第6話 ナタリア・ヒンデル

私は生まれながらに恵まれていた。

それもあらゆる分野で。


最初は凄いと褒めてくれる両親の顔が嬉しかった。周りの人達は天才だって煽ててくれた。


でも成長するにつれて評価のされ方が変わっていった。そして、優しかった両親も何故か厳しくなってしまった。


私には分からなかった。

最初は好きでやっていた事が強制されてやる事に変わっていった。あんなに好きだった両親の笑顔も最後に見たのはいつだろうか。


だから恨んだ。周りを変える原因となった私自身の才能を。


「本当に吐き気がする。」


婚約が1桁から上は50歳まできていると。意味が分からない。本当の私なんて誰も知らないくせに。


でも今更普通の生活を送ろうなんて無理ってことは私が一番分かってる。


「リア行くわよ。今日はお披露目会だわ。」


ナタリアは笑顔を作ろうとしたが無理だった。心の底から笑顔になったのはいつだろうか。


「分かりました。お母様。」


ナタリアの顔は酷く悲壮的だった。


-パーティ会場-


「ナタリア様、ぜひ私と」


「いやいやここは私が」


「貴様なんぞナタリア様には似合わん。ここは私が」


会場に行った途端にこれだ。本当の私を見ない愚かな人の集まりだ。だから私の返答は決まっている。


「ごめんなさい。あなたたちには興味無いの。」



◆◆◆


「はぁ。本当につまらない。何が楽しくてこんなところに来なければならないの。」


私は会場の隅っこで紅茶を飲みながら失意に暮れていた。


「ねぇ。どうしたの?そんなところで。」


一人の少年が私に話しかけてきた。はぁ。本当に吐き気がするわ。


「何?用がないなら話しかけないで頂戴。」


私は吐き捨てるようにそう言った。

だが、その少年は続けて言う。


「用は無いけど、何をしているのかなって。単純な興味でかな。」


「そんな事で話しかけてきたの?」


私は貴族の中では有名だ。いい意味でも悪い意味でも。話しかけても嫌われたく無いから多くの人はすぐに身を引くはずだが、この少年はそんなことお構いなしで喋り続ける。


「そんなもんでしょ。人間の原動力なんて。で、どうしたの?今ならこのリベルくんが何で

も聞いてあげるよ。」


聞いてあげる?私に優しくしてくれる人なんていつぶりだろう。


「あなた……本当に変わってる。」


「あぁ、よく言われるよ。ゴードン家の次男は変わり者ってな。あんま気にして無いけど。」


あぁ。この人がそうなのか。ゴードン家の変わり者がいるという。人によってはうつけ者という人もいるぐらいだ。


「変わってるって言われて嫌じゃ無いの?」


私は気がつけばリベルに問いかけていた。気になっていたのだ私と似た境遇の人が自分の事をどう思っているか。


「全く嫌じゃ無いって言ったら嘘になるけど。言われても別にふーんぐらいの感じだな。」


何でなの?なんでそんな事言えるの?悪口を言われているのよ?


「どうして?気にならないの?」


少年は心底不思議そうな顔で答えてくれる。


「逆に聞くがそこまでマイナスか?変わっているというのは。ある種ソイツの個性でもあるだろ。まぁ、所詮は他人の評価だし、自分のことを一番分かってるのは自分だからなぁ。気にする理由が分からん。」


そんな考えは良いのか?私が悩んでいたのが馬鹿みたいにじゃないか、そう思ったら不思議と笑っていた。


「あははっ!あなた本当に変わってる。」


あれ?私…笑ってる?いつぶりだろうこんなに楽しい気持ちになったのは。


「そこまで面白い所あったか?」


リベルは私の事をちょっとおかしいみたいに見ていたけど別に関係ない。だって気にしなくて良いって彼が教えてくれたから。


そして私は手を差し出した。


「……私はリア。よろしくねリベルくん。」


私はこの時この人リベルくんに相応しい人になろうと決意した。

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