第二十八話_ビオラvsES-077、ウンチを巡って争う

「ここですか? ご友人の地獄蟻さんの巣は」


「はい、そうです」


 ビオラの視線の先には岩場に開いた相変わらずの小さな入り口と、以前に増して多くなった土石の山々が映った。


 ―― めっちゃ掘ったなぁ。


 この中はいったいどこまで続いているのかと思いつつ、ビオラは入り口に顔を突っ込み「ナナちゃーん! 商人さんたち連れてきたよー!!」と叫んだ。


 すると「待って、今行くー!」と返事が聞こえ、しばらくすると巣穴からES-077が「商人さんだと?」と言いながら出てきた。


「うん。 ナナちゃんちの分の食料を売ってもらおうと思って。少しの量だけど干し肉取り扱ってるって」


「おぉ! そうか、助かる!」


「初めまして、ナナ様とお呼びすればよろしいでしょうか? わたしはセスペス王国の商人マロニと申します」


「初めまして地獄蟻の女王陛下、アネモネ王国の商人プリムラでございます」


「うむ、妾はスーパーアルティメット・ナナチャン大帝国の女王、偉大なるES-077である。妾は寛大にして親しみのある女王であるから、お前たちは特別に妾のことナナ様と呼んでもよいぞ」


 ―― あれ? 国名変わってない??


 珍しく女王扱いされ、調子に乗ってふんぞり返るES-077。


「早速ですがナナ様、食料が御入用とのこと。 干し肉ですが、現在お売りできる量ですと、金額にして銀貨十五枚分ほどですが如何でしょう?」


「うむ。 …………ビオラよ。か、金を貸してくれ」


「……だと思ったよ。 悪いけど、わたしもそんなに現金持ってないよ」


「なんだと! ならどうして商人を連れてきたのだ?!」


「どうしてって…… わたしのお金を当てにしないでよ。 いや、だからね、ナナちゃんが使わない物を売って、それで買えばいいじゃない」


 ビオラの提案を聞いて、まるで天啓を得たかのように驚いた顔をしたES-077は「な、なるほど。 賢いなビオラ」と褒める。褒められたビオラも「ふっ、まーね」と満更でもなさそう。


「というわけで、ナナちゃん。 何か売れるものない? 不用品とか」


「無いな。正直、妾は何も持ってないぞ」


「…………マジで?」


「以前来たときに見ただろう? 妾が持っていたのは当座の食料と罠が四つだけだ」


「た、確かに……」


 言われてみれば確かに、最初にビオラが訊ねたとき、工事中の奥を除いて小さな一部屋だけであり、その巣穴の外には罠と食べカスしかなかった。保管するような場所もなく、どこかに何かを仕舞っていたということもなさそうであった。


「え? あれから数か月経ってるけど、進展なし?? 何してたの?」


「ん? 掘ってた」


 腰に手を当てて当然のごとく言い放ったES-077にビオラはプルプルと震えて怒りをぶつけた。


「アホかぁっっ! ちょっとは自活するための努力しなさいよ!」


「アホとは何だ! 妾は大帝国の主として地下に壮大な都市を作っていたというのに!」


「アホはアホでしょっ! それよりも何よりも食べることが先でしょうがっ!! こっちは生活力が無くてちょっとトボけたナナちゃんを助けようと思って一生懸命だったのに! アホかもしれないと思ってたらホントにアホだった! ナナちゃんなんてもう知らない!! でもちょっとその壮大な都市ってのは興味あるから今度見せて!」


「なんだとっ、ビオラ! いいよ、いつでも遊びに来て!」


 怒鳴り合い、互いの頬っぺたを両手で摘まんでみょ~んっと伸ばし合う二人に、慌ててプリムラが「お、お二人とも落ち着いて!」と割って入る。ビオラとES-077は荒い息をしながら距離を取った。


「と、とりあえず何か探そう、ナナちゃん」


「とりあえずと言われても…… あっ!」


 何かを思いついた表情のES-077に希望を見たビオラは「何かあるの?」と顔を明るくさせた。


「コンポストの中身! あれって魔力たっぷりの肥料だよな」


「待った! それは所有権を主張するわ! あれはわたしが作ったものよ。花粉を混ぜて肥料作ってるのもわたしじゃない!」


「何だと! だが元をたどれば妾のウンコだぞ! 妾のものだ!」


 再び顔を突き合わせて怒鳴り合う二人を、これまた再びプリムラが「まぁまぁ、落ち着いて」と止めに入る。そこへマロニが「あのぅ……」と遠慮がちに口を開く。


「こちらの石の山、売っていただけますか?」


「「んんっ??!」」


 変な声を出しながら二人は驚いた表情でマロニを見る。


「これ、鉄鉱石ですよね? あちらは石炭のようですが」


「む、確かに何となく種類別に分けてあったが、そうか鉄鉱石だったか」


「何となくで石の種類って分かるの?」


「まぁ、本能?」


 腕を組みながらコテっと首を傾げてES-077は言う。


「調べてみないと何とも言えませんが、見た感じでは質も良さそうです。 どうです? 干し肉の代金分だけでも売ってみませんか?」


 鉄鉱石を一つ手に取りじっくりと観察しながらマロニが言うと、「ん、いいぞ。売ってやろう」とES-077は胸を張って返事をした。


「ありがとうございます。 しかしナナ様、鉄鉱石も石炭もあるのですからご自身で刃物など製作されたほうが高く売れますよ? 特に、地獄蟻の鍛えた武器や防具には魔力がこもると聞きます。大きさ的に他の種族は使えませんがコレクションとしては珍重されているようです。 ナナ様もご自分でお作りになられた武器で外敵から巣を守っているのでは?」


「む? そうなのか。まぁここには外敵らしい外敵もいないしな。 それに、悪いが妾は産まれてちょっとしたら捨て―― じゃない、独り立ちしたからそういったことを教えてくれる人が居なかったのだ。工房を見学するのは好きだったが作り方自体は知らんぞ」


 何となく事情を察したマロニは少し複雑な表情をして「左様でございますか。では、今回は干し肉の代金分だけ。 また寄らせて頂いた時にそれなりの量を買わせて頂きます」と言ってES-077の生い立ち話を流し、商売の話を進めた。


「うむ! そのときは肉をたくさん頼むぞ」


「かしこまりました。 仕入れて参りますね」


 商談が成立し、マロニは満足そうな笑顔でペコリとES-077に頭を下げた。


「と、いうわけだビオラ。 なんとか肉も買えたし、欲しがっていた妾のウンチはお前にやろう!」


「ちょっとナナちゃん! 言い方っ!」


 商人とのパイプを手に入れ、ひとまず当面の食料危機を回避したES-077であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る