第四話_ビオラ、反省する

 一瞬動きを止めてしまったビオラは、再起動するとバッと箱の中を覗き込んで叫ぶ。


「団子ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」


 花粉団子が入っていた大きめの箱の中は空っぽになっていた。


「マズい! ヤバいヤバいって! 食料がぁっ! 食べ過ぎたぁっ!!」


 パニックになったビオラは木箱の周囲をブンブン飛びながらあたふたする。


「落ち着け! 落ち着けビオラ! 何か、何かない?!」


 慌てて木箱の中を漁るビオラは、しばらくすると「あったぁ!」と喜びの声を上げた。


「蜂蜜! 蜂蜜があったよぉ。 ありがとう、お母さん!」


 蜂蜜の入った瓶を掲げ持って、母に感謝の念をビオラは飛ばす。


「これだけあれば数日は持ちそう。 でも何とかして食料を増やさないと!」


 ビオラは周囲を見渡しながら「お花! 蜜採取! 花粉採取!」と叫びながら飛び回る。しかし周囲は岩場が見えるだけの一面の砂漠である。ぺんぺん草すら生えていない。


「……え? ちょ、詰んでませんか、お母さん?」


 だからこそ移動すると思ってその場所を選んだのよ、という母親の嘆きはビオラには届かなかった。

 絶望に肩を落とすビオラだったが、すぐさま「そうだ!」と何かを思いつき木箱のもとへ飛んで戻って中を漁る。


「あった! 花の種!」


 布製の袋をかかげるビオラは満面の笑みである。


「しかも、わたしの大好きなバラの花もある! お母さんったら分かってるぅ! よしよし、これを植えて蜜の採取よ。植えるときに魔力をこめれば育つスピードも早いし、それまでは何とか残りの蜂蜜で――」


 しかしハッとしてあることに気が付いたビオラはシュルシュルと高度を落としていき膝を折ると両手を地に着ける。


「砂地やん…… 植物育たんやん……」


 魔力を栄養の主とし、ある程度育ってしまえば環境の変化などに強い魔法植物は別として、この砂地では普通の植物は育ちそうにない。


 しかしそんなビオラは再びハッとする。


「そうだ! ミニ世界樹の周囲! どうなってる?!」


 ビオラは昨日植えたミニ世界樹のもとへと飛んでいく。そして彼女は「おぉ!」と歓声をあげた。


 ミニ世界樹の根元からほんのわずかな領域だが、地面が砂地ではなく茶色の土に変化していた。まだまだ肥沃とはほど遠い土の質だったが何とかギリギリ花の種を植えられそうであった。


 ビオラは早速と、バラを含めた複数の種を植えていく。


「でもさすがにちょっとこれだけじゃ足りない。 どうしよう?」


 オロオロしながらウロウロと飛び回るビオラは上空から岩場を見て「あっ!」と声をあげた。


 岩場の陰、岩に囲まれるようになっていて風で飛んでくる砂から守られている場所を発見する。その地面は砂地ではなく、痩せて固そうであるが土であった。


「助かった…… マジで助かった……」


 色々な意味で泣きそうになりながらビオラは岩場の陰にも花の種を植え終える。しかしこの場所はミニ世界樹の近くではないため、魔力による成長の補正がない。


 ビオラは花の種を植えたばかりの地面に、木箱から魔力が籠った肥料を持って来て撒き、更には自分でも手をかざして飛び回りながら「早く育て~、早く育て~。 肥料散布ヨシ、ご安全に~、ご安全に~」と魔力をばら撒いた。


「ふぅ~、これでよし、と。 魔力をたくさん使うとお腹減るなぁ」


 汗を拭ってそう言うと、ビオラは木箱に飛んでいき蜂蜜の瓶を取り出すとゴキュゴキュと喉を鳴らして蜂蜜を飲み、またまたハッとする。


「……ダメじゃん、飲んじゃ」


 魔力の消費が食料の消費にも繋がることに気が付いたビオラは瓶の蓋をして蜂蜜をしまうと昨日作った巣に飛んでいく。

 ペタペタと形を作っていた段階ではクリーム状だった壁や床は今はすっかり蜜蝋として固まって丈夫になっていた。


「しばらく大人しくしてよう。 花が育つまで、とにかく消費を抑えないと」


 何もない部屋にビオラはゴロンと転がる。


「固い…… ベッドが恋しいよぉ……」


 悲しそうに呟いたビオラの瞳がジワッと湿る。


「でもベッド作るにはクリーム吐かないといけないし、クリーム吐いたらお腹へるし…… なんも出来ないじゃん。 それにお布団。荷物の中に綿と布ってあったっけ?」


 はぁ~、と溜息をついたビオラはゴロンと固い床を転がる。


「……なんか、独り言増えたなぁ」


 ―― 寂しいなぁ……


 冷たい床が砂漠の陽光で火照った体を冷ます。と、同時にビオラは頭も冷えたようだった。騒いで体を動かすことで、あまり考えないようにしていた事が頭の中をよぎる。


「こんなことなら、怠けてないでちゃんとしてるんだった……」


 ―― 頑張ろう。寂しくない、賑やかな巣にしよう。


 反省を思い、涙の溜まった瞳を閉じたビオラは眠りについた。

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