第2話
その日の夕飯はハンバーグだった。
うちの両親は共働きだったため、母親が作っておいてくれたハンバーグが冷蔵庫の中にあり、それを温めて食べた。兄弟は、年の離れた兄がいるが、兄は実家を出てひとり暮らしをしていたため、家にいるのはぼくだけだ。
しんと静まり返ったダイニングでひとり食事をするのは、本当に味気ない。だから、テレビを付けて音だけでも賑やかにしておく。夕方は見たい番組もなく、ただ夕方のニュース番組を垂れ流しにしておく。
『続いては、生成AIの話題です。皆さんは生成AIを使ったことはありますか?』
女性アナウンサーが他の出演者たちに問いかける。
生成AI。いまはどこにいてもAIが付いて回る。ただ検索をしただけでも、検索結果の前にAIが検索した内容についての結果をまとめて教えてくれるし、SNSなんかでは生成AIが作成したアニメ画像なんかも流行っていたりする。最近だと、動画にもAIが進出していて、どれが本当の映像なのかわからなかったりしていた。
そういえば、ヨムカクでも生成AIのことが話題になっていたよな。ふと、そんなことを思い出す。
話題となっていたのは、生成AIによる小説執筆についてだった。
生成AIを使用して何十本もの小説を一気に書き上げて、その小説を大量に投稿したユーザーがいた。その小説はランキングを狂わせてしまい、多くのユーザーから反感を買ったのだ。
そして、運営は動いた。小説の大量投稿を控えるようにという通達と共に、生成AIを使用した場合はタグをつけるようにとユーザーに促したのである。
これはヨムカクだけに起きたことではなかった。様々な小説投稿サイトで同じ様に生成AI小説に対する処置が取られ、ユーザーたちの間で大きく話題となった。
「AIが小説を書く時代か……」
テレビに向かって独り言をつぶやいた時、雷に打たれたような衝撃がぼくの身体を走り抜けた。
AIが小説を書く時代……。そう、AIが小説を書けばいいのだ。何も自分で小説を書く必要はない。だって、ヨムカクの運営もいっているじゃないか。AIに小説を書かせて、それをタグ付けすればOKだって。何も自分ひとりで産みの苦しみを味わう必要はないのだ。ぼくにはAIというパートナーがいる。藤子不二雄先生のようなものなのだ。よし、やるぞ。AI小説を作るぞ。
食事もそこそこに、ぼくは部屋に戻るとパソコンの電源を立ち上げて、真っ白だったテキストエディタ―に向かって、いま自分の中にある全然まとまってはないアイデアを書き込んでみた。
あとはこれをAIに食わせるだけだ。AIに上手く小説を書かせるにはプロンプトと呼ばれる食わせる内容をしっかりと吟味する必要があるらしい。そういったことをまとめサイトで学んだ僕は、プロンプトをじっくりと考えながら、どうやってAIに小説のアイデアを食べさせようかと考えた。
しかし、僕はすぐに諦めた。面倒くさいという気持ちが勝ってしまったのだ。いままで様々なことから逃げてきた僕には逃げ癖というやつがついている。それは自分でも重々承知だったが、ここまで逃げ癖がついていたとはと、自分でも驚いていた。
「まあ、いいや」
僕はいままで書いたアイデアをそのまま、AIとのチャット画面へ打ち込んだ。
すると画面にロード中みたいな表示が出てくる。まるで本当にAIが試行錯誤しているかのような感覚になる。
しばらくしてAIがチャットに答えを返してきた。
『素晴らしい小説のアイデアですね。様々なアイデアが詰まっていたので、そちらを文章にしてみました』
そう答えたAIは僕の書いたアイデアを箇条書きにして返してくる。
いや、違うんだ。アイデアをきれいにまとめてほしいわけじゃないんだ。
僕はそう思いながら、さらにAIにチャットを返す。
「これで小説を作ってほしい」
『わかりました……』
またしばらく待ち時間がやってくる。
そして、小説の梗概のような文章が出来上がってきた。
おおー、これがAI小説か。僕は思わず感動してしまった。僕の書いたアイデアが小説になる。こんな画期的なことができるなんて。
「すごいぞ、すごい」
僕はパソコンに向かって声を掛けていた。
でも、小説の完成度としてはイマイチだった。もう少し、手直しの必要があるな。そう考えた僕はAIと会話するように、小説を微調整していった。
AIと会話すること1時間。ようやく、僕とAIのはじめての共同作業は終了した。
全部で8000文字のファンタジー小説が誕生したのだ。
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