#17

 リンとのデートの翌日。

 俺達は初めて狩場を変える事にした。

 理由はもう相手が複数匹でもゴブリンなら勝てるだろう、とシュンが判断したからである。


 狩場の名前はグランザ平原。

 名前の通りグランザの近くにある平原で、真ん中に魔脈と呼ばれる魔力の吹き出し口がある事から、魔物が集まりやすいエリアになっている。

 と言ってもここの魔脈は弱い物なので、生息している多くの魔物は相変わらずゴブリンであった。


「よし今日からは少し狩場のレベルが上がったから気をつけて欲しい。と言っても相手は今まで通りのゴブリン。だけどここのゴブリンは皆集団で行動しているから、難易度は跳ね上がるよ。でも戦術とかやる事は今まで一切変わらないから落ち着いて戦おう」


 シュンの合図で、俺達は作戦通りに陣形を組み立てた。

 敵に気付かれていないなら俺から奇襲を仕掛け、ハヤトが最前線に立ち、その少し後ろにシュンとリンを置く。そして遊撃は俺で、後方支援はマユとシオリの変わらない布陣。


 俺達はゴブリン三匹の集団に狙いを定めた。

 まずは俺が草むらから飛び出し、三匹の中で一番小柄なゴブリンの背中にナイフを突き刺す。

 使ったナイフは投げナイフ用の安物なので、ナイフを抜かずに俺はすぐさまゴブリンから距離を取った。

 奇襲で一匹確実に仕留めるのが理想だったけど、それなりの傷を負わせれたので十分だろう。


「Gyaaaaa」

「おらぁぁぁ!!!」


 ゴブリンの悲痛な叫び声とハヤトの大声が重なった。

 大剣を軽々と振り回すハヤトに対して、勇敢にもゴブリンは立ち向かう。

 ガキンッ! と言って、大剣とゴブリンの剣がぶつかり合った。


「さ、させません!」


 その隙に他のゴブリンがハヤトへと襲い掛かる。

 一瞬ハヤトは焦った表情を見せる。しかしすぐさまマユの魔術による援護射撃がゴブリンを襲った。

『アイシクルランス』。それはマユが新しく覚えた氷系の攻撃魔術である。

 研ぎ澄まされた氷の矢がゴブリンに突き刺さり、ゴブリンは痛みからか叫び声をあげた。


「その隙もらったで!! 秘儀:飛天の槍!!!」


 秘儀:飛天の槍。

 リンが新たに習得したこの技は、空中に飛び上がって彗星のように地面にいる敵に槍を突き刺す必殺の技である。

 アイシクルランスによる痛みで注意力を失っていたゴブリンは、リンの攻撃に気付かず一撃で絶命した。


「ドクロちゃんいっけぇ!」


 ドクロちゃんは俺が最初に攻撃したゴブリンに襲い掛かっていた。

 ゴブリンは骨の獣に戸惑いつつも、魔物特有の強力な腕力でクロをバラバラに破壊してしまう。

 だけどクロの強みはここからだ。


 ――アンデット。それは神聖魔術で殺さないと、永遠に復活できると言う種族特性を持っている。


 勿論クロも例外ではなく、バラバラになった骨は一つにまとまっていき、再び獣の形になった。

 油断していたゴブリンはクロに背後から攻撃を受け、情けない声を上げてその場に倒れてしまう。


 最期に残ったのは、ハヤトとシュンが正面で戦っているゴブリンだ。

 他のゴブリンを俺達が一匹ずつ倒したのを確認したシュンは、ハヤトと一緒に猛攻を仕掛けていった。

 ガキン! ガキン! とハヤトは大剣を使ってゴブリンの攻撃を正確に受け止める。

 そしてハヤトが攻撃を受け止めた隙に、シュンが間合いに入ってゴブリンに攻撃を加える。

 そうやって着実に傷を増やしていったゴブリンは、最後にシュンが喉を貫いて絶命した。


「これで終わりだね。みんなお疲れ様。周囲の警戒を忘れずに戦利品を回収しようか」


 戦利品を上手に回収するのは、冒険者に求められる必須のテクニックだった。

 俺達は荷物持ちに分類されるメンバーがいないので、持ち運べる魔物の素材はかなり限られている。

 だから軽くて価値のある戦利品を、しっかりと見定めて持ち帰らないといけない。


「おお、これなんか高そうやない?」

「それは……ただの石だな」

「そんなぁ」


 本当はもっと経験のある冒険者がパーティにいれば頼もしんだけど、生憎俺達は全員が日本出身のひよっこパーティだ。

 だからこうやって仲間同士で相談して、価値があるかないかを確認している。


「そろそろ移動しよう。あまり長居しても他の魔物が寄ってきちゃうしね」


 そう言う事で俺達は場所を移動し、狩りを再開した。

 次に遭遇したのは突然前方に現れた、トレントと呼ばれる樹の魔物だった。

 この平原のトレントはブッシュに擬態するのが得意なようで、近づくまで全く気付くことができなかった。

 ゴブリン以外と初めて戦闘する俺達の間には緊張感が漂っている。


「落ち着いて戦おう。相手が変わってもやる事は変わらないよ」


 俺達とトレントが向かい合う事数秒。

 俺はまた不思議な感覚に陥った。


 ――――世界はまた遅くなる。


 この感覚は覚えている。

 あの時と同じだ。


 ――――まるで水の中に入ったかのような感覚。


 体は重く、言う事を聞かないし、なんだか息苦しい。


 ――――よく見るんだ世界を、それが未来を変える。


 俺はこれから起こる未来を、その目にしっかりと焼き付けた。


 トレントの、枝にしか見えない腕が伸び、そして俺たち全員は頭を貫かれて死亡する。

 そんな最悪とも言える光景を、俺はこの暗く重い世界の中で見てしまう。

 でも大丈夫、これは起こりえる未来であって、確定した未来ではない。

 泳いでいた魂が自分の体に戻っていく感覚と共に、俺は深く息を吸った。


「全員伏せろ!!!!!」


 ありったけの声量で俺はそう叫ぶ。

 俺の声に反応して、みんな急いで頭を下げた事により俺達は九死に一生を得る事ができた。

 ふう、本当に危なかった。危うくパーティが一撃で全滅する可能性もあった。

 俺は呼吸を整えて起き上がった。


「トレントの腕をよく見るんだ! 腕を伸ばす攻撃の時は予備動作が大きい!」


 シュンの言う通り、よく観察するとトレントの攻撃はかなり避けやすい部類だった。

 でも、初見であれを避けるのはかなり難しいので、トレントは初見殺しの魔物のようだった。


「どりゃぁぁぁ!」


 その後はハヤトが大剣でトレントを一刀両断し、戦闘は終わった。

 にしてもこの未来視の力がなかったら、本当に危ない局面だったな。

 それから俺達は後数匹のゴブリンを討伐して、今日は引き上げる事にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る