものを守るためだけに自分の人生を消費しなければならないのだと思うと本当に本当に嫌だった。
だから、俺はその人形をただひたすらに甚振った。
誰も見ていないところで顔を思い切りぶん殴ったり、吐くまで腹を殴ったり。
死んでしまえと嘲笑いながら燃え盛る廃墟の中に置き去りにしたこともあれば、崖の上から真冬の海に突き落としたこともあった。
他にも色々、もっと酷いことをたくさん。
けれど、そこまでやってもあの人形は何も変わらなかった。
痛覚がないのか、それとも痛覚なんてものはあいつにとってどうでもいいものなのか、その顔が苦痛に歪むこともなければ呻き声一つあげることもなく。
あらゆる傷を治す力を持ったあいつの身体に俺がつけた傷が残ることはなかった、何をされてもあいつは何の感情も感じられない顔で全てを綺麗に修復した。
どれだけ罵倒してもその言葉は一つも効かなくて、どれだけその身体を壊しても無駄でしかなかった。
そういうあいつの在り方が、心底気に食わなかった。
少しでいい、ほんの少しでいい、あの人間離れした人形が自分に少しでも憎しみを、怒りを抱けばそれでいい、それだけでいい。
あんな狂った、狂いきった人間の存在を根っこから否定したい、あんな化物みたいな悍ましいものの存在を認めたくない。
けど、いくら暴力を振るっても無駄だった。
死ねばいいと思って殺そうと思ったことも少なくない、この聖女が死ねばどこかで誰かが新しい聖女になる、その聖女はどんな人間であれきっとこんな人形よりもずっとマシだろうと。
けれども、あの聖女を人形のまま殺すのは、あんな狂った人間の存在を認めたも同然だった。
だから、ただひたすらに痛めつけた。
けど最終的に俺は暴力であいつを変えることを諦めた。
理由は単純、暴力では、痛みではもうどうしようもないと思い知らされたからだった。
その時俺らは大人達の命令でとある場所に赴いていた。
魔王によって蹂躙された土地の、人々の救出のために。
そこで俺達はまだ残っていた魔物に襲われた。
かろうじてその魔物を倒すことには成功したが。完全に油断していたせいで俺は致命傷を負った、死ぬしかないだろうという深い傷を。
あの人形は躊躇いなく俺を治した。
右腕を噛みちぎられ破れた腹から内臓がいくつか溢れた状態で、自分ではなく俺を優先的に治療した。
隙あらば暴力を振るう俺のことを、普通だったら見殺しにしてもおかしくない存在だった俺を、あんな壊れた身体で治した。
欠けて壊れた身体で表情ひとつ変えずに、自分ではなく真っ先に切り捨てるべき人間を治した化物の顔を見て、多分その時俺ははじめて、心の底から絶望した。
こんな傷を負っても少しも表情を変えない化物を、ただの暴力で変えられるわけがない。
どうしようもない生物というのは存在するのだ、それを認めるしかない。
ふざけるな。
冗談じゃない、認めてたまるかあんな化物を、あんな狂いきった存在を。
罵倒も暴力も響かないのなら、別の手段を。
憎悪も嫌悪もなく、痛みすらどうでもいいと切り捨てる化物でも、別の感情なら抱くのかもしれない。
そうであってほしいと心の底から願った、何があっても何も変わらず、ただ『人を治す』しかないその子供の全てを否定したかった。
暴力ではあいつを変えられなかったので、それ以外の方法を模索することにした。
何でもいい、なんでもいいからあいつの感情を引き出そうと躍起になった。
だから俺はあいつを度々外に連れ出すようになった、あいつの表情が変わるような何かが見つかればいいと。
聖女は普通、仮面で顔を隠す。
理由はその髪色だけで聖女であるという証明となるからだ、それと数十代前の聖女の顔が酷く醜いものだったというもの理由の一つだったらしい。
どんな顔であっても聖女という存在の神聖性が薄れないように、という浅はかな配慮。
けれどそれはこちらにとって都合が良かった。
髪色と目の色さえ魔法で誤魔化して仮面を外してしまえば、あんな小娘を聖女だとは誰も思わなかった。
だからあちこち連れ回した、ついでに荷物持ちもさせた。
どれだけの重荷を背負わされてもあいつは文句ひとつ言うことなく、不気味なほど静かに俺についてきた。
何を見てもどこに連れて行ってもあいつが表情を変えることはなかった。
そんなことをしている間に、あいつは何度も死にかけた。
何か様子がおかしいと思って服を剥いでみたら寄生植物に全身寄生されかけていた時があった。
話を聞いてみると一週間ほど前に寄生されて、よく分からないから表面に出ている部分を適当に引っこ抜きつつ治癒魔法で身体を治していたらしい、とてつもない激痛だっただろうにあいつは表情ひとつ変えずにそう言った。
自分ではどうしようもないと即座に判断して慌てて大人に見せると大人達は絶句していた、発見があと半日遅れていたらあの人形は死んでいたらしい。
それからしばらく、何もないことを確認するためにあいつの服を剥ぎ取った、あいつは表情ひとつ変えなかった。
大人達に命じられて赴いた先で毒液をモロに被って全身溶けかけたこともあった、魔物に捕まって手足を一本ずつもがれていたこともあった。
純潔を失えば聖女は力を失うなんて迷信を信じた屑共に攫われて、服を剥がれてタコ殴りにされたこともあった。
かろうじてタコ殴りだけで済んだ聖女は「子供を産んだ聖女は何人もいたらしいのに何でこの人達はあんな変な迷信を信じたんでしょうかね」と単調な声で言っていた。
ふざけるなと思った、何でこの化物は何をされても何も憎まず、泣きもしないのだろうかと。
それどころか、あれだけ嫌って憎んですらいたあいつが傷つくたびに、こちらの精神が削れていく。
何度罵倒しても、何故泣きも怒りもしないんだと言っても、あいつは顔色ひとつ変えずに大したことじゃありませんからと答えた。
何をしても何を見せてもあいつは何も変わらなかった。
けれどある日、ある露店の前を通り過ぎた直後、あいつが足を止めていることに気付いた。
そんなことははじめてだった。
あいつの視線の先を見ると黒い石がついたピアスがあった、随分と安っぽい作りのちゃちなピアスだった。
そんなものが欲しいのか、と聞いてみた。奴は顔色ひとつ変えずに首を横に振った。
その時はならどうでもいいとスルーしたが、夕方になってあの無感情人形が足を止めるのは結構異常だったのでは、と思い直して一人でそのピアスとついでにピアッサーを買いにいった。
その日の夜、あいつの両耳に穴を開けた。
その時のあいつの顔に感情なんて一つも見えなかったが、少しだけ驚いているようだった。
穴が安定するまでしばらく付け替えられないらしいので、ピアッサーでつけたそれを外すなと、それと穴も治すなと言ったらあいつは素直にその言葉に従った。
俺が聖女の耳に穴を開けたことに大人達は怒っていたが、全て黙殺した。
穴が安定した頃に黒い石のピアスに付け替えてやると、あいつは小さな声で「これ、あの時の」と呟いた。
特に喜んでいる様子はなかった、欠片もそんな気配は感じなかった。
それでも礼を言われた、その顔はほんの少しだけ普段と違って見えた気がしたが、多分気のせいだった。
それからしばらくして、とうとう本格的に魔王を討伐するという流れになった。
魔王は自分達とそれほど歳が変わらない少年だった、自分達が正しくあれと言い聞かせられて育った子供のように、そいつは悪であれと言い聞かせられて本当に悪き存在になった子供だった。
魔王はとてつもなく強い存在だった、そして魔王を倒すためには、魔王が持つ邪魔法に唯一対抗できる聖魔法を使える聖女の存在が必要不可欠だった。
だから大人達は自分達子供に、そして『人を治す』だけの人形だったあいつに魔王の討伐を命じた。
命じられた人形は呆気なく了承した、死にに行けと言われているような話だったのに。
それが役目であるのなら請け負うと、いつも通り何の感情も感じられないのっぺりとした声で。
何故あんな簡単に引き受けたのかと問い詰めても、死ぬかもしれないと訴えても、奴はその言葉を変えようとはしなかった。
それどころか自分一人で十分だとすら言いやがった、治す以外に何の力もないくせに。
死ぬかもしれない場所にあなたがついてくる必要はないとあいつは言い放った、ふざけるなと思った。
何でこんな奴が死地に行く必要がある? 聖女だからか?
それなら、こいつが聖女でなくなればいいのか。
そう思った瞬間にあの迷信を思い出した、純潔を失った聖女はその力も失う、と。
それが本当の話なら、目の前にいるこの化物じみた人形を徹底的に穢して痛めつけてやろうと思った。
それで力を失いただの小娘でしかなくなったこいつを連れて、屑みたいな大人達から離れてしまえばいい。
そうは思ったが実行はしなかった、どうせ無駄だったから。
けれど、魔王討伐後にどちらも生きていたら、その時はこの化物以外の何もかもを捨ててどこか遠くに行ってしまおうと思った。
もう二度と、このどうしようもない化物が利用されないように。
誰にも触れさせないように、誰にも傷付けさせないように。
こいつを痛めつけるのも好き勝手に扱うのも、俺だけでいい。
そう思った時点で逃げていればよかった。
そう思った時点でとっくにあの化物相手に憎悪でも嫌悪でもない感情を抱いていたことを素直に受け入れれば、何かが変わったんだろうか。
魔王の討伐にはかなり時間がかかったが、どうにか成功した。
討伐のために連れてこられた四騎士と聖女、それと何人かの大人達は全員虫の息だったが、それでもかろうじてこちら側の死者は出なかった。
傷だらけの聖女の手のひらは自分の手のひらよりもまだ暖かくて、どうにかこの化物を守り切れたことと死なずに済んだことに安堵して。
油断していた、完全に。
その時、死んだと思っていた魔王が最期の力を振り絞って、何かよく分からない強力な邪魔法を発動させた。
どうにか立っていられるだけだった身体では咄嗟に反応できなかった。
ただ呆然と目を見開くことしかできなかった俺の手をあいつは自分から振り解いて、俺の身体を突き飛ばした。
伸ばした手は届かなかった、前に出たあいつが一度だけ振り返って、小さく笑った。
まるでこちらの無事を確認して、安堵するような表情だった。
魔王の邪魔法に迎え撃つ形で聖女は聖魔法を発動させた。
そこから先は、何が起こったのか正直よく分からない。
強烈な相反する魔法同士が正面からぶつかり合って相殺し、一瞬とてつもなく異常な魔力が発生したと思ったら、目の前にあったほとんど全てのものが消えていた。
魔王も、そしてあいつも。
死にかけの身体を引きずってあいつを探した。
探しても探しても、あいつは見つからなかった。
肉の欠片一つさえ。
あいつを探している途中で気を失った俺は大人達に回収されて、気がついたら医務室で治療を受けていた。
すぐにあいつの居場所を聞いた、大人は「わからない」と答えた。
包帯まみれの身体で医務室を飛び出してあいつを探しに行った、見つからなかった。
大人達が俺を止めようとした、止めようとする大人は全員殴った、従姉だけが「気が済むまで探させてあげよう」と俺の味方になった。
何日、何週間、何ヶ月もあいつを探し続けた、それでも見つからない、肉の欠片も骨の欠片も何ひとつ。
勝手に付き合っていた従姉は何も言わなかった、ただ悲しそうな顔をしていた。
眠れば眠るたびに夢を見た、自分を突き飛ばして笑うあいつの顔を何度も何度も。
見るたびに飛び起きた、あの時のあの笑顔が頭にこびりついて離れない、忘れたくても忘れられない。
やっと、やっとだ、やっとあの無感情を崩すことに成功したのに、それなのにあいつがいない、見つからない。
どれだけ探しても見つからない、見つからない、見つからない。
そんなある日、新しい聖女が現れたという知らせが届いた。
そんなわけがないと怒鳴り散らした、あいつが死ぬわけないと、あれだけ何度も死にかけていたくせに死ななかったあいつが死ぬわけないと。
けれども、その新しい聖女はあっさりと目の前に現れた。
あいつとは全く違う、表情豊かで途轍もなく人間臭い、普通の人間の聖女が。
その顔を見た瞬間に吐いていた、あいつにはまるで似ていないその顔を見て。
言葉にならない絶叫を上げて、自分でも訳のわからないことを喚き散らしながら我武者羅に暴れていた。
違う、違う違う違う違う!!
死んでない、死ぬわけがない、あいつが簡単に死ぬわけがない。
ただ見つからないだけだ、きっとどこかで生きている、死ぬわけがない。
けれども、聖女はこの世に一人しか存在しない。
新しい聖女が現れたということは、その前の聖女が死んだということ。
一応、なんらかの事情で聖女としての力を使い果たして聖女ではなくなった存在というものが過去に二人だけいたらしいが、あの状況でそうに違いないと信じ込むには、あまりにも絶望的だった。
そこから先のことは、あまり覚えていない。
新しい聖女はあいつと違って随分と我儘で自分勝手な女だった。
それでも悪人ではなく善人の類だったらしい、自分の顔を見て理不尽に暴れた俺のことを許すどころかこちらの絶望を慮るような言動までした。
新しい聖女が現れた後も俺はずっとあいつを探していた。可能性がゼロでないのなら、それに縋らずにはいられなかった。
生きているなんてこれっぽっちも思っていなかった、それでももうやめられなかった。
毎日のように悪夢を見た、夢の中であいつはいつも笑っていた、そんな顔一度しか見たことないのに。
あいつがいなくなってから何ヶ月か経った頃、新しい聖女が唐突に学校に通いたいとか言い始めた。
無理に決まっていると思ったが、我儘聖女のパワーは凄まじく、いつのまにか聖女はとある寮制の学園に入ることになっていたし、四騎士全員も護衛としてその学園に入学させられることになった。
その時は流石に呆気に取られた、全て事後承諾だった、ふざけんなと思った。
けれどどうしても覆そうになかったので渋々諦めた、護衛だの学園だのはサボればいいとも思っていた。
入学が決まった後、聖女が冗談で言ったことを頭の悪い大人達が間に受けて聖女と同じ寮になった四騎士は女生徒として通わせるとかアホみたいなことを言い出した。
入学直前、寮を決めるからと連れて行かれた学園で選定の水晶とやらに触れさせられることになった。
よくある魔力検知器の亜種で、触れた人間の性質から最も相応しい寮を決める魔法道具であるらしい。
新しい聖女、聖女と呼ぶことすら嫌なのでこれからは雇い主と呼ぼう。
雇い主が触れた水晶は黒色の変化した。
黒色の寮はニグルムというらしい、信念に重きを置く寮、とのことだが実際はこだわりと癖の強い変人共が所属する寮であるらしい。
居合わせていたニグルムの寮長、リボンの塊みたいな見た目の女生徒が「そんなわけない!! 問題児ばかりのうちに聖女様なんてVIP置けないよ!! やり直してー!!」と喚いたので十回くらいやり直したが、雇い主が触れた水晶が黒以外の色に変わることはなかった。
雇い主の後に他の四騎士の寮分けが終わって、自分の番が来た。
黒だった、聖女と同じだった。
ただでさえ面倒だというのに、性別を偽って女として学園に通うことがそこで決まってしまった。
ふざけるなと思って大人達に抗議したが聞き入れられなかった、あと生半可な女装や魔法で姿を女に変えた者を見るとブチ切れて雷を落としまくる問題児がいるからとニグルムの寮長が顔を真っ青にして何度も何度も「思い直してください」と訴えていたが、大人達は考えを変えなかった。
それで結局、俺だけが女として学園に入学するハメになった。
人生ってクソだなって思った。
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