#8

「やっと稼ぎが出たぁぁ!!!」

「ほんま、涙がでそうやわ」

「やったー」


 夕方、シュンが貸し宿に銀貨を入れた小袋を協会から持ち帰ってきた。

 それを見た俺、リン、シオリが声をあげて盛大に喜んだ。

 そしてそれを見ていたハヤトとマユが軽く嬉しそうに笑い、シュンは満足げな表情をしている。


「実は謎のコインが、昔使われていた銀貨だったみたいでアンティーク品としてかなり高値で売れたんだ」

「それって……つまりお財布にかなり余裕が生まれたって事?」

「そうなるね。まずは今日の稼ぎの半分を六等分してみんなに配るよ。それから残りはパーティとしてのお金にするけど異論はある?」


 シュンの決定に文句を言うメンバーなどこの場にいなかった。

 結果、俺達はそれぞれ銀貨一枚をお小遣いとして受け取り、今日は解散となった。

 銀貨一枚あれば、回転寿司に一人で行っても足りるくらいの金額である。

 みんな今日くらいは遊びに行きたいのか、解散した後はそれぞれ街の中心へと向かっていった。


 俺も特に用はなかったけど、自然と足はみんなと同じ方向に向かっていった。

 そうだな、まずは部屋で着る用の服でも買うか。

 そう思った俺は一番近くの手ごろな服屋に入って行く。


「お、奇遇やな」

「リンも同じことを考えていたとは……」


 俺は苦笑してから自分好みの服を探した。

 ここは主に男女両方の下着を扱っている店なので、異性の知り合いと会うのは個人的に少し恥ずかしかった。


「リクはこのパンツとかどう思う?」

「男に自分が買う下着を見せるなぁ!」


 ふと隣に気配を感じれば、リンが商品のパンツを持って立っていた。

 おまけに俺に感想まで求めてきやがった。


「ちょっとからかっただけやん。もしかしてリク、興奮しとるの?」

「これが普通の反応だろ……」

「そんなわけないやろ、おとんは一緒に考えてくれたわ」

「俺はリンのお父さんじゃねーよ!」

「もう、こっちでのお父さんみたいなもんやろ?」

「それならハヤトの方が適任だ」

「つれないなぁ」


 上目遣いをしつつ、なんだか悲しそうな表情で俺を見つめるリン。

 その魅力に負けそうになるので、そろそろパンツはしまって欲しかった。

 だってそのパンツ少布面積小さくて、えっちなんだもん……。


「取り敢えずそのパンツはしまいなさい」


 そう言うと意外にリンは持っていたパンツを元の場所に戻した……と思ったら、今度はブラをもってこっちにやってきた。


「これはどうだぁ?」

「はいはい、似合ってる、似合ってる」

「折角ボケたんやからもう少しツッコミをいれるべきやろ!」

「どうやら、俺とリンは笑いのツボが違うみたいだな」


 拗ねてしまったのか、口をとがらせるリンを見て少し俺は笑ってしまう。


「リク、笑っとるやないか」

「それは……ちょっとリンの顔が面白くてさ」

「なんやそれ」


 最終的にリンは自分で下着を選び(それが当たり前)、俺は目的の部屋着を購入して店を出た。


「折角二人だし、ちょっと早いけどサシで夜ご飯でも食べる?」

「いいねぇ、ナイスアイディアやな」


 思い付きで提案したらリンがノリノリでついて来てくれたので、俺達は二人きりで飲み屋に入って行った。

 店の名前は『満腹亭』。

 文字通り量が多い事で有名な庶民派の居酒屋だった。

 ここは多くの駆け出し冒険者が訪れる居酒屋(シュン談)らしいので、一度行ってみたかったのだ。


「おお、冒険者のお仲間がいっぱいおるなぁ」

「そうだな、他のパーティの知り合いができたら楽しいかもしれない」


 はちまきを頭に巻いている店主っぽいオバちゃんに指示された席に座り、酒と適当に肉料理を注文する。


「なんだか、もうすっかりシュテルクライネに慣れちゃった感じがして、ちょっと複雑な気持ちだな」

「確かにまだ二十歳になっていないのに、当たり前にお酒は異世界って感じやなぁ」


 シュテルクライネでは基本的に、飲酒は十五から認められている。

 と言うのも成人年齢が十五歳なので、十五になれば冒険者にもなれるし結婚も出来るのだ。


「段々と自分の故郷が地球だって事を忘れてきてるみたいで、少し怖いかも」

「逆にウチはこっちの世界に慣れてきて、嬉しいって思っとるよ」

「それはなんで?」

「なんでやろな。やっぱり地球あっちが嫌だったのかもしれへん」


 まただ、また俺はリンから何とも言えぬ黒い影を感じ取ってしまう。

 地球でのリンを知らない俺は、彼女の過去を全くと言っていいほど知らなかった。

 と言うか彼女の過去だけでなく、今の彼女の事すらまだ一部分しか知らないだろう。

 過去に何があったのか、その疑問を口にすることは俺にはできなかった。

 いや、知りたくないと思ってしまった。

 明るいリンは幸せな家庭で生まれ育って、何不自由なく元気に生きていた、そんな人生の方が似合っていると勝手に思っている自分がいたんだ。

 だって俺みたいな普通の人間は、普通の人間の気持ちしか分からないんだ。

 例えリンに辛い過去があったとしても、その苦しみを心から分かってあげるのは不可能だし、その苦しみを一緒に背負うってのも俺には難しい。


「そんな辛気臭い顔をしてどうしたん?」

「ちょっと考え事をしてただけだ、気にするな」

「ふーん、もしかしてウチの事考えてた?」

「な訳ないだろ」

「ならええけど」


 俺は思考をリセットする為に料理にかぶりついた。

 美味い。

 この世界に来て初めて美味いと思った料理かもしれない。

 それは何かの魔物の肉と、地球にはない野菜のバター炒めだった。

 うん、美味い!

 ついつい他の事なんか全て忘れて、箸を一心不乱に動かしてしまう。


「そんな泣くほど?」

「う、うるさい。感動したんだ」

「ふーん……確かにこれは美味しいかもしれんな」

「だろ! リンもそう思うよな?」

「バターとこの肉の相性がええ感じにマッチしとるのが、もう最高や」

「分かる、分かる。くぅぅ! 美味い!」


 日本人の俺達は久しぶりの美味い飯に、周りの目なんか気にせずに喜びを分かち合っていた。

 周りを見れば「なんだあいつら」と言った表情で、他の客が俺達を見ていたけど……無視だ! 無視!

 今はこの美味しさを全身で噛みしめたかった。


「リン! コメ料理だ!」

「ホント!? 念願のコメ料理、ウチずっと食べたかったねん」


 次に出てきたのはパエリアのようなコメ料理だった。

 日本式の丼とか炊き込みご飯ではないけど、コメはコメ!

 俺とリンは勿論大興奮でパエリア似のコメ料理を食べ始める。

 味は……最高だった。

 久しぶりのコメ料理に、俺はまたしても感動で涙が流れてしまう。


「リン、美味いのは分かるが泣くな……」

「ならリクだってまた泣いちゃダメやで……」


 それから俺達は二人で提供された料理を泣きながら食べつくす、と言う珍客っぷりを発揮して店を後にした。

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