第二十四話_ES-077、子供を見せに来る
勉強部屋を覗いたビオラは「イクシア~」と勉強机に向かう娘に声をかける。
「はい、お母さま。どうされました?」
分厚い本からか顔を上げてクルリと振り返ったイクシアはコテっと首を傾げる。立ち上がって数日、人間の感覚からすると精神的な成長の早い妖精蜂であるイクシアは口調もしっかりとしてきた。しかし肉体は四センチ五ミリくらいの幼女。もう少し大きくなるかもしれないが働き蜂は成人しても平均的な身長は六~七センチ程度である。
「今日もお勉強? 楽しい?」
「はい、楽しいですよ。 あ、蜜と花粉の採取は終わりました。 あとトイレの掃除もしておきましたから。それとコンポストが一杯でしたので出来上がった肥料を倉庫に移しておきました」
ニコッと笑顔で事務連絡をスムーズに済ませる娘を見て「お、おっけ~、ありがとう」と言いつつビオラは戦慄する。
―― しっかりし過ぎてるっ!! ホントにわたしの子??!
そう自分で思うのもどうなのかと思うビオラであるが娘が頼もしくもあった。
「あ、勉強忙しかったら後でいいんだけど。イクシアの作業服作ってみたからちょっと合わせてみてくれない?」
「ほ、ホントですか?!」
目を輝かせてガタっと椅子から立ち上がったイクシアは嬉しそうに飛んでビオラのもとに来る。
「勉強はいつでもキリをつけられますので、今すぐに!」
「うん、じゃあ寝室で着替えてみようか」
「はい!」
作業服に着替えたイクシアは嬉しそうに飛び上がってクルクルと回ってみせた。
「装具点検、ヨシ! ご安全に!」
そして喜びのあまり魔法で全身にバフをかけるイクシア。
「ありがとうございます! お母さま」
「うん、サイズは問題ないみたいね。 いま普段着とパジャマも作ってるから」
「ホントですか?! お母さま、ありがとうございます!」
ギュンッとビオラに距離を詰めて礼を言うイクシアにビオラは「お、おぅ……」と後ずさって「布はオババに沢山もらったからね」と言う。「オババ?」と首を傾げる娘を見て「そういえば会ったことなかったか」とビオラは口にする。と、その時。
「おーい! ビオラー!」
「ん? ナナちゃんかな?」
「ナナちゃん?」
「あれ? ナナちゃんにも会ってなかったか? そうか、だいたいイクシアが仕事終わって勉強してるときに獲物を取りに来てたのか」
「獲物って、お花畑に設置されている罠に掛かってるイグアナですか?」
「そうそう。 わたしたちのお花畑の天敵イグアナを食べてくれるお友達よ。紹介するから付いておいで」
母親の友達に紹介されると聞いてイクシアは緊張し、「は、はい!」と応えてビオラの後を飛んだ。
「ふふ~ん、ビオラよ! これを見よ!」
両手を腰に当てて胸を張っているES-077の背中を見たビオラは驚いて「えっ?!」と声を出す。ES-077は背中に三人の赤ん坊を背負っていた。
「産んだの?! 三人も一気に??」
「そうだ。 どーだ、ビオラよ。驚いたか?」
「うん、驚いたけど…… 大丈夫なん?」
「大丈夫って、何が?」
よく分からないといった表情のES-077の背で三人の子供はぎゃぁぎゃぁと泣いている。
「あの、こちらの方がお母さまのお友達ですか?」
「うん。 地獄蟻の女王のナナちゃんだよ。向こうの岩場に住んでるお隣さん」
「はじめまして、ナナさま。 ビオランド王国、オアシ巣の女王ビオラの働き蜂イクシアと申します」
礼儀正しくペコリと頭を下げて自己紹介をするイクシアを見てES-077は「お、おぅ、よろしく」と行ったあと疑問を口にする。
「ビオランド王国? オアシス??」
「はい、この巣の名前でございます。ナナさま」
「あ、そういえばナナちゃんにも言ってなかったか~」
うっかりしてたとポリポリと頭を掻くビオラにES-077はスススッと近づいて小声で言う。
「本当にお前の子か?」
「失礼なこと言わないで。でも気持ちは分かるわ、産んだわたしも信じられないの。 ところでナナちゃん、その三人の子供たちは名前なんて言うの?」
「ん? この子らか? さっき卵から産まれたばっかだからな。まだ決めてない」
ES-077はクルっと振り返って背中の子供たちを見る。さっきにも増して子供たちはギャン泣きしていた。
「めっちゃ泣いてるけど大丈夫?」
「ん~…… なんで泣いてるんだろ?」
「ねぇ、さっき産まれたばっかって言ってたけど、ホントに産まれてすぐに連れてきたの? ご飯あげた?」
「あっ! そうか、腹減ってたんだな」
今気が付いたようでポンッと手を叩くES-077。どうやら本当にすぐに来たようで子供たちはお腹を空かせていた。
「三人分のご飯あるの?」
「うむ、この前のオババの肉がまだ残ってるぞ。 それに日々ここで取れる獲物は保存している」
「こんな砂漠で保存って、生肉って腐ったりしないの?」
「ある程度は干し肉にしてるし、貯蔵部屋は結構地下に掘ったからな。部屋は割と冷えてるぞ」
「そうか、なら大丈夫そうね。 それよりも早くご飯食べさせなさいよ」
「うむ、そうだな。 じゃあまた来るぞ」
そう言ってES-077はギャン泣きする子供たちを連れて帰って行った。
「お母さま。 変わったお方ですね」
「そうね。 そういう理解でいいと思うわ」
―― いや、ホントにナナちゃんに子育てとか大丈夫か? それも一気に三人も産んで……
心配そうな目をES-077の背に向けるビオラであった。
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