第7話 あっくんの生い立ち

 魔王という言葉の衝撃にばかり気を取られていたけれど、ふと気付けば、私はとんでもない状況に置かれていた。

 ――見知らぬ男性と、いきなり同棲することになるなんて。


 相手は身の丈二メートルをゆうに超える、銀髪の長身。異世界の“魔王”と呼ばれた存在。

 本来なら怖くて震えていてもおかしくないのに、あっくんと過ごす時間は、不思議と恐怖より安心のほうが勝っていた。


 それに、私の中にあった「魔王」のイメージ――

 人間を苦しめ、恨まれ、勇者に討伐される……そんな恐ろしく冷酷な存在像から、あっくんはあまりにもかけ離れていた。


 どうしても気になって、私は思い切って尋ねた。


 「……あっくんは、どうして魔王になったの?」


 あっくんは少しだけ目を伏せて、静かに答えた。


 「余は……ただ、生まれつき魔力が強すぎただけだ」


 あまりにも強大な魔力を持って生まれたせいで、まわりが勝手に“魔王”と呼ぶようになったこと。

 争う気などなかったが、売られた喧嘩は買わざるを得ず、気付けば魔王として祀り上げられていたこと。

 世界を滅ぼそうなど、一度も思ったことはないこと。


 その声音には、どこか寂しさが滲んでいた。


 強すぎるというだけで、魔王にされてしまった存在。

 そう思うと、胸の奥が少し痛くなる。


 恐ろしいはずの魔王に対して、私は怯えるよりも先に――

 もっとちゃんと知りたい、と思っている自分に気付いてしまった。

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