第4話
「はーぁ、疲れたわぁ」
佐武創始郎は軽く腕を回しながら倦怠感を露わにした。
一仕事を終えた佐武創始郎の姿を、一瞬にでも父親の面影を重ねてしまった妃龍院艶媚は首を左右に振って、それは無いと断言する。
(この男は、お父様とは似ても似つかぬ……絆されるな、これしきの事で)
そう心の中で硬く決意を露わにする妃龍院艶媚に対して、佐武創始郎は振り返りながら告げる。
「これなら、今日の褒美は必要ないわ、帰って寝たいんだけどさぁ」
「な……ッ、貴様、馬鹿を言うな、今、私の屋敷で多くの女中の方々が貴様をもてなす為の準備をしているのだッ、今更、辞めるなど出来るかッ!!」
胸倉を掴みながら、佐武創始郎を上下に揺さぶる妃龍院艶媚に、声を震動させながら了承の言葉を口にする佐武創始郎。
「わわわ、分かった、分かったからよッ、たたた楽しみに待ってっからよぉおお」
そうして、仕事から一時帰宅を行う妃龍院艶媚。
佐武創始郎に対する褒美、それを与える場は妃龍院艶媚の屋敷で実施される事となった。
多くの女中が忙しなく屋敷の中を駆け巡る。
食事を作り掃除を行い、出迎える準備を早々に行う。
入浴時、異界の薬品調合に寄る白濁とした乳頭湯に浸かる。
血管を広げ血色を良くし、肌に浸透し
肉体の老廃物を排出し性感を敏感にさせる媚薬の湯。
一時間程の入浴後、女中が身体を丹念に拭う。
「どうぞ、こちらへ」
「ん、」
別室へ移動し入念な按摩が行われる。
豊胸効果のある秘伝の油を使い全身の筋肉を解す。
あらゆる体位にも適応出来る様に関節の柔軟も徹底的に。
油により全身が茹卵の白身の如く照る体で寝室の隣へ移動。
衣服を着用の為『天羽衣』を渡され、それを着込む。
名の通り羽の様に軽い襦袢である。
最早透明に近しい程に透けた襦袢は帯が細く、殿方が簡単に解ける様に蝶々結びで縛られる。
その場で鎮座をする妃龍院艶媚は女中が妃龍院家秘伝の媚薬を二つ取り出した。
「これが……」
生唾を呑む。
女中が布巾を口元に当てる。
「妃龍院家の特製、秘伝の薬にございます」
『
その内の一つである『
「御食味を、じんわりと唾液と共に喉の奥に流し込みくださいませ」
口を閉ざすと共に唾液が分泌し、淑やかに薬が混ざる唾液が喉奥へと流れ込む。
『
唾液は甘酸っぱく、滴る汗は塩味の効いた柑橘類の果汁と化す。
舐めれば舐める程に媚薬として肉体を盛り上がらせる効能を持つ。
その後、化粧を施される妃龍院艶媚は唇に薄く紅を敷く。
首元には男の猛りを荒げる『
空中に散る媚薬の粉末を吸引するだけでも発情する為、女中は慎重に扱う。
二重にした三角布で口元を覆い、指を震わさぬ様に手首を片手で固定しながら実施する。
「ん、ふッ…………ぅんッ」
当然、妃龍院艶媚は息を繰り返す度に粉が首筋から散り舞う為、鼻腔に媚薬の粉塵が吸着する為、顔をほんのりと赤くしながら荒い呼吸を繰り返し発情をしていた。
化粧を終えると寝室へと移動するが、その際に妃龍院艶媚は手を後ろ側に回され、手首を紐で結ばれる。
こうでもしなければ、自慰衝動が抑えられず、手淫に耽る為である。
その防止の為に手首を拘束されるのだ。
肉体が火照り出した妃龍院艶媚は女中の介護ありきで移動を行う。
数歩離れた場所で、女中が廊下に垂れる湿りを拭いながら寝室前までついて来た。
そうして、寝室を開けると共に淫靡な空気が流れ込む。
媚薬成分が十分に溢れ返る木香を焚いた部屋の中。
呼吸をする度に興奮が我が身を襲う、一度入れば欲を満たすまで出る事の出来ない密室と化す。
入室すると共に、早々に扉を閉められる。
簡単に出る事が出来ぬ様に、扉には閂が施され、懇願しようと外へ出る事は不可能な状態と化した。
「ふ……ぐ、ぅ……っん」
声を殺しながら布団の中で悶える妃龍院艶媚は、これから佐武創始郎が来るまで生殺しの状態で待機をしなければならない。
夕方になると、佐武創始郎が屋敷に到着し、女中達が手塩に掛けた料理を貪り続ける。
「うんまッ、なんすかコレ」
「ブフ・ブルギニヨンです」
「和風じゃないんすねぇ~」
名前から察するにフランス料理だろう。
赤ワインの牛肉煮込みを口の中に頬張りながら佐武創始郎は豪勢な料理に舌鼓を打った。
食事が終わると女中が風呂場へと案内するので、佐武創始郎は彼女と共に付いて行き体を浄める事となるのだが、佐武創始郎の肉体を洗う作業は全て女中が行っていた。
「うっわ、そんな所まで洗うんすか?ちょ、其処は入れ過ぎってがぁああ!!?」
穴と言う穴を洗われた佐武創始郎は謎の喪失感を覚えながら風呂場から上がる。
温泉旅館で風呂上りに着込む様な浴衣を着用した佐武創始郎は、女中と共に廊下を歩き続ける。
「まさに至りつくせりって奴っすねぇ~、もうこれで十分なんで後は寝床だけ用意してくれりゃ十分なんすけど……」
本日の本命となる妃龍院艶媚との夜伽は無しでも良いと言い掛けた佐武創始郎に対して、これまで準備を進めて来た女中は今更止めると言う選択肢は無かった。
「馬鹿も休み休み言って下さい」
「え?バカ?今馬鹿ッて言ったんすか?」
これでも褒美を貰う側だと言うのに、馬鹿と罵倒されるとは思わなかった佐武創始郎。
そうして、女中が案内を終えた先に、閂を施された部屋があった。
通常の引き戸では無く、木製の観音開きの扉であり、其処から先にくぐもった女性の声が漏れるのが分かった。
「此処から先は、お嬢様がいらっしゃいます、褒美の準備は既に終えておりますので……今夜が終わるまで、決して出る事の無いように」
女中は深々と頭を下げて佐武創始郎に釘を打った。
此処から先には、妃龍院艶媚が待ち侘びている、そう言われた以上は出ないワケには行かなかった。
「はぁ……しゃあねえ、艶媚ちゃんと大人の関係になるとするかねぇ、と」
女中が閂を開ける、扉が開かれると鼻腔の遥か奥を突く、メスの色を帯びるニオイが佐武創始郎を襲った。
「ふ、ッ……ん、はぁっ……ァん……」
今か今かと待ち侘びている妃龍院艶媚は、霞んだ瞳の先に佇む佐武創始郎の姿を認識すると共に涎を垂らしながら妃龍院艶媚は佐武創始郎に体を擦りながら近付く。
「さ、たけ……そうし、ろう……んっ」
彼女の顔は紅潮としており、厳格な雰囲気を醸す彼女の姿は何処にも無かった。
佐武創始郎は彼女の元に近付くと、宝玉の如く磨き抜かれた彼女の美貌に圧倒される。
「っ……はや、く……早く、抱けッ、そうしろうッ」
目尻に涙目を浮かばせながら太腿を擦り合わせて悶え苦しむ妃龍院艶媚に、佐武創始郎は彼女の体に手を向ける、が。
「ッ……創始郎、これは、今夜限り、だからな……っ、一夜限りの、身体の関係、理解しろ、良い、な?」
媚薬漬けにされても尚、妃龍院艶媚は理性を以て佐武創始郎にそう告げた。
極限の状態の中でも、自分を貫く彼女の姿勢は、佐武創始郎の中でも中々の好感触であった。
「ああ……一夜だけで良い、その一瞬を、この一生に刻み付ける」
普段のおちゃらけた佐武創始郎の姿は何処にも無く。
妃龍院艶媚を抱く為だけに、彼は本心を以て彼女の身を貫いた。
―――っ、はぁっ、はっ……んちゅっ、じゅるっ、~~じゅるりゅっ
ぷはっ……はっ……んぁっ、な、みぇ、めるなっ、そんにゃ、とこっッ
……んっ、っ んあッ!! っっ??!! ん、んんっ
ふっ、 ッ~~~ぇ、ぁ? な、う、うごく、なぁっ!!
ん、ぁっ~~~~っぐ、ぅぅうッ、ふーッ、ふーッ……っ ?
なっ、んんぁっ、そん、ひぃんっ!
っ ッ、い、うな……そんな、ことっ、わたひんぃっ!!
か、……
かわいい、なんて……言うなぁ……っ
そうして、二人きりの夜を明ける。
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