夜半の少女は中二病に目覚める

@Aoi69595

第1話 少女は目覚める

女の子が生まれた。それは春の夜のことだった。

名前は、春世 澄華 苗字も相まってとても綺麗な名前である。

そして春世という苗字は、とある名家、そして大金持ちであった。

使用人を多く雇い、家と言うより屋敷、いや豪邸というのが正しいのだろうか。

とにかくそれほど大きな家であった。



5年がたった。女の子は美しく育った。

夜空のような黒髪で光に当たると青っぽくも見える長く美しい髪、黒曜石のように黒い引き込まれそうになってしまうほど美しい宝石のような目、白く陶器のような肌。

薄く、しかし桜の色のように美しく紅が引いてあるかのような唇。


凛々しく、しかし蠱惑でミステリアスな雰囲気を持った、そう人形である、まるで人形のように美しい少女になった。


好奇心旺盛で賢くスポンジのように学問やマナーを吸収していった。

両親たちはとてもとても喜んだ。

美しく、賢く、幼いのに気品さえ感じさせる少女が産まれたことに。

そして溺愛した。


しかし、好奇心旺盛というところが原因だったのか、はたまた誰かがライトノベル (しかもバトルあり、暴力表現あり、主人公最強もの、そしてハーレムものだった!) を澄華の手の届くところに置いていってしまったのが原因だったのか、

いやどちらも悪いのだろう。


澄華は普段見ないような本につい手を伸ばしてしまった。


本来なら持ち主を探して屋敷中を歩き回っていただろう。

しかし澄華の好奇心がそうさせなかった。自分の前に知らないジャンルの本が置いてあるのだ。

流石に5歳だったから漢字が読めなかった。しかし使用人に漢字を聞いたり辞書を使ったりして、その本を読んでしまった。解読してしまったのである!!



澄華は妄想にふけった。

主人公のように夜の街を駆け回ったり、悪いやつを秘密裏に倒したり、変装したり、そんな妄想に。

またヒロイン達にも憧れを抱いた。

澄華は特に、普段は無口だが戦ったりするともよすごく強いそして普段何しているか分からないタイプミステリアス美少女タイプのヒロインにハマったのである。


しかし澄華は、それを表に出すことをしなかった。これもひとつの原因であろう。

ネットでパルクールというものを知り親に


「いい運動になるから。体を動かないと健康になれない。」


などの理由で親にパルクールを習わさせてもらったり


「淑女の嗜みとして」


という名目でピアノを習ったりした。


そして護身術も


「悪い人がいるかもしれない。護衛が居ない時でも安心して過ごしたい。」


という名家ならではの理由で習わさせてもらった。



この頃からだろうか。澄華はかなり深刻な厨二病患者になっていたのである!


しかし言い方を変えれば自分の憧れる自分になるために頑張るというまぁ立派な大義名分があるわけであり親もライトノベルにハマったことを知らず、「うちの子は偉いし賢い。」というわけで相も変わらず溺愛されていた。



そして7歳の時、弟ができた。血は繋がっていないが。

どういう訳か、彼の両親が亡くなりその片親の兄弟、つまり彼の叔父さんが澄華の父であった。そうしてうちに引き取られてきたのである。

澄華の母も快く彼を受けいれたが、彼は心を開かなかった。


しかし澄華にとってそんなことは紙屑、いや塵か、否知らない野良猫のノミと同じくらいどうでも良かったのである。


そもそも澄華から見たら最近私の弟になった少年、いつか話したいな程度だった。

澄華は習い事で夜ご飯を家族と共にしなくなったし習い事の練習で時間が無い。

いつの間にか澄華の習い事が増えているのである。


パルクール、ピアノ、護身術、そろばん、空手、弓矢、剣道、ボクシング、お絵描き教室、ヴァイオリン、華道、将棋、新体操、テニス、陸上競技、ロボット作り、合気道、

少林寺拳法、塾、茶道、


という気の滅入るような習い事をしているため時間がなかった。

そして、弟になった彼も幼稚園に通っているため時間が合わない。

やりすぎである。小学校から帰ってこれはかなりというより尋常ではない。


親も心配しているが本人がものすごいやる気すぎて何も言えないほどであった。

そして各習い事の宿題、学校の宿題をやりきるのである。


しかしある日、当然、澄華は体調を崩した。

親は習い事で忙しかったのだろうということで「習い事をどれかやめなさい。」

というのであった。


澄華は悩んだ末

「ヴァイオリンと空手と合気道とロボット作りをやめる。」

と言った。

正直、ヴァイオリンは才能がなかったという悲しいことがわかった。

また空手と合気道は護身術に似たようなものがあるので泣く泣く辞めたのであった。

ロボット作りはそこまで楽しくないしエンジニアになりたい訳ではなかった。


こうして暇、ほんとにわずかな時間だがができると澄華は弟に話しかけた。


「あのさ、貴方の名前忘れちゃったから名前を教えて。」


かなり屑な質問であったが、臆せずに言うのが凄いところである。

だが弟の方は驚きで固まってしまっている。そりゃそうだ。


「あ、え、あ‥僕の名前はそうまです。奏でるに真面目の真です。」


「ふぅん。ねぇ貴方好きなものは何?」


唐突だしあんま喋ったことの無い澄華が怖いらしい。


「‥‥‥‥わかりません。僕が何が好きか、分からないんです。」


澄華はとあることを考えついた。自分ではあまり買えない漫画(恥ずかしいし親に言えないし)を弟に買わせればいいのでは?という考えだ。


「へぇ。じゃあさ、本好き?」


「え?まぁ絵本は好きです。」


澄華は少し落胆したがあと何年かしたら漫画を勧めて沼らせ布教されるだろうから仕方ないなーという感じで漫画をゲットしてやろうと考えていたのである。末恐ろしい。


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