第12話 光る刃

 次の日から特訓は始まった。

「お疲れさんです」終業のベルが鳴ると、掃除をしながら帰ってゆく工員を見送った。

パシンッ――後ろから何かで、いきなり頭を叩かれた。

振り向くと上村さんが、日誌を収めたバインダーを手に睨んでいた。

「残っても残業なんかつけねえからな」

「はい!」と返事した。

すると上村さんは、僕の下げた頭にバインダーを落とした。

 工員が全員退出すると、神部さんがそばに来てくれた。

「さあ、はじめようか」

「はい」僕はさっさと片づけを済ませ、買ってきたノートとペンを用意した。

「まずは準備と後片づけを憶えようか」

「はい」

僕の返事に、神部さんは微笑んだ。

 神部さんは、実演を交えながら操作を説明し、触る箇所にビニールテープで番号を振って行った。

僕は神部さんのスピードに合わせ、必死にノートに書き留めていった。

「じゃあ、一通りやってみようか」

僕はノートを見直した。

――え?

にょろにょろとした線が走っているだけで、何が書いてあるのかまったく分からない。

「……書き直そうか」神部さんは、苦笑いを浮かべている。

恥ずかしくて、頭を下げるしかなかった。

 結局その日は、一度だけセッティングと後片づけを確認し、特訓を終えた。


「この機械はね、僕が新人のときに初めて触った機械なんだよ」

訓練の終わりに、神部さんは機械を拭きながらポツリと呟いた。

「社長の親父さんが僕の師匠だったんだ。僕は覚えが悪くてね。それでも、辛抱強く付き合ってくれた。おかげで一人前の職人になれた」

神部さんの嬉しそうな顔に、僕も心を弾ませたが、同時に小さな不安が胸を過った。

――僕は一人前になれるのだろうか?


 工場の外は暗く、ぽつりぽつりと街灯に照らされた道は物寂しい。

「明日も練習するのかい?」神部さんが訊ねてきた。

「はい。そのつもりです」僕が頷くと、

「一歩ずつでいいんだ。頑張ろうね」と神部さんは微笑んでくれた。

「じゃあ、僕はこっちだから」

神部さんは僕の帰り道とは反対の方向を指さし、僕に背を向けた。

僕は、その背中に深くお辞儀をした。

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