007:拠点帰還任務
無事シェルターへと帰還した俺達。
多少部下が負傷したが、この程度なら応急処置の範囲内だ。
ひとまずなぜこんなことになったのか、ミシロに聞くことに。
「で、ミシロ。なんでギャングと敵対することになったんだ?」
「シロ
「やだよ……」
「でもミシロとかミロクとかややこしいでしょ?」
「じゃあシロ
適当にナンバーで当て字にするから面倒くさいことになるんだろうが。
この際だから改名でもしとけ。元のディビッドとやらに戻すのはどうだ?
「ふん、あいつらは企業に孤児を売っていたのよ。私達ナンバーズもそんな境遇だった……見過ごせるはずがないわ。だから――」
「だから――なにしたんだ?」
「あいつらのデータ全部盗んでいろんな企業やメディアに流してやった♡」
きゃはっ、とかウィンクする金髪ロングイケメン。
アフロの時だったらまだ可愛らしかったが、こうなるとけっこうムカつくな。
ウィンクするな。
「よく盗めたな……」
「あいつらの事務所に忍び込んだからね。簡単だったわ。他人を巻き込むわけには行かないから自分でやったの。まぁ、売り渡す段階でどこかしらから私がやったってバレたみたいだけど」
「それで報復に来られたってことか」
しかも相当執拗に。まぁ表立って悪事がバレるということは死活問題だ。
いくら街が隠蔽していたとしても、不利益を被る企業は潰すのに躍起になるはずだ。
アンドーのやつ、もう余命短いだろうな。
「そういえばなんかよくわかんない暗号データもあったけど……欲しい?」
「え? くれんのか?」
「ええ、昔集めてたでしょ」
そう言ってUSBメモリを投げ渡してきたシロ兄。
これで三つ。昔手に入れた暗号キーは全部師匠に預けちゃったからな……。
今思えばコピーしておくべきだったな。
まぁ、万が一捕まった場合のリスクヘッジがどうのこうの言われて、師匠に全部渡したんだが。
師匠はネームドだし原作だと主人公に敵対的だった実力者だから信頼できる、はずだ。うん。
実質、一ルートのラスボス格だったし……。
「とりあえずほとぼりが冷めるまではここにいとけよ」
「ありがとう。そうするわ」
「ミロクちゃん、なんか適当にコンテナひとつあてがってやれ」
「ああ! 着いてくるがいい兄さん!」
そう言ってみーみー兄妹はガレージにあるコンテナへと向かっていった。
しかし心配なのはジャンク屋のジェイムズだ。まさか勝てたとは思っていない。
捕まってなきゃ良いけど……。
「ふぅむ、なんとか一段落ってところだね」
レイルが氷上船から降りてきて、ピタリと俺にくっつく。
それをとやかく言うほど浅い関係でもないので、無視しておいた。
「ああ、もうしばらくは厄介事はゴメンだぜ……」
「ボクの勘なんだけど、多分すぐにもう一波乱あると思うよ」
「おまえの勘はよく当たるんだよな……」
まぁ流石にアンドーがこのまま終わるわけがないか。
さて、何を仕掛けてくる……?
◆ ◆ ◆
「えらい申し訳ありまへん!! 事務所のサーバーぶっ壊れされましてん!!」
「あらまぁ、となると……取引予定だった暗号キーは渡せない、と」
ワイは今、事務所で土下座してた。
周りには企業”パシフィック”の兵隊ども。
ワイの目の前にはスーツ姿のご令嬢、金髪ロールを一本に纏めたような髪型。
パシフィックの社長令嬢である――フワリィ・ミスドレイク・パシフィックだった。
フワリィ嬢は目の前のソファに座り、ワイの頭を足蹴にする。しかし抵抗は出来ない。自分の部下は既に床で寝そべっている。下手をすれば、いやしなくても命はない。
「そ、そないなことありゃしません!! あのアフロ野郎を捕まえれば……!」
「それが今回取り逃がしたわけじゃありませんか」
「は、はぁ……!」
そう、どうしても今回あのアフロ野郎を捕まえたかったのは、パシフィックに暗号キーを渡すことで、かなり多くの情状酌量を求めていたからだった。それがあいつのせいで台無し。
このままではうちのチームはお取り潰しになってしまう。
「フゥン、どうせヤマトの奴の仕業だろう」
全身をライダースーツで包んだ、フルフェイスヘルメット頭が喋る。
何やら興味深く、ワイの事務所の机を漁っとる。漁っても何にもあらへんで。
「ヤマトくん? あいつは関係ないやろ。あったとしても証拠があらへん」
「あの仲介屋が助けを求めて、ここまで鮮やかに逃がせられるのはあいつぐらいのもんさ」
そう言って、ヘルメット野郎がこちらへと向かってくる。
しゃがみこみ、ワイの髪の毛を掴んだ。その手には旧型のスマートフォンが。
「あいつに連絡しろ。ジャンク屋とその娘は預かった。返してほしければ、暗号キーを持って来いってな」
「そ、そんな……! 持ってなかったらどうしますんや!?」
「別に知り合い全員に送ればいいじゃないか。あのジャンク屋の」
髪の毛を放される。声が機械的だが、こいつ覚えがあるような……。
なんていうか立ち振舞いに……。
「お、おまえ、ライズか……?」
ワイがそう言うと、ヘルメット野郎は思いっきりわいの顔を蹴った。
歯が一本折れて、飛んでいく。周りの兵隊たちが驚いて武装を構え直した。
「ライズという”男”は死んだ。今ここにいるのは、そう――」
大仰に手を振るい、全身で生誕を喜ぶような仕草。
やはり、こいつ、ライズじゃあ……。
「――――デッドマンとでも呼んでくれ」
「はぁ? ダサいねん死に損ないがもういっぺん死んでくれや」
ごふっ!! 今度は腹を蹴られた。思わず咳き込んでしまう。
見かねたのか、フワリィ嬢がパンと手を叩く。
「あ、そうだ! 興行にいたしましょう!!」
「こ、興行……?」
「ジャンク屋さんを助けるには、わたくし達に勝つこと。勝負は2VS2のタッグマッチ! 敗者は暗号キーを渡す……ってことで! これなら公平でしょう?」
「な、なにが公平なんすかね……」
この女もほとほとイかれてる……!!
というか2VS2ってことはワイも出るんか?
そりゃ腕前には多少自信はあるけど、なんでワイが出なあかんねん。
こんなん処刑と一緒やん!!
そう思ったのか、顔に出たのかフワリィ嬢がじろっと顔を覗き込んできた。
その顔は張り付いたようにニコニコと笑顔だ。
「なんで自分が出るの? と思いました? ええ、お察しの通り処刑ですわ」
「そ、そない殺生な……!」
「でもこのデッドマンさんが頑張ってくれれば死ななくて済むかもしれませんね! ね!」
「ああ、私に祈っておくと良い」
フワリィ嬢のハイテンションに、腕を組んで合わせるデッドマン。
男尊女卑野郎がえらい丸くなったもんやな。飼い犬の自覚があるんか。
元々ワイの飼い犬やったはずやけどなぁ……!!
「と、ともかくジャンク屋の知り合い全員に暗号キーを探せと送りますわ」
「あ、いいです。うちの人間がやりますので」
「せ、せやかて脅しの文句も知らんでっしゃろ!?」
「脅しなんてそんな物騒な。まぁ、そうですわね。あんまり遅くなると――」
そう言うと、フワリィ嬢のニコニコとした顔が真顔になった。
ワイはその顔を見たときほど、肝が冷えたことはない。
「お嬢さんの胃袋がタプタプになってしまうかもしれませんね」
――――この女は悪魔や。
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