【シリーズ小説】うしろの小夜子 1 光る刃
小松 煌平
第1話 プロローグ
「ガッシャーン」その音は突然起きた。
僕が振り向くと、コンビニの窓ガラスがすっかりなくなり、サッシは無残に曲がっている。
――何が起きたんだ?
商品棚が邪魔で下の様子が見えない。
「車?」
隣に立っていた店員が、そう呟いた。
――母ちゃんは?
おにぎりに気を取られていて、母のことは忘れていた。
母を探す。背伸びをしても見当たらない。
棚が倒れ掛かっており、回り込むしかない。
僕は、はやる気持ちをそのままに、窓に駆け寄った。
そこには車体を半分以上店に突っ込んだ、乗用車があった。
運転手はエアバッグに押しつぶされながら、呆然と前を見つめていた。
車体の下に視線を移す。
女性のか細い手が、タイヤの少し前から伸びているのが見えた。
見覚えのある服。
――母ちゃんの服。
僕は車体の下に潜り込んだ。母がこっちに顔を向け、目をつむっていた。
「かあちゃん!」僕は何度も、何度も叫んだ。
だが、母は瞼を開けることはなかった。
僕の家は母子家庭で、父の顔は知らない。
馬鹿でのろまなため、幼稚園でも、小学校でも、中学でもいじめられた。
でもそんな僕を、母はずっと愛してくれた。
母は僕のすべてだった。
定時制高校を二十歳で卒業し、遠くのねじ工場に就職した僕はゴールデンウィークに帰省した。
そして、母との大切な時間は、この日を境に奪われた。
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