ロボゲーのモブに転生したけどシビアすぎるんだが!?

ちゃもなか

EPISODE1:赤い流星

001:氷上船護衛任務

 でかい空き缶。俺がこのマシンを形容する時の言葉だ。

 全長2.6m前後。円柱型のボディに手足とバックパック、2/3ぐらい上の部分にモノアイがくっついている。ガキがパッと作った空き缶ロボをリアルにしたらこんなもんって感じだ。


 そんなもんを何で好き好んで使ってるかって?

 ろくに物資がないんだよ。これも旧時代の遺産だ。

 多少使い勝手が悪くても、ゲームじゃモブの代名詞だろうと、大事な商売道具さ。


 それに扱うのは、俺じゃないし。


「くそっ、なんだって付き纏うんだあいつら」


 ……そんな商売道具の量産品が今、俺達に付き纏っていた。

 数十m後方。氷の荒野を駆け滑りながら、俺達が乗っている氷上船に付き纏っているのだ。

 氷上船ってのは分厚い氷さえあれば、それを砕き割りながら進めるハイテク船である。


 しかしまぁ……。


 どいつもこいつも同じ機体。モブモブモブ。本来の主人公様なら一網打尽に出来るはず。

 しかし俺は――この世界で言う一山いくらのモブであり、奴らと同じ立場である。


 つまるところ、俺じゃあ単純に数の差で倒せない。

 困ったもんじゃい。この氷上船の護衛を任されてるっていうのに。


 俺はブリッジからメガホンを手に取り、奴らに向かって大声を出した。


「そこのモブども、止まれ!! それ以上付き纏うなら潰す!!」


 返事はなし。動きも変わらない。

 どうやら所定のポイントに誘導なりなんかして、そこで襲う気だろう。

 もちろんモブたる俺では勝てはしない。


「しかたねぇ、潰すか……」


 ――――――だが、ネームドならどうだろうか?

 もちろん潰せる。たとえ、使っているのがモブの機体だとしても。


「出番だぞ、レイル」


 俺の隣で蹲っていた赤くてデカい空き缶が動き出す。

 それは奴らが使っているのと同じ機体。空き缶ロボである。

 もっとも、連中が白を基調とした迷彩色なのに対し、こっちは真っ赤だが。


『レイル・ニーズヘッグ。出るよ!!』


 勢いよくそれは氷上船から飛び出すと、奴らの群れに突撃していった。

 左右に別れ、その突進を回避する空き缶ロボ。


 同時に手に持っていたライフルでうちの赤いのを撃ち始めた。

 突如として赤いのが軌道を変え、右方向の空き缶達に接近する。


 俺には見慣れた動きだが、連中は面食らったに違いない。


『なっ!?』

『気をつけろ!! こいつ、レッドキャップだ!!』


 レッドキャップ……レイルの呼び名か。いい名前だ。

 次の瞬間、レッドキャップの片腕に装備していたパイルバンカーが発動する。


 白い一機が串刺しになり、そのままレイルは左方向へと加速。

 ついでとばかりに右に残っていたもう一機に杭が飛び、串刺しにした。


 爆発。命がおそらく二つほど失われたわけだが――。

 俺にはその程度、もうなんとも感じない。それほどまでにこの世界はシビアなのだ。


『馬鹿な!? もう二機やられただと!?』

『くそっ、速すぎる!!』


 盗聴している無線からそんな情けない声が聞こえる。

 当たり前だ。俺が足回りを弄ってるからな。


 機体のパーツ。その性質は現実なれどゲームと同じ。

 このゲームを前世やり込んだ俺には、最適な組み合わせが理解できる。

 三百時間はやり込んだからな。


『いっくよー!!』


 くるくると敵の周囲を旋回するレイル。

 パイルバンカーを撃ち出し、串刺しにしていく。


 うむ、近接型にしといて正解だな。

 あの杭を撃ち出す機構も多少値が張るが、便利だ。

 一度に持ち出せる弾数にかなり限りがあるのが傷だが……。


 右方向に展開していた空き缶ロボも爆発。

 周囲に敵は見当たらないし……これで護衛は成功かな。


『ヤマト、倒したよー』


 無線から高らかな声。うちのエースの声だ。

 俺は耳につけている無線のボタンを押し、それに返答する。


「ああ、見てたよ。パーツを多少回収したら帰還してくれ」

『了解~~!』


 そう言った瞬間、数百m向こう右方向の地面が爆ぜた。

 空き缶ロボを丸呑みに出来そうな――。

 全長数百mはある真っ白なヘビ、のロボ。間違いない。


 旧時代の超大型自動制御ドローンだ。

 アレはその蛇型ってところか。


「くそっ、アイツラがとろとろ付き纏ってたのはあいつを誘導するためか!!」

『ヤマト、どうする?』

「どうするったって……」


 正直、レイルでも倒せるかどうか……!

 しかし氷上船を破壊されれば、多くの乗客の命が失われる。

 俺に支払われる予定の報酬だってパーだ。


 だが、レイルの安全を考えると――。


『ヤマト、ボクを信じてよ』


 無線から伝わってくる意志の籠もった声。

 そこに恐怖はなく、あるのは俺への信頼と自信のみだった。


「――ッ、ああ、そうだな。あいつをぶちのめせ! レイル!!」


 レイルのロボが跳ねる。

 すぐさま白蛇に接近し、その腹部に向かって杭を射出した。

 ――が、杭が爆発しようとも大したダメージになっていない。


 あいつの装甲はたしかかなり硬かったはずだ。

 ゲームじゃ一部を除いてろくにダメージが通らなくて……。


「ッ!! レイル、頭部だ! あいつの頭部にある赤い鱗を破壊しろ!!」


 そこがセンサーになっている!

 センサーを破壊されれば、こちらの気配を追ってくることはない。

 ぶちのめせと言ったが、俺達の目的は討伐ではなく護衛なんだからな。


『わかった!!』


 レイルがバックパックから吹き出るブースターで飛び上がる。

 そのまま白蛇のボディに乗って滑走していく。あいつに大した装備はついていない。

 あいつのボディそのものが攻城兵器だからな。


 つまるところ、このままあの蛇は何も出来ないってことだ。

 凄まじいブーストで頭部に乗り付けるレイル。

 しかし次の瞬間、白蛇が氷に潜った。


「まずいッ! 上がってくるぞ!!」


 あいつ、氷に潜ってから浮上して噛みつくつもりだ!!

 緊張と恐怖の一瞬、宙に浮き上がるレイル。

 次の瞬間、大口を開いた蛇が氷の中から飛び出てきた。


 だが――レイルはそれを予期していた。

 白蛇の大口に向けてパイルバンカーを撃ち出したのだ。


 飛び出す杭。爆発する口内。内部は脆かったようで、そのまま先端から崩壊していく蛇。

 崩壊した蛇の残骸から、レイルが飛び出してきた。


『作戦成功だよ、ヤマト! 帰投する!』

「ふぅ、ヒヤヒヤさせやがって……」


 流石は設定上、エースになる少女だ。

 もっとも、クソみてぇなカスタマイズの機体のせいか。

 序盤のうちに主人公に殺されるんだけど――。


 ああ、そうだ。この世界はネームドであろうが例外なく死んでいく。

 最後には主人公の手によって、惑星ごと滅ぼされるエンドもあるぐらいだ。


 俺の目的は、このシビアすぎる氷の世界フロストパンクで、ただ生き延びたい。

 なるべくいい思いをしてな。それだけなんだ。

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