#5
「よし、僕たちの初勝利を今捥ぎ取ろう!」
敵にバレたら困るので、音量は小さかったけどその声には重さがあった。
取り敢えず俺は背負っていた荷物を置いて森の中を一気に駆け抜けた。
最初は魔術師らしく魔術を使いたいと思う。
集中力を高めて指先に魔力を集めていく。
ある程度魔力を集めたら後は空中に魔術陣を描き、魔術を発動させるだけだ。
「えっと、確かこんな感じで良かったよな」
魔術って言うのはプログラミングのような物で、魔術陣の模様の重ね合わせで出来ている。
例えばこの魔術陣の真ん中の円の部分は土系の魔術を使うのに必須の土の生み出す構造で、右上の模様は魔術で作る石をドリル状にする構造っ言った感じだ。
細かい構造は俺もまだ理解していないから、俺は取り敢えず簡単な魔術を暗記している。
実際多くの魔術師は魔術陣を暗記しているだけで、状況に合わせて魔術陣を描きかえれる魔術師は一握りだけらしい。
「いっけぇ、『ストーンバレット』!」
完成した魔術陣を発動させ、ゴブリンに向かってドリル状の石の塊を発射する。
これが現在俺の使える唯一の攻撃魔術だ。
それでも当たればかなりのダメージが期待できるんだけど……綺麗に外れた。
俺のストーンバレットはゴブリンの真横を通って奥の水場にドボンと入って行った。
ミスったのは仕方ない。
俺はナイフを鞘から取り出し、ゴブリン目掛けて一直線に突っ込んだ。
「おりゃぁぁ!」
俺は陽動、ならゴブリンの気をなるべく引いた方がいいだろう。
大声を上げながら力任せにナイフを振る。
ゴブリンも片手剣を必死に振るっている。
攻防は予想通り俺が劣勢。
力の差はそこまでないけど武器のリーチに差がある分、ゴブリンの剣を俺がナイフで受け止めると言う展開が続いた。
「どぉぉぉ!」
そろそろ俺の防御が崩れそうなタイミングでハヤトが大剣を前に突き出してこっちに突進してきた。
ひょいと俺はゴブリンからバックステップで距離を取ってハヤトと入れ替わった。
バチンと言う大きな音を立ててハヤトの大剣とゴブリンの片手剣がぶつかる。
ゴブリンは今の一打ちでハヤトには力で勝てないと悟ったのかハヤトから一歩距離を引いて行った。
それを見たハヤトが大剣を強引にゴブリン目掛けて振り回す。
しかしゴブリンはそれを分かっていたかのように攻撃を左に避けて、そのままハヤトの懐に入って行った。
「それはカバー済みだ。『ストーンバレット』!」
俺はハヤトと立ち位置を入れ替えた後から準備していたストーンバレットをこのタイミングで発動させた。
さっきとは異なりしっかりとストーンバレットをゴブリンに命中させて、ゴブリンは突然の攻撃によろめいていた。
「リン今だ!」
ここが一番のチャンスだと思って茂みに隠れていたリンに合図を送る。
「了解やで!」
その声と共に槍を構えたリンが茂みからゴブリンに飛び掛かった。
ゴブリンは突然現れたリンに驚き回避行動に移った。
けどリンの槍の方が数段早く、リンの槍はゴブリンの右肩に深々と突き刺さった。
リンは嬉しそうな表情をした後に、槍をゴブリンから引き抜く。
ゴブリンの肩からは青黒い色の血が吹き出していた。
ゴブリンの血って青色だったのか、初めて知った。
「みんな畳み掛けるんだ!」
シュンの合図で俺たちは一気に前に駆け出す。
俺がナイフを振って、ハヤトが大声を上げながら大剣を振り回す。
みんな必死だった。
だってこれは命をかけた生存競争だから。
「リン、右から回り込んで!」
「ラジャー!」
シュンとリンが挟み撃ちの形で左右から攻撃を加える。
またしてもゴブリンに有効な攻撃をリンが与えてくれた。
いける、俺たち全員でかかればゴブリン一匹ならなんとかなる。
俺は小柄な体を活かしてゴブリンの懐に入っていった。
ナイフを使うなら適切に急所に切り込むのが大切だと教えてもらったのでゴブリンの喉に向かって全力でナイフを突きさした。
返り血が顔にかかって視界が悪くなる。
それでもかなりの手応えを感じたから攻撃は確実に入ったと思う。
「リク! 危ない!」
「え——————?」
突如俺の体に感じたことのない痛みが走った。
まるで全身の神経を焼かれたのような尋常じゃない痛みだった。
反射的に腹部を抑えたから痛みの原因は腹部なのだろうか。
返り血で視界が曇っていて何をされたかすら把握できない。
右手で顔にベッタリと付いていた血を拭うと視界がクリアになってきた。
そして俺は自分の腹にゴブリンの片手剣がガッツリと刺さっているのに気がついてしまった。
痛い、痛い痛い痛い痛い。
自分がどういう状態なのか認識したら加速度的に腹部の痛みが増していった。
どんどん血が流れていって目の前は血溜まりだった。
自分の体なのに痛みで制御が利かない。
「リク!」
俺の近くに真っ先に駆けつけてきたのはリンだった。
その様子を見たゴブリンが卑しく笑うと俺の腹から剣を引き抜き、リンに向かって剣を振り下ろした。
剣を引き抜かれた痛みで俺は吐血し、更にのたうち周ってしまう。
クソ、リンに危険を伝えたいのに喉に力が入らない。
「リクが心配なのも分かるが相手から目を離すなよ、リン」
「あ、ありがとなシュン」
「リンはリクを連れて後方に下がって、ここは僕とハヤトでなんとかするよ」
ゴブリンの剣とシュンの剣が当たって鈍い金属音がした。
シュンのおかげでリンは無傷で俺の横まで駆けつけてきた。
「ど、どしようウチこんな場面出くわした事ないから何したらええか分からん」
「まず止血をしてから俺をマユの所まで連れていってくれ」
痛みで今にも叫び出したいのを我慢しなんとか声を振り絞る。
リンの真剣な顔を見ると油断した自分が情けなく思えてきた。
「止血やな、分かった」
そう言ってリンは服の一部を千切って俺の腹に巻いてくれた。
腹部を圧迫されるだけで感覚的にはかなりマシになったのでリンと一緒に肩を借りてゆっくりと歩き出す。
「リク君! ちょっと待ってください、今治します」
マユが奥の森から息を切らして走ってきた。
彼女は白魔術師なので回復魔術を使うことができる。
「『ヒール』」
マユの手から淡い暖かな光が漏れ出し俺の傷がどんどん癒えていった。
回復魔術を見るのは初めてだったけどここまで超常的な物だとは思っていなかった。
「傷は治っても血は戻らないのと痛みは当分残るので今日はもう戦闘しないでください」
「分かった、ありがとうなマユ。それとリンも」
「ウチは特に何にもしてへんよ」
恐る恐る腹を見てみると確かに傷は塞がっていた。
痛みの方はまだ焼かれたような痛みにを感じるけどもう我慢できないほどじゃない。
シュンたちの方を見ると順調にゴブリンを追い詰めているようだった。
ハヤトが持ち前の巨体を活かしてゴブリンに圧力をかけつつ、生じた隙をシュンが上手く利用しているようだった。
側から見ると中々いいコンビネーションだと思う。
「ゴブリンが三匹! 三時の方向から!」
順調な時には何かしら悪い事が起きる。
緊迫したシオリの言葉でシオリが指差した方向を見ると確かにゴブリンが三匹こっちに向かってきていた。
「ここは引こう! ハヤトは殿を頼む! 先頭はすまないがリク、行けるか?」
「命には代えられないからな、多少無理してでも先頭は任せてくれ」
正直言ってまだかなりの激痛が残っているから本音を言えば歩くことすら今はしたくなかった。
でもこんな所で立ち止まってゴブリン相手に命を散らすなんて真似はしたくない。
「シオリとマユは俺に付いてきて」
「分かりました」
「分かったよ」
俺は後衛の女の子二人を連れて森の中に入っていく。
ここ二日間でゴブリンの移動ルートは大体把握していたからなるべくゴブリンに出会わないような道を選んでいく。
「リク、お腹の方は大丈夫なの?」
「まあ正直に言えば痛いけどなんとか我慢してる」
シオリが心配そうな顔でそう言ってくれた。
「そこ、段差だから気をつけて」
「分かってるよ、って、ひゃう——――」
「だから段差だって言っただろ……」
木の幹に足を引っ掛けてバランスを崩したシオリの手首を俺が掴んだ。
すんでの所でシオリは転ばずにすんだ。
「あ、ありがとう、リク」
「ほらシュン達ももうすぐそこだ、うだうだしてる時間はないぞ」
「分かってるよ」
振り返れば無事ゴブリン達を追い返したシュン達がこっちに向かって走ってきていた。
そして森を脱出した後俺たちは恒例の反省会を始めた。
「今日も悔しい結果に終わったね」
「俺が悪かったホントにごめん」
「いやいやリクは悪くないよ。僕がもっと火力を出すべきだったんだ」
珍しくハヤトが発言をして俺のフォローをしてくれた。
普段は無口な彼が何かしらの発言をすると言うことはハヤトも悔しかったのだと思う。
「その後ろから見てて皆さんが少し焦っているように見えたからもう少し冷静になるってのはどうでしょう」
「確かに僕たちは少しゴブリンを倒すことに対して焦りがあるかもしれないね。早くゴブリンを倒して稼ぎを得る必要があるのは事実だけど、焦って倒せるはずのゴブリンを倒せなかったら勿体無いからね」
マユの発言で自分が少し焦っていたのを実感した。
確かにあの場面で無理やり俺が突っ込む必要はなかった。ハヤトの大剣でゴブリンを怯ませてから確実に攻撃をするべきだったと俺は反省する。
「明日はまたあそこの狩場に行って今日の反省を活かしつつゴブリンを倒すことにしようか。じゃあ今日は解散しよう」
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