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何処でも寝れる。何時でも寝れる。其れはある意味、とんでもないメリットである。少なくとも寝たくても寝られない。寝ないと体調を壊す人間にとっては。


俺に外出を制限されてから、家の中で大人しくしている事が増えた。

大抵は家事を済ませたあと、その辺に寝そべってスマホを弄る。其れから眠くるなると自分の部屋から羽毛布団を持ち寄って昼寝に興じる。しかし数分後にはまた起き上がり、スマホを弄る。

寝たのかと思えばそのような事はなく、すぐに起きてしまう様だ。

「なんだ。寝ないのか?」

「正確には寝れないんだよ」

鏡花は羽毛布団を掴んだまま、ややうんざりとした声でそう言った。てっきり寝る事を辞めた故に、羽毛布団を自分の部屋に戻すのかと思ったら、そうではないらしい。

意外と……繊細なのだと再実感する。普段から俺にダル絡みをし、手酷いしっぺ返しを喰らう癖に、何を言われても動じないような、全肯定されるのを嫌がる様な、強靭なメンタルをしている癖に、体と神経系はやはり人より脆く出来ている。

鏡花はいじけた様に、不貞腐れた様にまたその場に寝そべると、羽毛布団を被って再度眠る努力をしにかかる。しかし数秒で起き上がり、今度は俺の横に腰掛けた。

「寝れそうと思って寝る癖に、意識が覚醒するの。で、ああだこうだ宥めに掛かるけど、瞼を閉じて居られなくなって起きる。その繰り返し。今は……夜しか寝られない」

寝れないと……体を壊す。以前の苦しげな動悸息切れに比べればマシにはなったが、それでもやはり風邪を引く。完全復帰には至らないのである。

不思議なものだ。不眠症の人間は寝られないと分かってはいたが、寝なくても寝られないとは思わなかった。其れがそんなにも尾を引く事になることも。

「はぁ……嫌になるな。睡眠薬に手を伸ばさないと駄目なのか……。そうでも寝られなかったら、私は一体どうなるんだろうね」

そう言って、ソファでごろ寝を始めた。頻繁に蠢くその姿から、やはり寝られはしないのだと知った。

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