リスタートリユニオン ~二周目の俺は全てを引き継いで運命を超える~

藍敦【俺ネト一巻12/13発売】

一章 全てを引き継いで

第1話

『マーフィーの法則』という、半ばギャグや皮肉に近い格言集というものがある。


 その中に『失敗する余地があるなら、いずれ失敗する』という、なんとも救いようのない格言が存在しており、下手にその言葉を知っていたせいで、『進路希望表』と書かれたプリントを前に、俺は未だ頭を悩ませていた。


「……決めたはずだろ、俺は『探索者』になるって」


 夏休み前。高校の前期最終日に、俺は配布されたプリントを前に進路の最終確認を行っていた。

 周囲を見れば、俺と同じように悩んでいる人間はほぼいなく、皆が『進学』を迷うことなく選んでいることを物語っていた。


 それもそのはず、俺の通う『メイオウ探査学園附属高等学校』は、日本でも有数の『探索者育成教育機関』であり、その最高峰である『メイオウ探査学園』にエスカレーター式に進学できる高校なのだから。


 尤も、最低限の進学試験を受ける必要はあるが、この高校に通っている生徒が合格できないなんてことはなく、しっかり進学を目指し対策を行えば、問題なく受かることができる……という話だ。


 だが、俺の進路表には第一希望に『探索者』とだけ書かれており、それより下の欄は無記入。

 つまり、進学はせずに直接ダンジョンに挑む『高卒探索者』を希望しているということだ。


 が、それでも『本当にこれでいいのか』という気持ちが、先程頭を過ぎったマーフィーの法則と共に、俺の頭を悩ませている……という訳だ。


 その時だった。エアコンをケチり、代わりに全開にされていた窓から風が舞い込み、俺の机の上で重々しい存在感を放っていたプリントが、その存在感に反して風に飛ばされてしまった。


 飛ばされた先は、俺の隣の席の女子の机。

 高校生活が始まってから、性別を越えた友として、学校生活に彩りを加えてくれていた『北城香純』の目の前だった。


「なんか飛んできたよ『アキラ』。は? ねぇ、なんで第一志望が『探索者』になってるのこれ」

「あ、それ? 俺高卒で『探索者』になろうと思ってるんだけど、最後の最後で迷ってるとこ」


 ん? あ、そういえば俺の進路について、まだ誰にも話していなかったな。

 記念すべき第一号(ただし両親を除く)だな。さすが親友、持っているな。


「ちょっと聞いてないんだけど。普通に一緒に進学する気まんまんだったよ、私」


「えー……だって早く探索者になりたくない? ダンジョンに挑んで、自分の腕っぷしで稼ぐんだよ? ロマンあるじゃないか」


「ロマンだけどさー、危険もあるよ? せっかく日本最高峰の学園に通えるんだよ? なんなら、進学と並行して『探索者免許』だけ取ったらいいじゃん。学園でも普通にダンジョンに潜る実地講義とかあるんだよ?」


「え、そんなのあるの? 進学する気なかったから学園のカリキュラムとか調べてなかったわ。んー……じゃあ免許の勉強と並行して進学試験の勉強もするかー?」


「かなり厳しいかもだけど、それでいいんじゃない? 進学しようよ、一緒に」

「……昨日両親説得したばかりで、いきなり進路変えるのもなんだかなー」


「え、昨日? ならむしろ説得しやすくない? 『やっぱり思い直してもう少し勉強することにした』とか言ってさ。ご両親に早めに言うといいよ」


「へへへ……我が家のパパンとママンは、今朝の便でお互いに中国とアメリカに行ってしまいました。面倒なので勝手に進路を変えたいと思います」


「自由な家だなー」


 などと話しながら、割と軽いノリで俺の進路が変わることになった。

 消しゴムで『探索者』の文字を消し『メイオウ探査学園』の名前を記入する。

 と、その時だった。何かが……頭の中でざわめいたような、そんな気配がした。

 なんだ、風か? それとも風邪の方か?


「おーい『東山』。お前だけだぞ、進路表出してないの。このままじゃ次に移れないから早くしろ―」

「あ、書きました。すみません、今渡します」


 気のせいだろうと、一瞬感じた違和感を振り払い、進路表を提出する。

 これで、良い。いきなり意見を変えるのはどうかと思うが、確かにそうだよな。


 いくら自分の進路とはいえ……友人になんの相談もなしに決めるのは、不誠実だもんな。

 それに、探査学園のカリキュラムを、最初から進学しないからと決めつけて、満足に調べもしなかったってのも、ちょっと考えが浅はかすぎる。

 そうだよな……学生しながら空き時間に免許を取って探索者として活動する道もあるんだもんな。


「よし、全員提出したな。じゃあ次のプリント配るぞ。まぁ正直、希望者はいないと思うが、夏休み中に『ダンジョンの加護』を取得したい者はいないか、その希望者を募う書類だ」


 少し、心が動いた。

『ダンジョンの加護』とは、老若男女、あらゆる人間が『人生で初めてダンジョン内に入った時』に、ランダムで取得できる『特殊技能』だ。


 正確には『加護』と『スキル』に二分されており、『効果が特殊なものが加護』『効果が文字通り分かりやすいものがスキル』と一般には言われている。

 正直、ダンジョンに挑む探索者になるには、厳しい訓練とある程度の才能が必要だ。


 だが、最後の最後で『有用なスキルや加護』を得られないと、それまでの苦労がパーになる……とまでは言わないが、大きなハンデを背負うことになる、なんて場合もあるのだ。


 そしてこの『ダンジョンの加護』には、いつダンジョンに入場したかで得られるものに傾向があると、長い年月の検証で明らかになりつつある。


 世界中に無数に存在する『分岐ダンジョン』。それぞれに傾向はあるのだろうが、まずは俺達に直接関係のある、日本国内にある二つのダンジョン入り口。


『銀座分岐ダンジョン』と『札幌分岐ダンジョン』。

 この二つは、季節にして大体二月~三月に入場することで、最も『汎用性の高いスキル』を得られるとされている。


 そして、得られるスキルや加護が『どれくらいの強度』なのかは年齢に左右される。

 なんの因果か、最も高い強度のスキルや加護を得やすいのが『一七~一八歳』なのだ。

 つまり、簡単に言えば『高校卒業間近が最も良いスキルや加護を得られる』という訳だ。


 故に、先生は『希望者はいないと思うが』なんて言ったのだ。確率的に最も美味しい季節が分かっているのに、こんな時期にスキル、加護を得たいと希望する者なんていないと踏んで。


 が! 今俺、ちょっと考えを変えて進学を決めた訳ですが、やっぱりダンジョンへのあこがれが人より強いんですよね。


『ダンジョンの加護』の取得、通称『ダンジョンガチャ』くらい、先に挑んでもいいじゃないですか! だって夏休み期間にも一応、長い年月の検証で『ある傾向』が判明したのだから!


 俺は、回されてきたプリントの『夏季休暇中のダンジョン入場を希望する』という項目に印を入れ、先生に返却する。


 実は『七月~八月中は一風変わったスキルや加護が発現しやすい』と言われているんですよ!

 もちろん、それが有用な効果であることなんてほぼほぼないんですけどね。


 だが、上振れというか、大当たりというか、過去に提出されたデータの中には、七月中にダンジョンに入場し、とんでもない加護を得た人もいたという。


 その名も【暁の加護】。

 その効果は『日の出から正午までの間、自身のステータスが倍加』という、ぶっ壊れ性能だ。


 その所持者は、今でもダンジョン攻略の重要な局面において、わざわざ隊の突入時間をずらしてまで投下されるという、主戦力として国に頼られ、第一線で活躍しているのだとか。


 もちろん、俺がそんなずば抜けて強い加護やスキルを貰えるだなんて思っていないが、それでもロマンがある選択肢だと思うのだ。

 なので、進学を選んだのだから『ダンジョンガチャ』くらい、冒険しても良いではないか。


 そうして、俺は前期最終日の今日、大きな決断を下し、夏休み初日にダンジョンに入場し『ダンジョンの加護』を得ることを決めたのであった。


 ……なお、我がクラスでこの選択をしたのは俺だけの模様。

 く! みんな安定を選んだな……!

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