第37話 幼馴染に見られている時、俺もまた幼馴染を見ている。

 翌日の放課後。


「さあ、朝陽あさひ。行きますよっ」


 深怜那みれなが俺のクラスに乗り込んできた。

 いつも通り人前だからお嬢様フェイスを作っているが、俺には分かる。

 今の深怜那は、高揚感に満ち満ちている。


「わざわざ迎えに来てくれたのか」 

「善は急げと言いますからね」


 善というほど大層なことでもない気がする。

 

(にしてもこの様子……俺とのデートが楽しみすぎて急かしている、ってことだったりするのか?)


 俺が帰り支度を整えた頃には、クラスメイトからものすごく注目されていた。

 深怜那がとんでもない美少女で校内の有名人だったとしても、これが初めてってわけでもないのに。

 そろそろ順応してくれないかな、と思いながら、深怜那と一緒に教室を出て行こうとすると。


「あ」


 ちょうど浅見と鉢合わせた。

 深怜那にフラれたあげく、この教室でも眼中にない扱いをされてしまったクラスメイトだ。


「あー……その、この前は」


 浅見は気まずそうに、何かを言おうとしている。


「……? 失礼します」


 深怜那は薄い反応で形式的な挨拶をした。

 これは多分、忘れているやつだな。

 深怜那は基本的に優しい。

 だから好きでもない相手に、変に期待を持たせるようなことはしない性分だと、俺は思っている。


「さあ朝陽。早く行きましょう」


 そうして俺は、深怜那に手を引かれながら学校を出た。




 行き先はショッピングモールだ。

 様々なお店がある中、目的地に直行する。

 モール内の大型書店だ。


 昨日読んだ推理小説の続きを買いに来た。

 はずだったが。

 現在。

 俺たちは歴史小説が置かれている一角にいた。


「これ、今話題のドラマの原作みたいです」

「ああ、このドラマ……母さんが毎週観てるかも」


 深怜那は元来、読書好きだ。

 しかも、幅広いジャンルを嗜んでいる。

 

 一方の俺は、あまり歴史小説は読まない。

 しかし、せっかく二人で書店に来たのだ。

 それぞれ気になる本の売り場を見に行くよりは、深怜那の隣にいたい気持ちだ。




 次は漫画の最新刊が平積みされているコーナーを通りがかった。


「昔読んでいたこの漫画、もう百巻も出ているんですね」

「時間の流れって早いな……」


 現役で連載されている作品に対して、懐かしさを感じてしまう。

 不思議な感覚だ。


「私たちが読んでいたのは、小学生の頃でしたっけ」

「うん。途中で追いかけなくなったけどね」

「確かに、最新刊は朝陽の家にありませんよね? なんででしたっけ」

「中学に進学して、深怜那が俺の部屋に来ない時期があったから」


 端的に理由を答えてから、気づいた。

 今のはなかなか、思わせぶりだったか?


「もしかして……私の好みに合わせて買ってくれていたんですか?」


 深怜那はポンコツだが、鈍感ではない。


「いや、俺も好きだったけどね」


 深怜那と一緒に読んで、感想を言い合うあの時間が、だけど。

 作品自体の個人的な評価はまあ……そこそこだ。

 嫌いではないけど、中学時代の限られたお小遣いで買う余裕はなかった。


「ふーん……そうですか? また続き、買ってみましょうか」


 俺の気を、知ってか知らずか。

 深怜那はそんなことを言い出した。


「私が買うので、朝陽の家においてもいいですか?」

「俺の家に置くなら、俺がお金を払うよ」

「いえ。これは私のわがままなので、自分で払います。置かせてもらう代わりに、朝陽は一緒に読んでください」

「それって俺は得しかしていないのでは」

「そう思ってくれるなら、なおさら買わなくてはいけませんね。朝陽の家には、何巻までありましたっけ……続きを全部買うのは難しいので、まずは三巻分くらい買いましょうか」


 そうして深怜那は漫画の既刊が並べられている本棚の方に足を向けた。




 その後もいくつかのコーナーを寄り道した後、目当ての推理小説を手に取り、レジへ。

 予定よりも出費が嵩みつつ、書店を出た。

 次に向かった先は。




「やはり喫茶店のスイーツはこれが至高かもしれません」


 デニッシュにソフトクリームが乗ったスイーツ。

 ミニシロノワールを食べながら、深怜那は幸せそうに言った。

 俺たちはショッピングモールの中にあるコメダにいる。

 コメダは地元発祥の喫茶店だ。


「深怜那って、けっこう食べるよね」


 コーヒーを啜り、サービスの豆菓子を口に運びながら、俺はふと思う。


「ま、まさか……遠回しに太ったと言っていますか?」

「むしろ逆かな。全然太らないからすごいなと思って」

「いつ見られても良いように、気を使っていますからね」


 さすが完璧お嬢様を志すだけのことはある。

 深怜那はあらゆる面で、努力を惜しまない。

 そこが俺の幼馴染の魅力だ。

 

「食べた分、ちゃんと運動もしてるってことか」

「そういうことです……最近、一キロ増えましたけど」


 後半部分は声量を落としていたが。


「聞こえてるよ」

「き、聞かないでください」

「言わなきゃいいのに」


 一見すると別に太ったようには見えない。

 けど、女の子としては気になるところだろう。


「はっ。もしかして、朝陽も食べたいんですか? ミニシロノワール」


 太っているから食べるのは程々にしておけ。

 だからミニシロノワールを俺にわけろ。

 なんてことを、俺が遠回しに言っていると解釈したらしいが。


「いや。単純に深怜那を褒めたかっただけだよ」

「あ、甘やかすのはやめてくださいと言っているでしょう……」


 深怜那はとてもやめてほしがっているとは思えないような、にやけ顔だった。 

 



 結局ミニシロノワールを少し分けてもらい、完食した後。

 俺たちはそのままコメダに滞在し、先程書店で買った小説を読んでいる。

 

 会話はない。

 だけど時々、深怜那の視線を感じる。

 その視線に気づくということはつまり。

 俺もまた、深怜那を見ている。


 目が合うけど、会話しない。

 それでも視線は逸らさず、何秒も見つめ合ったりする。

 それだけで、なんだか幸せな気持ちになれる。


 まだ好きだと伝える勇気がない。

 だけどきっと、好きなんだろう。

 同じ気持ちで、同じ状況。

 なんとなく、そんな気がしていた。


 こんな日がこれからもずっと。

 いや、あわよくばもう少し進展を。


「……冬休みにも、二人でどこかに行きたいな」

「私も行きたいです! せっかくですし、いつもより遠くにお出かけしたりなんて、楽しそうじゃないですか?」


 あと数週間で冬休み。

 短いようで、長い。


 それでも今みたいな心地の良い響きが続くのなら、あっという間だ。

 なんて、浸っていた日の夜。




 深怜那から電話が掛かってきた。


「冬休みから留学することになってしまいました……」

「え。どこにどれくらい?」

「カナダに、一月末まで……」


 そうして俺たちの冬休みの予定はもろくも崩れ去った。

 いつもより遠くに出かけたいと言っていたけど、遠すぎないか……?




———————


お待たせしてすみません。

続きの準備ができたので、明日からまた毎日更新していく予定です!

今日は昼に投稿しましたが、明日からは毎朝更新予定です。

まだの方はぜひ★やフォローお願いします!


この二人だと、留学と言ってもしばしの遠距離恋愛になると見せかけて毎日通話して会話量があまり変わらない、なんてことになりそうです。







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