第7話 出会い

 曽根は部屋に上がるや否や、ボストンバッグからビデオカメラを三台取り出し、一台は玄関に、他の二つは和室にセットした。

そして、唖然と見守る僕を尻目に玄関に立ち、スマホで部屋を撮影しはじめた。

「さあ、皆さん。ここがどこか分かりますか?――なんとここは、いや、名前は控えさせていただきますが、とても有名な心霊アパートなんです」

「ちょ、ちょっと待ってください。どういうことですか!」僕は慌ててそう叫んだ。

曽根は撮影を止め、じっと僕を見つめた。

「そうか。申し訳ない。僕が悪かった。確認するべきだったね。――撮影してもいいよね」

曽根はそう言って、にんまりと笑った。

「なんで撮影しないといけないんですか」

「みんなが見たいからだよ。みんな、不思議なことが好きなんだ」

僕の不満に、平然とそう答える。

「みんなって誰ですか?」

「みんなは、みんなだよ。SNSに上げるんだから、みんな見るだろ」曽根は当前のように言う。

「何も起きなかったらどうするんですか?」

曽根は僕のことを、じっと見つめてまた笑った。

「上げない。それだけだよ。――大丈夫、絶対出るって。だって、不動産屋が来た時に出たんだろ」

すると、曽根は突然表情を緩めて、手を合わせた。

「頼むよ。友だちだろ。いいよな。な、な。」

「ちょっと待ってください。僕、今日は汗をかいたので、シャワーを浴びて寝たいんです」

「しょうがないなぁ。いいよ。入って来なよ。その間、待ってあげるから」

「いや、そうじゃなく。帰って……」曽根は僕の口を手で制し、肩に手を置いた。

「大丈夫。僕は多少怪しく見えるかもしれないが、悪者じゃない」

曽根は僕の身体を無理やり動かし、背を向かせた。

「さっき、名刺を見せただろう。連絡先も書いてある。何だったら免許書も見せようか」

そう言って、僕の両肩に手を置き、じりじりと僕の身体を押す。

「いいからお風呂に入って来なよ。大人しく待っているからさ。お風呂はここかい」

曽根はそのまま、僕を脱衣所に押し込んでしまった。

僕はドアを叩いて、出してもらうよう懇願したが、曽根は戸を押さえて出してくれない。

「いいから、早く入りなよ!」曽根が大きな声で言った。

仕方がないので、さっさとシャワーを浴びることにした。


 脱衣所から出ると、部屋は静かだった。

何故か、バッグもビデオカメラもあるのに、曽根がいない。

「買い物?」部屋を見回し、そう思う。

外にいるのかもしれない――と玄関を開けた。見ると向かいの道路に人だかりができている。

気になって出てゆくと、人が増えていた。

人だかりのすき間から中を覗くと、曽根が路上に倒れていた。

彼は頭から血を流し、近所の人に介抱されている。

そばにはトラックが止まっていた。

――まただ。

何故かそう思った。

人々の声が遠ざかる。

僕は、混乱したまま部屋に戻る。

心なしか、空気が冷たくなったような気がする。

――いったい、なにがあったんだ?

どうすればよいのか分からない。

訳も分からぬまま、とりあえず頭から布団をかぶった。

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