第23話 魔王と部下と一般OL、コタツ会議で魔獣討伐が決まりました

 コタツの中は冬の夜にはよく似合うぬくもりで、でも空気だけは張り詰めていた。私とあっくん、それに金髪の青年――ルカルド・アーヴァインが向かい合う形で座っている。


 ルカくん(と、勝手に呼ぶことにした)は湯気の立つ緑茶を両手で包み込み、申し訳なさそうにまばたきをした。


「……まずは謝らなきゃいけません。魔王様……そして、みのりさん。僕のせいで、この世界に魔獣を連れてきてしまって」


 深く頭を下げる彼に、私は思わず慌てた。


「え、えっと……顔を上げていいよ? ルカくんのせいってわけじゃ……ないんだよね?」


「いや、十分余の部下の落ち度であろう」


あっくんが腕を組んで鼻を鳴らす。


「余を追って転移魔法を発動したはいいが、制御をしくじり魔獣を連れてくるとは。ぬるいにもほどがあるぞ、ルカルド」


「……ぐ。返す言葉もありません」


 しょんぼり肩を落とす姿が少し可愛いけど、状況は笑えない。


「空間転移魔法って……そんなに難しいの?」


「本来は、魔王様の魔力があれば容易なはずなんです。でも今回は、僕一人で発動した上に、こちらの世界と異世界の境界がすごく揺らいでいて……それで、僕の魔力制御だけじゃ支えきれなくて」


 ルカくんは手を胸に当て、小さく首を振った。


「結果、近くにいた魔獣まで巻き込んでしまったんです。あれは森に棲む魔獣で……その、犬というよりどちらかといえば“タヌキ”に近いタイプで」


「タヌキ……」


 その単語に、私は思わず部屋の隅へ視線を向けた。――たぬ助。最近あっくんに買ってあげた、タヌキ型の抱き枕。


 あっくんもそちらを一瞥し、肩をすくめる。


「似てはいるが、あれほど愛らしくはないぞ。森ではしょっちゅう余の食料を盗みに来ていた魔獣だ」


「え、そんなやつが現実に……?」


「余を見て逃げていたくせに、人間を噛むとはな。やはり放置はできん」


「……その魔獣が、ニュースの“見たことない動物”なんだね」


「はい。魔獣は基本、人間を敵と認識します。放っておけば被害が広がる可能性がある……討伐しなくては」


 ルカくんの表情は真剣そのものだった。


 そんな二人を見て、私の背筋にぞわりとした緊張が走る。でも――。


「私も行く」


 二人が同時にこちらを見た。


「あぶないぞ、みのり」

「みのりさん、魔獣相手に戦うのは――」


「でも、あっくんにまた何かあったら困るし。ルカくんだって、こっちの世界じゃ魔力があまり使えないんでしょ? なら、二人だけで行くより、私もいたほうが……役に立てるかもしれないし」


 少し震えていたけど、ちゃんと口にできた。


 あっくんは沈黙のあと、小さく笑う。


「ふん。肝が据わっておるな。みのりは」


「あったりまえよ! なんてったって、魔王の同居人だからね!」


 そう言うと、ルカくんがじーっと私とあっくんを交互に見比べてきた。


「……あの、お二人はもしかして、その……恋仲とか?」


「違うから!!」


「違うぞ。……まだ」


「えっ、あっくん!?」


 顔が一気に熱くなる。ルカくんは「そ、そうなんだ……」と顔を赤くするし、もう混沌だ。


 でも――そんな空気の中、私たちは立ち上がった。


 外は冷たい冬の夜。

 でも、三人でならきっと行ける。


 ――魔獣討伐大作戦、開始だ。

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