【円城塔先生へ】亀頭倶楽部奇譚!!!

立花 優

第1話 種蒔き

 この話を、実話と捉えられるのか、又は、作者の妄想か、幻想か、せん妄か、の判断は、読者の皆さんに全部お任せしよう……。


 この私の話を、先ずは聞いて頂きたい。


 その時、この私は職場にて、20代後半の、既婚で女盛りムンムンの数人の女性職員達を前に、昼休みの時間、難しい医学的・法律的講釈をしていた。

 勿論、この私は、医師では無いし、法曹関係者でも無い。

 だが、この役場の入試試験で過去最高得点で合格した事は、皆も、職員採用課から薄々聞いている。


 その職場では、超秀才並みとして、皆に認識されているこの私の話、つまり、医学的、性的、法的な講釈をである。

 女子職員達は、耳を子象のダンボのように広げて真剣に聞いていた。


 この私は、男性器の話を私の人指し指に例え、 

「なあ、この人指し指を、旦那のアレに例えるとだなあ、この指先の部分は「亀頭」と言ってなあ、まあ、「先っちょ」なのだ。

 で、この人指し指をアレに例えればだよ、この指一本を奥まで突っ込んで、初めて、強姦罪(当時)の既遂となるのだよ。

 これは、判例でも、ちゃんと書いてあるのだよ」


 まあ、現在なら、即、セクハラで懲戒だろうけども……。


「じゃ、立花主任、「先っちょ」だけなら、強姦罪にならないの?」と、興味深々の人妻職員らが聞いてくる。


「ああ、この事に関しては、自由国民社の『法律の抜け穴全集』にも、キチンと書いてあるのだよ。

 処女の女性に、男根を突っ込んだ犯人は、体液を出す前に抜き去った為、男根でなく両指を突っ込んだと言って逃げきって、強姦罪の既遂にはならず、強姦未遂だったか、強制わいせつ罪で逃れた例が、実際に載っているんだよ」


「それでは、立花主任、結局一体何を言いたいの?」と、ここで私が狙っている、職場一可愛いと言われる、深川恭子が聞いて来る。


「簡単だよ。要するに、アレを奥にまで入れずに、「先っちょ」だけ入れれば、強姦罪の既遂は、刑法の犯罪構成要件には、該当しないんだ。

 つまり、逆に言い換えれば、「先っちょ」だけなら、強姦罪にもならず、また、既婚者であっても、完全な不倫にはならないんだよ……法的にはね」


「それって、立花主任のみの、自分に都合の良い解釈じゃないの?」


「そうかもしれないが、この俺は、あくまで法律的な話をしているだけだよ」


「それと、アレを入れる前に、夫のアレの「先っちょ」、少し濡れているけど……あれは、一体何?」


「それはねえ、医学的には、カウパー線液と言って、アソコに挿入しやすくするための、いわば自然に出る潤滑液なのだよ」


「結局、立花主任さんの説明によれば、「先っちょ」だけ入れても、強姦罪にも、もっと言えば不倫にもならないと言いたいのね?」


「そ、そ、その通り、正に恭子ちゃんの言う通りなのさ」


              ◆   ◆   ◆


 さて、私が、大学を出て、とあるファッション・メーカーに就職したのは、今から何と50年以上も前の事だ。

 一応、東証一部上場企業。現在で言う東証プライム企業である。

 だが、その会社は、最初から希望していた訳では無い。


 いくら二流私大とは言え、大学トップクラスの成績で当該大学を出た私は、在学中から、大学の学生課の職員らに一目も二目も置かれていた。

 もう少し前の卒業生であったらばだ。

 私が入社したかった一流企業、例えば、「N生命」「T海上火災」「I商事」「N社(現P社)」等々に、楽勝で入れたのだが、不運な事に、既に第一次オイルショック、狂乱物価後の時代であって、あの高度成長時代はもう終わっていたのだ。

 私が、就職活動を開始した時、東証一部企業の1/3は採用無し。残りの1/3は大幅入社削減、最後の1/3のみ例年通りの採用状況であった。

 この年には、日本10大総合商社の一つが倒産した程だ。


 これでは私の卒業した二流私大では、どう頑張っても手が出ないのだ。

 当時、私大の日本最高峰のK大学の学生が、やはり私と同じように大した企業に就職出来ず、卒業前に自死している。その当時は大きなニュースになったものだ。


 このような経緯を経て、そのファッション・メーカーに入社したこの私だったが。


 まるで、後日放送されたテレビ・ドラマの『東京ラブストーリー』のような、開放的な社風を期待して入社したのだが、現実は大きな繊維問屋に勤務している感じがした。

 「番頭はんと丁稚どん」、の世界感だった。


 これに嫌気がさして、半年も経たない前に、辞表を出していた。


 結局、地元の役場に舞い戻ったのである。


              ◆   ◆   ◆


 ここで、最初に出会った女性が、深川恭子だった。


 私が、地元の役場に舞い戻った時、ある出先機関にいる、それはそれは可愛い女性と知り合ったのだ。

 彼女は、歳の頃、20歳前後に見えた。出先機関でのバイト勤務だと聞いた。

 私の勤務している役場の本庁から、車で5分で着く。

 そこで、週に数回以上も、昼休みの時間に、彼女の職場に会いに行った。

 

 深川恭子の良い所は、何時行っても、嫌な顔を見せない事だった。

 勿論、彼女の可愛さは、職場内でも相当に有名だ。この私以外にも、数人の男性職員が会いに行っている事も知っていた。

 

 深川恭子は、小柄だったが、その瞳はあたかも子リスのように円らで、顔を見ているだけで、吸い込まれるように感じられる。

 そして男性の心をくすぐるような、独特の雰囲気を持っている。


 彼女とアレをしたら、多分、麻薬や違法薬物中毒のように、彼女にハマってしまうような、そう言う不思議な魅力を持っていたのだ。


 現代で言えば、ゾンビ麻薬と言われる「フェンタニル」を、女性に置き換えたような感じだったのである。


 




 

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