2. デビュー戦の極限と違和感

パシフィック・オーバル・スタジアムの白すぎるナイター照明が、亮太の視界を焼き付けた。観客席の歓声が、まるで耳鳴りのように遠ざかる。ユニフォームの生地が汗で肌に張り付く。亮太は「神崎シュウ」のユニフォームを着て、深くキャップを被った。その帽子の影には、極度の緊張で引きつった、東野亮太の顔があった。


初回の守備。体が石のように固まる。


打席に立つ。マウンドから放たれるプロの剛速球に、亮太はついていけない。空振り、そして見逃しの連続。観客席からどよめきが起こる。


「(フォームを真似なきゃ。神崎選手はこうする。久我さんの指示を…)」


しかし、体が動かない。ベテラン投手に追い込まれた場面。亮太は、訓練で教え込まれた**「意図的なスイングの見切り」**でボール球をファウルにした。続く球。


「もういい!」


一瞬、心が叫んだ。神崎のフォームを捨てた。ただ、倉庫で培った瞬間的なパワーと、少年野球で培った本能的な動きが、偶然にも作用した。バットの汗ばんだ革の感触を強く握りしめ、振り抜いた。


カツン、と音が響き、打球はセンター前にフラフラと落ちるヒットとなった。


観客は「神崎選手の新たな打撃術だ!」と熱狂。 パイレーツの若きライバル強打者、ブレイク・サントスは、ダグアウトで静かに舌打ちした。彼は神崎のフォームを研究し尽くしている。


「あんな、素人みたいな当たりで…。何かおかしい。」

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