狭間で俺が出会ったのは、妖精だった

紫羅乃もか

序章 妖精に導かれて

プロローグ :どうして、こうなった

 ───柔らかな布の感触。

 すぐ隣で、規則正しく呼吸する気配。


 暗闇に目が慣れると、整った横顔がすぐ近くに浮かび上がった。

 白い肌に長いまつげ。吐息がかすかに頬に触れる。


 ……いや、近い。近すぎる。

 しかも、腕が絡まってる。


 部屋は静かで、聞こえるのは彼女の呼吸と、自分の心臓のやけに大きな鼓動だけ。

 時計の針の音も、風のざわめきも、全部遠くに感じる。


 寝れない。落ち着けと言い聞かせても無理だった。


 気づけば、隣で寝ている彼女と同じベッドにいた。

どうしてこうなったのか、理由はよく分からない。


――いや、落ち着け、俺。少し整理しよう。


ここ数時間の出来事を思い返す。

朝、いつものように家を出て、幼馴染の快人や華美と森へ向かい……あの不思議な歌声に導かれて、森の奥へ。

その先で――目の前の少女を見つけ、抱き寄せたこと。


……ああ、思い出すだけで信じられない。

だって今、俺は――妖精と同じベッドで寝ているのだから。


 横を見る。

 閉じていた瞳がゆっくりと開き、青い光を宿した視線がまっすぐ俺を捉えた。


「……れん?」


 甘く柔らかな声に、胸が跳ねる。

 絡まった腕、触れ合う肩、吐息の温もり――全部が現実を教える。


「……おやすみ」


 その一言だけで、心臓が跳ね上がる。

 逃げられないし……逃げる気も薄れていく。


(いやいやいや……落ち着け俺! 

 こんなはずじゃ——)


 温もりが深く触れる。

 混乱、鼓動、体温。全部が胸の奥で渦を巻く。


 どうしてこうなったのか。

 何が俺をここまで運んだのか。

 考えようとしても、答えは霧の中だ。


 ただひとつ確かなのは——

 これは夢じゃなく、れっきとした現実だということ。


 ほんとに、どうしてこうなった!?


 ーー話は、少しだけ遡る。

 

 


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



《作者から……》


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