002:魔女交渉任務

 目的の氷結林はそこまで遠くない。ボートで数時間と言ったところだ。

 ボートから見ても、はるかにデカく長い木々は、全長何mあるかすら把握できない。

 なんとか一本切ってしまえば、冬の間は燃料に困らないぐらいだ。


 もっとも、現在の文明社会ではシードルが燃料として使われている。

 氷結林の木々を使おうなんてものはほとんどいないのである。


 木々の間は大きく離れているので、ボートでの移動も可能だ。

 そんなわけで襲撃地点から何キロか離れた場所にボートを停船させた。


「ここからはロボで行くぞ。レイル、イーリエ、ポイントへ向かってくれ」

「おや、今回はあーしが出動っすか?」

「狙撃相手がわからないんじゃ、俺の狙撃の腕も使えないだろ?」


 ヴァルチャーは前回の依頼の報酬で完全に直してある。

 奪った腕についてあったパルスソードは、不要としてイーリエが外してある。

 仕方ないので、武装の少ないレッドキャップの腕に装着しておいた。


 パルスガンも盾のような形状に作り変え、パイルバンカーとは違う腕に装備。

 この盾からパルスソードも出るという設計だ。


『あの男の武装をつけられるのは、少々嫌なんだけどね……』

「パルス装備は高いし貴重なんだ。とやかくは言ってられないさ」

『まぁヤマトがそういうなら……武器をあいつから寝取ったと思えば、気分もいいしね』


 ロボに搭乗しながら、レイルが通信でものごちる。

 今回はブースターは翼仕様だが、装甲は普段通りだ。


 というのも白蛇の外装を現在補充中――というのと、今回は調査。

 短期決戦かはわからないからだ。


 決戦仕様はけっこうシードルの消費がはげしいからな……。


『しかし、センサー類には引っかからないのかい?』

『大気中のシードルによって、使えるセンサー類は極めて限定されてるんすよ。有視界におけるカメラでの索敵が一番有効なのもこういうロボの発展に繋がってるっすね』

「へぇ、その割には無線通信は快適だけどな」


 俺は操舵室の機材を弄りながらそう言う。

 どこかの本で、通信とセンサーはよく似ていると聞いたが……。


『旧時代の技術っすね。シードルを使った粒子無線。極めて安定していますが、ブラックボックスも多いんで応用はちょっと利かないんすよね』

「まぁ、ロボのパーツだって旧時代のものを発掘して使ってることもあるしな」


 そう、この世界は一度文明が断絶している。

 それはAIとの戦争のせいなのか、”黒幕”が原因なのか。

 この凍りつく環境のせいなのかはわからないが……。


 こんなことなら公式設定集とか買い漁るべきだったな、うん。


「よし、それじゃあ二人とも気を付けて探索してくれよ」


 レッドキャップとヴァルチャーが、伸ばされたカタパルトから順繰りに出撃する。

 襲撃地点はそこまで遠くない。二人のロボならば数分もかからない距離だ。

 瞬く間に辿り着くと……残骸が綺麗に無くなっていた。


 ハイエナ達が回収していったのだろうか。

 襲撃があると言われている氷結林に? それとも襲撃者が回収したのか……。


『ふむ、逆に一切の痕跡が絶たれているっていうのは困るっすね』

「いや待て。引きずったあとがある。最近雪が降っていなかったからな」


 明らかに誰かが回収したであろう後。

 この足跡の大きさからしてドローンではなく、空き缶ロボだろう。

 …………この数だと四機程度は存在するようだな。


『そこそこの賊なのかな? イーリエちゃんが所属してた程度には』

『だとすると、さらわれた”商品”でレイルちゃんに見せたくないことが行われているかもっすね』

「……そうは言っても調査を辞めるわけにはいかない。二人とも、引きずった後を追ってくれ」


 ドローンを出撃させて、襲撃ポイントを詳細にチェックする。

 と言っても……もう大した物は見当たらなさそうだが。

 二人に先んじて、ドローンを追跡させてみるか。


 引きずった後を追って、ドローンが向かったのはなんと遺跡。

 例によって、壊れた戦艦みたいな機械的な風貌が目立ち、空き缶ロボでも入れそうな大きさだ。

 ドローンをそのまま飛ばして、中を調査してみる。


 ――すると中には村があった。

 温かな焚き火が村の中央で燃え盛っており、周辺にはテントが設置されている。


 なにやら作業をしているらしき人々はその殆どが女子供であり、見目麗しい。

 おそらくアンドーが輸送していた”商品”の人たちだ。


「ふむ、襲撃犯は”商品”を助けてここに匿っていたみたいだな」

『となると戦わなくても、この調査を報告すれば任務達成っすよね?』

「いや、遺跡の内部を調査したい。内部の人間と交渉できるか?」

『ええっと……レイルちゃんやるっすか?』

『ボクに出来ると思う?』


 はぁ、とイーリエが溜息をつく。

 俺が出撃してなかったらおまえに決まってるだろうが。ともあれ、ヴァルチャーとレッドキャップは遺跡の入口で止まり、外部に向けて音声を流し始めた。


『こちらに敵対の意志はないっす!! 責任者はいますか?』


 わいのわいの、といままでゆったりとくつろいでいた人々がテントへと戻っていく。

 そりゃあロボが攻めてきたんだから隠れるのも無理はない。


 やがて、奥から緑の迷彩柄をした空き缶ロボが出てきた。

 オーソドックスな作りで、それほどカスタムはしていないようだが数が多い。

 隊長機らしきロボには一本角が搭載されていた。


 頭上のコックピットから顔を出し、こちらに向かってメガホンで話しかけてくる。

 それは”魔女”の二つ名にふさわしく、少女の姿をしていた。


「何の用だ!!」


 髪は黒。インナーカラーは赤。

 迷彩柄の軍服のように見えるが、どことなくスカート風に改造されている。

 正規の軍人などではなく、俺達よりも真っ当な傭兵だった連中だろう。


 キッ、と眉間にシワを寄せ、眉を吊り上げているがどこかあどけなさがあった。

 レイルより二~三歳年上、といったところだろうか。


『ああ、え~~っと……ヤマトくん、交渉できないっすか?』

「仕方ねぇな……代われ」


 音声を繋いでもらい、俺が代わりに話すことに。

 イーリエ、ちょっと陰キャっぽい見た目だと思っていたが、人と話すのは苦手なのか。

 ま、交渉事なら任されよう。


『俺達はおまえらが襲った氷上船の人間に雇われている。

 ここから場所を移し、もう襲撃を止めると約束すれば、報復はしない!!』

『場所を移せだと!? だったらおまえがこの人数を保護できるシェルターを用意しろ!!』


 むすっとした顔で怒鳴り声を上げる少女。

 え~~~、一応あるけどさぁ。無人シェルター。ゲームで知っているのだと……。

 この人数を保護できるところで一番近いところだと……あそこか。


『いいだろう。シェルターはこちらが用意する。それでいいか?』

『信用できるかッ!! 顔を見せろ!! 身分を晒せッ!!』


 面倒クセェ……だが、仕方ない。

 交渉するには、通信ではダメみたいだな。


「レイル、イーリエ、そいつらを氷上船まで案内してくれ」

『いいんすか?』

「いいもなにもそうしなきゃ納得してくれそうにないからな」


 こちとらできるだけ無益な殺生したくない。

 有益ならばある程度は許容するけどさ……。


『じゃあ案内するよ。え~~っと、二機だけ来てくれる? それとも全機来る?』

『…………私が行こう』


 少女の決定に周囲のロボがざわめく。

 どうやら中ではあの少女の部下が運転しているみたいだな。


「隊長!? いいんですか!?」

「隊長、ここは俺が……!!」

「交渉だ。私が行くよりあるまい」

「しかし……」

「夜までに戻らなければ、機体についたビーコンを追ってきてくれ」


 そう言うと、少女はロボの内部に戻り、遺跡より出てきた。

 イーリエとレイルが、その両脇に並走し案内することに。


『へへ、よろしくね。君の名前は?』

『No.369……それ以外の名前などない』

『じゃあミロクちゃんって呼ぶね!!』

『呼ぶなッッ!!』


 ……とりあえずレイルとは仲良くなれそうで安心だ。

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